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夜間中学について知っていますか?
教育zine編集部 澁谷
2019/3/31 掲載

 この4月に埼玉県川口市と千葉県松戸市に「夜間中学」が新設されます。高等学校であれば「定時制課程」がありますが、「夜間中学」とは、いったいどのような学校なのでしょうか。

義務教育の学習機会を回復する学校

 夜間中学のおこりは、昭和20年代初めに中学校に付設された夜間学級に遡ります。戦後の混乱期に就労等で学齢期の学習機会を逸した人々に義務教育の機会を提供するために設置されました。
 現在の夜間中学の在籍者は、その約8割が日本国籍をもたない人です。これは国連人権規約にもとづき、日本国籍の有無を問わず、学齢期に義務教育の機会を得られなかった人を受け入れているためです。近年は不登校により十分な教育を受けないまま中学校を卒業してしまった児童・生徒が増加していることもあり、このような児童・生徒にとっての学ぶ場にもなっています。

夜間中学の実態とは

 夜間中学は、その名の通り平日の夕方から夜間にかけて開かれ、およそ4時間の授業が行われています。さまざまな背景をもつ生徒が集まることから、学習内容や日本語の習熟度に応じた柔軟な授業が認められている点がひとつの特徴といえそうです。また昼間の中学と同様に修学旅行や文化祭などの諸行事もあるほか、学校によっては給食もあります。
 では学校に在籍している生徒はどのような人々なのでしょうか。文部科学省による「平成29年度夜間中学等に関する実態調査」から見てみましょう。
 夜間中学に在籍する生徒の年代は「60歳以上」が全体の27.0%と最も多く、「15〜19歳」が20.3%、「20〜29歳」が16.9%と続きます。男女比では男性が34.7%、女性が65.3%と、女性のほうが多い傾向があります。
 夜間中学への入学理由は、日本国籍をもつ人では「中学校教育を修了しておきたいため」が47.7%、外国籍の人の場合には「日本語が話せるようになるため」が33.3%と、それぞれ最も多くなっています。
 また卒業後の進路は、「高等学校への進学」が45.1%、「就職」が17.4%となっており、夜間中学での学習が生徒の将来にもつながっていることがわかります。

夜間中学の課題

 夜間中学の制度には課題も残されています。ここでは大きく2つ挙げてみます。
 ひとつめは、「学校の数が少ない」ということです。冒頭で触れた新設2校をふくめ全国に33校と、すべての都道府県に設置されておらず、またその所在地は関東地方と近畿地方に偏っている状況です。ボランティア等で義務教育未修了者へ学ぶ場を提供する「自主夜間中学」も存在してますが、すべての学びたい人にサービスを提供できているわけではありません。
 平成28年に一部施行された「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」では、地方自治体に夜間中学をふくむ就学の機会提供を次のように義務づけています。

 地方自治体は、学齢期を経過した者(その者の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから満十五歳に達した日の属する学年の終わりまでの期間を経過した者をいう。次条第二項第三号において同じ。)であって学校における就学の機会が提供されなかったもののうちにその機会の提供を希望する者が多く存在することを踏まえ、夜間その他特別な時間において授業を行う学校における就学の機会の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。
(義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律 14条)

 上記法律のほか、設置にあたっては国庫による支援も行われることから、さらに学校が増えていくことが望まれます。
 ふたつめは、「潜在的な入学希望者やその周りの人に、夜間中学の存在が知られていない」ということです。これには上記のように学校数の少ない点のほかに、潜在的な入学希望者が識字や日本語への習熟度などの理由から、夜間中学という制度があるという情報にアクセスしにくいという点もあるようです。こうした状況を受け、政府では在籍者や卒業生の声を載せたルビつきのポスターやリーフレットを作成し、広報活動を行っているところです。

 冒頭で触れましたように、この春新設された2校で学ぶことができる人々がいることを喜ばしく思うと同時に、さらに多くの人に学ぶ機会が訪れることを願っています。

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