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山中教授ノーベル賞受賞―科学技術教育の今後
教育zine編集部小松原
2012/10/31 掲載

 今月8日、京都大学の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞の受賞者に選ばれた。山中教授は、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の研究を行っており、今後、その臨床応用にも期待が高まっている。
 9日の産経新聞の記事によると、山中教授が所長を務める京都大学iPS細胞研究所には、ノーベル賞受賞が決まった時点から、個人による寄付の申し出が相次ぎ、その金額は1日で280万円を超えたそうだ。
 また、文部科学省でも、同研究所に長期的な支援を継続する方針を打ち出した。文科省は、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」として、平成25年度に87億円を概算要求しているが、その中には山中教授らの研究を支援する目的で27億円が盛り込まれている。今後10年程度、総額300億円規模で支援を行っていく方針だという。山中教授のノーベル賞受賞をきっかけとして、科学技術分野に注目が集まっている。

 このように関心が高まる科学技術分野だが、教育の観点からみた場合、現在どのような取り組みがなされているのだろうか。文部科学省を中心として行われている、初等中等教育段階における科学教育の取り組みから、いくつか取り上げてご紹介したい。

スーパーサイエンスハイスクール(SSH)

 先進的な理数教育を実施する高校を「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」として指定し、学習指導要領によらない学習を支援するプロジェクト。将来の国際的な科学技術関係人材を育成することが目的とされている。
 SSH指定校となった学校では、各学校で作成した計画に基づいて、独自のカリキュラムによる授業の展開や、大学・研究機関等との連携による授業、地域の特色を生かした課題研究を行うなど、さまざまな取り組みが行われている。具体的な成果と事例は、科学技術振興機構のウェブサイトで紹介されている。
 現在指定校は178校あるが、うち73校が平成24年度に新たに指定校となったもので、科学教育への関心の高まりがうかがえる。

国際科学技術コンテスト、科学の甲子園

国際科学技術コンテスト
…数学、化学、生物、物理、情報、地学、地理など、各教科における知識・問題解決能力・課題探求能力が競われるコンテスト(各種作業などの実技の習熟のみを競うものは不可とされている)。日本数学オリンピックや化学グランプリなどのコンテストがあり、上位者は国際科学オリンピックへ派遣される。
 今年は、7月から10月にかけて31人の日本代表が国際科学オリンピックに参加し、合計で金メダル6、銀メダル19、銅メダル2という優秀な成績を収めている。
 また、上記の教科系コンテストの他にも、ロボカップジュニアジャパンなど課題系コンテストも開催されている。

科学の甲子園
…高校生のチームを対象として、理科・数学・情報における複数分野の競技を行う取り組み。平成23年度に創設された。今年度は、来年3月23〜25日に全国大会が行われる予定で、現在、各都道府県の代表選考が行われている最中である。

女子中高生の理系進路選択支援プログラム

 女子中学生・高校生を対象として、理系への興味を高め、理系分野へ進むことを促すための取り組み。大学などの教育機関に限らず、科学館・博物館、民間企業など幅広い実施機関で、研究所などの職場体験や最先端施設の見学や、理系分野で活躍する女性との交流などが行われている。具体的な取り組みは、ウェブサイトで紹介されている。

 以上ような、児童生徒に対する支援の他にも、教員を通じた支援や教材開発など、各方面においてさまざまな取り組みがなされている。

 だが、一方で、今年度初めて行われた理科の学力テストの結果では、「理科の授業内容がよく分かる」と答えた中学3年生は65%で、小学6年生の86%から21ポイント低下してしまっているという結果が出た。この低下幅は国語や数学に比べて大きく、いわゆる「理科離れ」の傾向が現れているといえる。
 また、OECDの報告書「図表でみる教育2012」では、日本は国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合が、加盟国で比較可能な31か国中最下位という結果が報告されている(日本の最下位は、3年連続)。

 ノーベル賞受賞をきっかけに科学技術分野への関心が高まっているという現状を踏まえて、日本の科学技術分野を発展させていくために、どのような取り組み・対策を行っていくか。今後も、継続的な検討が求められている。

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