作文指導を変える―つまずきの本質から迫る実践法
作文指導はなぜ難しいのか?その理由の本質に迫りながら、本当に必要な「指導の仕方」を考えます。
作文指導を変える(12)
これからの作文指導のアイディア ICT活用編
京都橘大学教授池田 修
2023/5/15 掲載

 ここまでの連載で述べてきた指導によって、子供たちは、かなり書けるようになってきたのではないかと思います。本連載の目的は、「1.書けない子供を書けるようにする」「2.書けるようになった子供がもっと書きたいと思うようになる」この2つです。
 私は、
(書くっていいなあ、楽しいなあ。もっと書こう)
という子供達を育てたいと考えて指導法方法を考えてきました。それを、この連載で書いてきました。また、それをもっと詳しく伝えたいと考えて、『作文指導を変える つまずきの本質から迫る実践法』という本を著しました。

 さて、最終回は、ここに3つ目を加えましょう。それは、「3.効率的に書けるようになる」です。そのためには、ICTの活用が何よりです。

タッチタイプを覚えさせる

 ICTツールを活用する際、重要になるのが、キーボード操作です。このキーボード操作を円滑にするために身につけておくスキルが、タッチタイプです。とにかく、タッチタイプです。キーボードを見ることなく自分が意図したキーを叩いて適切な文字などを入力することができるようになることです。
 私は、自分が浪人時代に家にあった英文タイプライターを使って、英語の勉強をするときに同時にタイピングを覚えてしまいました。これは後々、非常に役に立つこととなりました。大学4年生のときに、初めてワープロを買ったのですが、何も問題なく使えました。これは、タッチタイプができていたことが大きいと考えています。
 逆に、
「いや、パソコンが苦手でね」
という先生に出会ったとき、サポートしようと様子を見てみると、パソコンが苦手なのではなく、キーボード入力ができないという方がほとんどでした。パソコンに情報が入ってしまえば、あとはサッサと処理してくれるのに、その手前で膨大な時間がかかってしまっていました。そして、パソコンが苦手と思うようになっていたのです。
 今の子供達のファーストデバイスは、スマートフォンであることが多いと思います。これだと、入力はフリック入力か音声入力です。しかし、パソコンはキーボードを使ったタッチタイプです。いずれは、思ったことが直接入力される時代が来るでしょうが、当分はパソコンでキーボードを使って行うことでしょう。そのときに、10本の指を使って的確に早く情報を打ち込めるようになっていることは、作文を書くときのみならず、多くの場面で有用になると思います。

 では、タッチタイプの練習はどうすればいいのでしょうか。

 ゆっくりと確実にキーボードの位置を覚える。

です。これを念頭に置いて、だんだんスピードを上げて行くことになります。ある程度のスピードも欲しいと思いますが、スピードは慣れてくれば上がっていきます。大事なのは、的確にそのキーを叩くことができるようになることです。間違いを何回もして、削除キーを頻繁に使うようでは、効率的ではありません。長い目で見たら、損失です。

歌いながら入力する

 ある程度できるようになってきたら、歌を歌いながら入力させるといいでしょう。子供が知っている歌でいいでしょう。こんな指示を出します。例えば、荒井由美さんの「やさしさに包まれたなら」など。

「この歌を、頭の中で歌います。その歌に合わせて、キーボードでその歌詞を打ち込みます。歌い終わるまでに正しく入力できたら、OKです。ただし、漢字の変換が元の歌の通りに変換されていなくても、問題ありません。誤入力でなければ問題ありません*1

とします。
 子供達は、頭の中に歌の歌詞が入っているので、何かを見ながら入力する必要がありません。初心者の場合は、入力するテキストと、キーボードと、画面とを見ながらやらなければならないので大変なのです。しかし、この方法であれば、少なくともテキストを確認する必要はありません。
 この「やさしさに包まれたなら」のBPM(Beats Per Minute)は89です。義務教育段階でこのぐらいで打てると、ICTの活用は随分と進むと思います。

文章作成に便利な機能

 ディバイスで文章を書くとき、手書きでは非常に面倒くさい作業が、いとも簡単にできてしまう機能があります。これを教えましょう。
 多くの子供が知っている機能は、コピー&ペースト機能です。しかし、これだけではありません。文章作成の際には、以下の機能は少なくとも教えたいものです。

