大野桂の算数熱中授業づくり
わかった! 楽しい! そんな子どもの声が教室に響く算数の授業をつくりたい。 発問、板書から子どもの意見の取り上げ方まで、学級全員を熱中させる工夫やアイデアを大公開!!
大野桂の算数熱中授業づくり(11)
「同じ形」ってどういうこと?(6年「比」)
【視覚】を重視した授業づくり
筑波大学附属小学校教諭大野 桂
2014/4/25 掲載

熱中授業づくりのポイント

  1. ずれを生じさせる問題提示
  2. 視覚を通して理解を深める比較検討

 「比」の導入で、ドレッシングを素材とする授業がよく行われます。例えば、酢2カップとオイル5カップでつくったドレッシングと同じ味の様々な量のドレッシングをつくろうというもの。このドレッシングは「比」の概念形成を図るにはよい素材なのですが、1つだけ問題点があります。それは、同じ味であるかどうかの判断を味覚に頼るしかないということです。つまり、いくら数値上同じであっても、それを検証するには曖昧な味覚に頼るしかないので、子どもにとって実感の伴った理解になりにくいのです。概念形成の導入では実感の伴った理解は欠かせません。では、どうすれば実感の伴った理解ができる「比」の導入授業ができるのでしょうか?

 味覚では同じであることを検証しにくいという問題点を考えるとき、視覚で検証するという代替案が頭に浮かびます。そこで、図形を比の導入の素材として用いることを考えてみます。つまり、同じ“形”にするのです。

ずれを生じさせる問題提示

@〜Bの3つの紙の中から1枚を選び、同じ形の日の丸をもう1つつくりたいのですが、どの紙を使えばよいか考えてみましょう。

図

 それぞれの長方形の縦と横の数値を最初は提示せず、どの紙を選択するのかを、まずは見た目のみで判断させます。

どの紙を使えばいいと思いますか?
(挙手させると、@0人 A3人 B23人)
@は0人だね。どうして?
縦と横の長さのバランスが絶対おかしい。
なるほど、バランスに目をつけたんだね!
そうすると、Aもバランスがおかしい。
Bは、形は同じでそのまま小さくなったみたいだから、バランスがいい。
なるほど。それでは、縦と横の長さを明らかにしますよ。(縦と横の長さを提示する)
あれっ? やっぱりAかもしれない…。
(11人挙手(8人増))
じゃあBの人は?
(12人挙手(11人減))

 このように、子どもたちは、まず視覚でとらえて縦と横の長さのバランスを考え、同じ形であるかどうかを考えます。しかし、数値を与えると、視覚で判断した長方形とは異なり、Aが急増します。このずれが子どもの問いを引き出し、主体的な問題解決に向かわせます。

Bを選んだのはどうしてですか?

C日の丸とBの辺の長さの差が、縦も横も9cmで同じだからです。

差が共通縦/30−21=9(cm)  横/45−36=9(cm)

なるほど。辺の長さの差が同じだから「同じ形」なんだね。

CAにも辺の長さに共通点があるよ。日の丸の辺の長さは縦も横もAの1.25倍になってる。

倍が共通縦/30÷24=1.25(倍) 横/45÷36=1.25(倍)

 このように、数値を与えたことで、「差による見方」と「倍による見方」の2つの見方が生まれ、視覚での判断に揺らぎが生じました。ここから、どちらの見方が適切かということに焦点化され、学級全体で「『同じ形』とはどういうことか?」を追究する活動を展開していきます。

視覚を通して理解を深める比較検討

どちらの見方が適切なのかなぁ?
B(差の見方)の考え方だとおかしなことが起こるよ。だって、例えば縦と横から30cmひくと、縦が0cmになっちゃう。
図
逆に、縦と横に同じ長さをたしていくと、正方形みたいになっていく。
図
確かに、これじゃあ「同じ形」とは言えないよね。

 このように、子どもたちは、「差による見方」の不適切性を、数値だけでなく図を用いることで、視覚でも判断していきます。

じゃあ、縦と横の長さを同じだけ倍すれば,「同じ形」になるってことか。
図
表にしてみるとこんな感じ。
図
横に見ると、縦と横の長さが同じ0.8倍になっている。
縦に見ると、1.5倍になってる。
なるほど、その縦と横の倍の関係が同じとき、「同じ形」になるんだね。では、縦と横の長さの組み合わせは他にもできるかな?
(数対24:36)12でわって、縦2cm、横3cm
(数対2:3)6倍して、縦12cm、横18cm
その長方形をつくって重ねてみてごらん。
図
あっ、対角線が一直線になってる!
(この後、比の形式の指導をして終了)

 この授業は、視覚で理解するということに重点を置いて行いました。子どもの視覚にどのようにうったえるか。算数の授業づくりに欠かせない視点の1つです。

大野 桂おおの けい

1976年東京都生まれ。東京学芸大学卒業。私立高等学校、東京都公立中学校、東京学芸大学附属世田谷小学校を経て、2010年より筑波大学附属小学校教諭。
日本数学教育学会編集部幹事、教育出版教科書『小学算数』編集委員、全国算数授業研究会常任理事、使える授業ベーシック研究会常任理事、『算数授業研究』編集委員。
筑波大学附属小学校算数部ブログ

(構成:矢口)
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