教育ニュース
文科省の報道発表から研究会参加ルポまで、知っておきたい色々なジャンルの教育情報&ニュースが読めます。
地域の力を学校運営に―山口県での「コミュニティ・スクール」の取り組み
教育zine編集部齋藤
2015/6/30 掲載

 文部科学省は今月16日にコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の指定状況をとりまとめ、公表しました。

コミュニティ・スクールとは?

 コミュニティ・スクール(PDF)は、現在の学校現場における教育課題や地域での課題の解決に向け、学校と保護者、地域住民などが協働して、「地域とともにある学校」をつくっていく仕組みです。
 コミュニティ・スクールの導入は、学校、地域、保護者の意見を踏まえ、学校を設置する地方公共団体の教育委員会が決定し、導入されると、保護者、地域住民、教育委員会、教師などから構成される「学校運営協議会」が設置されます。
 この協議会では以下の3つの活動が認められています。

  1. 校長が作成する学校運営の基本方針の承認
  2. 学校運営、教育活動に関する意見を教育委員会及び校長に述べる
  3. 教職員の任用に関して教育委員会に意見が述べられる

 今まで校長や教育委員会などの限られた関係者のみが学校運営を学校内に収まって進めていたのに対し、コミュニティ・スクールでは、学校運営に、地域や保護者のような様々な立場の人々の意見を反映して、地域の課題や特性を踏まえた学校づくりを進めることが出来ます。またこれらの活動が地域のつながりを生み、地域全体の活性化につながることもあり、「学校を中心とした地域づくり」という面も併せ持っています。

コミュニティ・スクールの現状

 平成25年に閣議決定された第2期教育振興基本計画(PDF)においては、「絆づくりと活力のあるコミュニティ形成」の方策として、コミュニティ・スクールの普及が挙げられ、全公立小中学校の1割(約3,000校)に拡大するとの推進目標が出されています。これは、平成23年の東日本大震災で学校が避難所として大きな役割を担ったことで、地域と学校との連携のあり方について見直されたことが影響しています。
 現在のコミュニティ・スクールの校数は、昨年から470校増の2,389校で、全国44都道府県、235市区町村で、コミュニティ・スクールが設置されており(平成27年4月1日現在)、年々その数は増加傾向にあります。

山口県の取り組み 「やまぐちCS」

 コミュニティ・スクール指定校数の全国トップは、山口県です。18市町村で407校のコミュニティ・スクールが設置されています。
 山口県では、平成20年度全国学力・学習状況調査で浮き彫りとなった、学力・学習意欲の低下、児童生徒の社会性の欠如、学力格差などの課題解決にあたり、学校のみでなく、地域の力を活かして学校運営をしていこうと、「やまぐちCS」(PDF)というプログラムを打ち出しました。
 学校・家庭・地域が一体となった社会総がかりによる「地域教育力日本一」を目標に、取り組みを進め、「学校支援・学校運営・地域貢献」の3本柱で、学校を中心とした地域づくりを促進しています。
 「やまぐちCS」では、「学校運営協議会」「企画推進委員会」「プロジェクト部会」という3層構造となっており、一般的なコミュニティ・スクールと比べ、役割が細分化されており、校内委員として、全教職員がいずれかの部会に参加することをはじめに、多くの人々が関わる取り組みとなっています。
 「学校運営協議会」は、通常のコミュニティ・スクールと同様の役割を担い、その下に「企画推進委員会」「プロジェクト部会」が置かれています。
 「プロジェクト部会」は、心の教育部会、学力向上部会、体力向上部会と、子どもたちの教育課題に関わる3つの部会に分かれており、ここで活動の目標や計画などが練られます。
 「企画推進委員会」は、各プロジェクト部会ででた提案や企画などをとりまとめ、学校運営協議会に諮る情報の整理をする役割を担っています。
 この枠組みの中で、行われた取り組みとしては、以下のような例があります。

  • 授業評価の継続実施
    …学習者や地域住民に授業評価をしてもらい、授業の改善に反映。
  • コミュニティルームの設置
    …地域住民が学校に自由に出入りできる場所の提供。
  • 小中一貫カリキュラムの作成と小学校での教科担任制の導入

 これらの取り組みを通して、学校運営の面で、地域住民や保護者の意見を反映し、改善することが出来ているようです。
 さらに特徴的といえるのが、各校のプロジェクトの中で、地域住民と児童生徒の双方が主体となる取組みが行われていることです。
 児童生徒主体の取り組みとしては、高齢者宅への弁当配達や、剪定作業、地域産業・地域伝統文化の体験学習などが行われ、子どもたちの地域貢献の活動が促進されています。
 一方、地域住民主体の取り組みとしては、ALTによる地域住民向け英語学習や、生徒たちとの早朝ウォーキング、コミュニティルームをレストランとして開放するなど、学校を地域の学び場として位置付ける活動が行われています。        
 このような活動により、閉ざされていた学校という空間が地域に開かれ、地域住民、児童生徒双方のつながる機会が増えている成果が出ているようです。また、学校という場を中心として、学校や地域の課題をそれぞれの立場で考え、解決に向けて行動する機会となっていると考えられます。

今後の発展に向けて

 年々、コミュニティ・スクールの校数は増加しているのに加え、文科省の発表では、これに類似する取り組みは、過去3年で2,000校増加し、5,135校で行われているとされています。東日本大震災以降、コミュニティ・スクールを含め、学校運営や教育活動について、地域全体で考えていく機会が増えており、地域が担う役割への期待が高まっていると考えられます。
 学校運営、教育活動への提案などのコミュニティ・スクールの基本的取り組みはもちろん重要ですが、今後このような活動を、継続して発展させていくには、「やまぐちCS」の事例のように、学校を地域がつながる場として提供し、より多くの人々が参加して、地域活性化の一端を担う活動をしていくことが必要なのではないでしょうか。

コメントの受付は終了しました。