(1)UN DO機能
(2)検索機能
(3)置換機能
(4)校正機能
(5)インデント機能

(1)UN DO機能
 1つ前の作業に戻ります。これは実に便利です。失敗したらこれをすればいい。画面上に図を入れて移動したとき、もとの場所がよかったなあというときも、これで簡単にもとに戻ります。

(2)検索機能
 文章の中にある言葉を探します。自分が書いた言葉が、文章のどこにあるのかなとを探すときに使います。また、PDFの文章を読むとき、キーワードを探すときにも便利です。

(3)置換機能
 言葉を置き換える機能です。似たような言葉を1つに揃えるときにも便利です。例えば、「子供」と書いているつもりでも、「子ども」となってしまっていることがあります。そのときは、この置換機能を使って、「子ども」を「子供」に簡単に統一できます。

(4)校正機能
 Googleドキュメントを使うと、自動的にこの機能が使えます。書いている文章に赤い波の下線が引かれている場面は、基本的におかしい表現とされるものです。また、青い波の下線が引かれているのは、注意を促されたところです。カーソルをその場所に持っていき、提案を受け入れるかキャンセルするかを判断することができます。

(5)インデント機能
 「書き始めは1升下げて書く」ということは、かなり子供に浸透しています。この「1升下げて書く」ときに便利なのが、インデント機能です。

 まずは、この5つの機能を教えて、使いこなせるようにすることかと思います。私はよく生徒に話していました。「面倒臭いものほど、パソコンに任せる」と。人間よりも、はるかに正しく早く作業してくれます。

ChatGPTの登場

 さて、この原稿を脱稿するにあたって、どうしてもChatGPTに触れざるを得ません。文章を生成する人工知能です。現在ChatGPTは、13歳以下の使用は認めておらず、また18歳までは保護者の同意が必要になっています。また、国によっては子供や若者の使用を禁止しているところもあります。
 しかし、パソコン、インターネット、スマホがもうなくてはならなくなったように、この人工知能もあと5年もすれば当たり前に使いこなされる世界になるでしょう。命令(プロンプト)を与えると、見事に作文、企画書、まとめ、推敲などをしてくれます。これを使いこなす作文がこれからは必要なるに違いありません。人工知能の手足になるのではなく、人工知能を手足にする作文です。
 この数ヶ月ChatGPTを使って、今後のことを考えた結果、1つ言えると思うのは、「ChatGPTを使うと考えなくなる」というのは、間違いだということです。従来の作文とは違う頭の使い方をしているということを感じています。
 また、ChatGPTには書けない文章があって、その代表的なものが、今回ずっと取り上げてきた「体験作文」ではないかと考えています。豊かな体験を自分の頭で言語化して、文字化していく。そのサポートとしてChatGPTは活用できるとは思いますが、その子供ならではの作文は、ChatGPTでは厳しいかなと今は感じています。
 しかし、このChatGPTは、世界を大きく変えるでしょう。その授業作り、作文指導の実際はまたいつか、稿を改めてまとめてみたいと考えています。

*1 「やさしさに包まれたなら、と入力すると、優しさに包まれたなら、と変換されてしまうことがあります。これは問題なしとします。

今回のポイント

  • タッチタイプは早い時期に指導する。正確に入力できることが大事。
  • 文章作成に便利な機能も使いこなせるように指導する。
  • ChatGPTは、作文指導のあり方を大きく変える。


 最後まで、お読みいただきまして、ありがとうございました。
 教室で、子供たちがどんどん作文を仕上げてくれるようになってくれたらとても嬉しく思います。

2023年5月11日
鶯の鳴き声が届く研究室にて
京都橘大学 発達教育学部 児童教育学科 池田 修

池田 修いけだ おさむ

京都橘大学発達教育学部教授。
公立中学校教員を経て現職。「国語科を実技教科にしたい、学級を楽しくしたい」をキーワードに研究・教育を行う。恐怖を刺激する学習ではなく、子どもの興味を刺激し、その結果を構成する学びに着目している。国語科教育法、学級担任論、特別活動論、教育とICTなどの授業を担当している。

(構成:大江)
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