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学びのイノベーション事業報告―ICT活用の効果と現状
教育zine編集部大矢
2014/5/31 掲載

 先月4月11日、文部科学省は、「学びのイノベーション事業実証研究報告書」を公表しました。「学びのイノベーション事業」とは、平成20年、21年に改訂された学習指導要領において重視されている「生きる力」の育成を軸に、情報活用能力を育む教育を実現することを目的に進められてきた事業です。具体的には、デジタル教科書・教材の開発、ICT(Information and Communication Technology;情報通信技術)を活用した指導方法の開発、教科指導におけるICT活用の効果・影響の検証に取り組んでおり、今回の報告書では、実証校20校(小学校10校、中学校8校、特別支援学校2校)における取組の結果がまとめられています。

ICTの活用と学力の関係は

 気になるのは、ICT環境の導入が学力へどのような効果をもたらしているのかという点です。報告書では、標準学力検査(CRT;株式会社図書文化社が実施する標準学力検査)の結果を用いて、ICT環境導入直後(平成23年度末)と1年後(平成24年度末)の実証校の平均得点率を全国の平均得点率と比較した結果が以下のように報告されています。

    (小学校)

  • 平成23年度末に全国平均を下回っていた第3学年の国語については、24年度末の第4学年の時点では全国平均と同水準以上となっている。
  • 平成23年度末に全国平均と同水準であった第4学年の国語・算数については、24年度末の第5学年の時点でも全国平均と同水準である。
  • (中学校)

  • 平成23年度末時点で全国平均を上回っていた国語、数学、英語が、24年度末ではさらに増加している結果となっている。

 このように、学びのイノベーション事業実証校では、ICT環境導入前と後で、標準学力検査の得点率が向上、もしくは同水準を維持しているという結果が報告されています。しかし、この結果からICTの活用と学力の関係を結び付けるには、いくつか気になる点があります。

 まず、サンプル数が少ない点が挙げられます。今回、実証校の中で、標準学力検査を実施した学校は、小学校で10校、中学校で7校、さらに調査対象者は小学校3・4年生と中学校1年生に限られていました。また、ICT環境を導入しなかった学校との比較もないため、これでは、限られた一部の結果を見たことにしかならず、ICTの活用と学力の関係を議論するには難しいと感じます。
 そしてもう1つは、実証校が、もともと学習に対して意欲の高い学校が多いと考えられる点です。実証校は、文部科学省が定めた公募に応募し、提案内容の評価がなされた上で定められています。ICT環境がなかったとしても、学力向上に力を入れている学校が多かった可能性が考えられます。むしろ、学力があまり高くない傾向にある学校に結果を残せるかが、私たちが知りたいことではないでしょうか。

 結局のところ、報告書では、ICTの活用と学力を直接結びつけてはっきりと結論付けることはできないというところが現状です。サンプル数を増やし、さらなる継続調査が必要であると考えられます。

ICTの活用例と課題

 報告書では、上記に述べたテスト結果の変化についての報告のほかに、児童生徒の意識の変化の報告に多くのページを割いています。学習意欲を向上させる環境づくりのために、実際に授業でどのようなICTの活用がなされていたのか、一例を見てみましょう。
 ICTを活用した授業は、A.一斉学習、B.個別学習、C.協働学習の3つの学習場面ごとに分類されています。

  • 中学校・国語科/古文 学習者用デジタル教科書を用いて、電子黒板で一斉に範読を聞かせる。(A.一斉学習の例)
  • 中学校・社会科/東南アジアの国の名前の由来を考える 班ごとにインターネットで調べ、情報の信頼性や信憑性を吟味させ、最後に調べた内容を電子黒板に提示し、発表させる。(B.個別学習の例)
  • 小学校・生活科/生物の観察 タブレットPCのカメラ機能を使って写真や動画を蓄積し、共有する。タブレットPC上で写真に矢印や文字を書き込んで観察記録を作成する。(B.個別学習の例)
  • 中学校・英語科/日本の文化を紹介する テレビ会議システムを用いて、シンガポールの学校と英語で交流を行う。(C.協働学習の例)

 ここに挙げたものは一部ですが、ICTを活用した授業といっても、一部には紙媒体の代用であるような印象を受ける活用例もあります。例えば、上記に挙げた最初の2つの活用例では、教科書の範読は教師が行うこともできますし、電子黒板を用いた発表は、手書きで模造紙にまとめることでもできます。しかし、ICTの活用例の中には、ICT機器を使わなければできない例もたくさんあります。上記でいえば後の2つの活用例にある、観察の記録を動画を用いて行うこと、テレビ会議システムで異文化交流をすることなどです。ICTを用いた授業では、ICTの特性を活かした学習、まさに「活用」をしていくことが大切であると感じます。

 安倍政権は、「2010年代中に1人1台の情報端末による教育を」という目標を、日本再興戦略の中で掲げています。学びの環境を充実させていくだけではなく、それによって学力にもたらされる効果についても、引き続き注視していくことが必要です。また、ICT機器を単に「使う」のみにとどまらず、本当の意味で「活用」していくことができれば、教師にとっても、児童生徒にとっても、学びの場がより充実したものになっていくのではないでしょうか。

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