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小中学校プログラミング教育必修化―情報活用能力を育成するために―
教育zine編集部大矢
2016/4/30 掲載
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 安倍首相は19日、産業競争力会議の中で、「初等中等教育からプログラミング教育を必修化する」と発言しました。初等中等教育でのプログラミング教育の必修化は、2020年度以降順次実施される新学習指導要領に盛り込む方向で検討されているとのことです。

プログラミング教育必修化の目的は

 政府は、プログラミング教育必修化の目的として、日本経済再生本部の「第4次産業革命に向けた人材育成総合イニシアティブ」資料内で、第4次産業革命(AIを用いて製造業を自動化させるなど産業の高度化、高速化)に向けた情報活用能力の育成を挙げています。情報を活用して、新たな価値を創造していくために必要な力や、課題の発見・解決にICTを活用できる力を、発達の段階に応じて育成したいとしています。具体的には、下記の内容に取り組んでいくと報告されています。

  • 小学校における体験的に学習する機会の確保、中学校におけるコンテンツに関するプログラミング学習、高等学校における情報科の共通必履修科目化といった、発達の段階に即したプログラミング教育の必修化
  • 全ての教科の課題発見・解決等のプロセスにおいて、各教科の特性に応じてICTを効果的に活用
  • 文科省、経産省、総務省の連携により設立する官民コンソーシアムにおいて、優れた教育コンテンツの開発・共有等の取組を開始

これまでの日本における取り組み

 ここで、日本ではこれまでに情報活用能力を育成するためにどのような取り組みがなされてきたのか、見てみましょう。
 2008年告示の現行版学習指導要領では、小・中・高等学校段階を通じて、情報教育に関する内容を充実させるという方針のもと、情報関連の分野の改訂は下記のようになされました。

小学校

  • 各教科等の指導を通じて、児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ、コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け、適切に活用できるようにする旨を明示。
  • 「総合的な学習の時間」において,情報に関する学習を行う際には,情報を収集・整理・発信するなどの学習活動が行われるようにすることを明示。

中学校

  • 各教科等の指導を通じて,生徒が情報モラルを身に付け、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切かつ主体的、積極的に活用できるようにする旨を明示。
  • 「技術・家庭」において,ディジタル作品の設計・制作やプログラムによる計測・制御を必修化。

 調べ学習等に積極的にインターネットを用いたり、各教科の作業で積極的にコンピュータにふれさせるなど、「端末に慣れる、使うことができる」ことが目的となっている印象を受けます。今や、パソコンやスマートフォンが一般家庭にも多く普及していることを鑑みると、学校で指導する内容としてはもう少し充実してもよいのではないかという印象も受けます。
 その中で、中学校の技術・家庭(技術分野)では、プログラムによる計測・制御の必修化が謳われており、これは今回の新学習指導要領にもつながる内容となっています。しかし、授業時間数としては中学3年生の数時間に過ぎません。

諸外国での事例は?

 他の国ではどうでしょうか。大日本印刷株式会社の文部科学省委託事業「諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究」によると、英国(イングランド)やイスラエル、エストニアなどは情報先進国として、プログラミング教育が進められており、中でも英国では既にプログラミング教育が義務化されています。
 2014年から、従来の教科「ICT」を改め、あらたな教科「Computing」を導入し、小学校(5歳〜)から高等学校までプログラミングを教育内容として取り入れています。従来の教科「ICT」がICTリテラシーや情報活用能力の習得を中心としていたのに対し、教科「Computing」はプログラミング言語の学習等、コンピュータサイエンスの内容をより充実したものとしている点は、現在日本が進めている動きと似ているように感じます。

浮かびあがる問題点

 諸外国の教育に追いつき、第4次産業革命に向けて人材育成をしていこうという政府の目的はつかめましたが、現在挙げられるだけでもいくつもの問題点が浮かびます。

  • プログラミングを指導する人材をどのように確保するか。
     2020年までに1人1台の情報端末での教育、という政府の掲げている目標がありますが、それに対してすら、指導側からの不安の声が挙がっています。プログラミングについてはさらに高度な内容と考えられるため、専門家の協力、情報の教員免許を持つ教員の増員等が必要になると考えられます。

  • 内容と学習時間が限られてしまう。
     1クラス全員ができることを目標にするのであれば教えられる内容が限られます。また、週に1時間程度の授業であれば、年間40時間に過ぎず、教えられることに限りがあるように思えます。

  • プログラミングと一概に言っても、作りたいものに応じてさまざまな言語がある
     BASICやC言語から, HTML, Rubyなど、目的や専門によってよく使われる言語も異なります。どの言語を指導するかは、どのように定められるのでしょうか。

 また、英国での現地ヒアリングによると、教科「Computing」は導入後間もないため、いまだ従来のICTリテラシーや情報活用能力の習得の指導にとどまっている学校もあるとのことです。現時点では、指導者のトレーニングや教材の提供を中心とした新教科の普及・啓発が当面の課題であると報告されています。

 これらの問題点を考えると、実用的なプログラミング能力を習得させることは義務教育では難しいように考えられますが、プログラミングに授業で触れることをきっかけに、理数・情報の分野への興味をもつ子供たちを増やす一端を担うかもしれません。政府の考えとしては、高等教育(大学)以降も、米国に比べて少ない数理科学を専攻する学生を増やし、情報関連の分野を強くしたいという目的もあるようです。

「使う」から「つくる」へ

 2020年度には小学校、2021年には中学校で新指導要領が施行されます。「使う」だけであったコンピューターをプログラミングで「つくる」ことができるようになることは、大変魅力的なことです。問題の改善策も見出しながら、この構想が理想だけで終わらないよう、実のあるものになることを期待しています。

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