QA解説 「特別の教科 道徳」の授業づくり
教科化時代が来た! 新しい道徳授業の創り方を解説します。
QA解説 「特別の教科 道徳」の授業づくり(19)
道徳的行為に関する体験的な学習とは…
筑波大学附属小学校教諭加藤 宣行
2016/12/16 掲載
  • 「特別の教科 道徳」の授業づくり
  • 道徳

A先生

 道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議から「道徳科における質の高い多様な指導方法」として出された3つの例示の1つ「道徳的行為に関する体験的な学習」は、授業と体験活動をセットにして行うということですか。それとも役割演技を取り入れるということですか。

加藤先生からのアドバイス

 粗々ですが、とりあえず体験の種類を3つに分けて考えてみましょう。

解説

@実体験
 ホンモノの体験はかなり強いインパクトがあります。頭だけでなく、直接五感に訴え
かけるので、理屈抜きに身体にすり込まれます。ある意味、実践化まで踏み込むならば、一番効果的な学習スタイルでしょう。これは、授業で学習したことを、授業後にやってみる、試してみるという形と、授業で本質を学ぶことで「ああ、この間のことはそういうことだったのか」と授業前の実体験が、後づけで生きてくるという形の2つのタイプに分けられます。
 けれど、強いインパクトはプラスにもマイナスにも作用しますので、本質をみる目をもたせないと逆効果になる場合もあります。授業で何を学び、それが授業の前後の実体験にどのように作用し、トータルで子どもの道徳性を拡充させることができるかという広い視野が必要です。

A疑似体験
 授業中に実体験をさせるのは物理的になかなか難しいでしょうから、関連するような
仮想体験を演出するという考え方です。教材に則って疑似体験させるのが役割演技・ロールプレイング、内容項目に則って疑似体験させるのが動作化・エンカウンターでしょう。
 1時間座学するよりも、子どもたちの動きは否応なく活性化されるでしょうから、ある意味アクティブ感満載、子どもたちの参加意識も高まることでしょう。けれど、子どもたちは表面的な楽しさに飛びつきますから、せっかくの疑似体験が「楽しかった」「演技をするのに工夫ができて面白かった」レベルで終わってしまっては意味がありません。フィードバックに時間をかけるなど、疑似体験を通して、本質に触れさせる展開の工夫が必要です。

B読書体験
 読書は国語だけのものではありません。他者の体験を自己の体験として重ねる、重要な学習体験ツールです。本質を学ぶと、他者の体験が自分のことのように重なって感じられることがあります。それができたとき、他者の体験が人ごとでなくなり、価値の主体的自覚が促進されます。
 教材を読んで考えるということは、まさにこれを授業レベルで行っているということになりますね。

 では、子どもたちはどのような「体験的な活動」をしているでしょうか。
 子どもの言葉からみてみましょう。

今日、相手のことを考えて自分でできる親切をすると、相手だけでなく自分もうれしい気持ちになるということを学びました。ちょっとやってみたくなったので、帰りの電車の中でおばあさんに席をゆずりました。そうしたらにっこり笑って「ありがとう」と言ってくれました。親切をすると本当にいい気持ちになるんだなあと、実際に感じました。

 これは4年生のKさん。@の授業後の実体験による実感を伴う学びですね。このような「道徳教育」を行うためには、授業中にいかに本質を学ばせるかどうかにかかっています。

先生、今日の授業で勉強したことは、私が今読んでいる谷川俊太郎さんの詩と同じだよ。ほら、見て!

 これは2年生のEさんです。見せてくれたのは「かんがえるのっておもしろい」という内容の詩でした。なるほど、まさに道徳の授業そのものだなあと思いました。

  • 体験のもつ表面的な楽しさ、躍動感に流されて終わることのないように、道徳的な本質につながるような展開を意図しましょう。
  • 体験は身体的な活動だけではありません。道徳の授業では、むしろ精神的な活動をどれだけ保証できるかが重要です。

加藤 宣行かとう のぶゆき

東京生まれ。
神奈川県津久井地区公立小学校教諭を経て、現在、筑波大学附属小学校(道徳部)教諭。
筑波大学・淑徳大学講師。

(構成:茅野)
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