QA解説 「特別の教科 道徳」の授業づくり
教科化時代が来た! 新しい道徳授業の創り方を解説します。
QA解説 「特別の教科 道徳」の授業づくり(10)
道徳授業における「アクティブ」とは何か
筑波大学附属小学校教諭加藤 宣行
2016/3/30 掲載
  • 「特別の教科 道徳」の授業づくり
  • 道徳

b先生

 アクティブ・ラーニングという言葉をよく耳にするようになりました。道徳授業におけるアクティブ・ラーニングというと、どのような場面が考えられるでしょうか。

加藤先生からのアドバイス

 1時間一方的な教え込みによる全体指導の対極がアクティブ・ラーニングだとすれば、ある意味小学校ではすべての学習活動がアクティブ・ラーニングです。子どもたちの主体的な活動を基本に据えた上で、練習し、実験し、思考し、議論し、実践する学びを追い求めているからです。ですから、いたずらに言葉に踊らされることはありません。
 その上で、何をアクティブにすればよいのかを考えましょう。
 まずは、形から入るアクティブ・ラーニングが主流になりそうですが、それが目的になっては困ります。例えば、グループをつくって話し合い、発表する活動。いかにも子どもたちが主体的に活動し、見栄えはいいかもしれません。しかし、そこから子どもたちの心が動いてこなければ話になりません。心が動くからこそ、自ずと身体が動いてくるというのが自然な流れでしょう。役割演技などの動作化も同様。演じることが目的ではなく、それを通して道徳性が育まれることが重要です。
 では、どのような手立てを講じれば心が動く(アクティブになる)のかを考えていきましょう。

解説

 ポイントは次の4つです。
@既成概念を打ち破る
 「あれ!?こんなはずはなかった、どういうことだろう」と思えば、子どもたちは自ずと問題意識をもち、身体が前のめりになります。これを授業の導入の段階で行うと効果的です。自ずと学ぶ主体になり、そのあとの学習内容が入りやすくなります。まさに、学ぶ構えがアクティブになるのです。
A新しい発見を演出する
 「あ!わかった!そういうことか」という気づきがあれば、子どもたちは本時の学習に達成感を感じ、もっと考えたい、学びたい、友達の話を聴きたいと思うはずです。その気づきは、小さなことでもかまいません。大人にとっては当たり前のことかもしれません。それでもいいのです。子どもたち自身が気づき、子どもの言葉で語ることができることが大切なのです。それを指導者は「よく見つけたね」「なるほど、そういうことか」「他の人は○○さんの意見に付け足しできるかな」と意味づけをしてあげればいいのです。
B学びに対して感情を動かす
 「それっていいなあ」「そういう人になりたいなあ」「そこに気づくことができた自分たちもまんざらではない気がしてきた」というように、気づきがあったからこその感動は、人をアクティブにします。人間は感情の生き物です。理屈でいくら説得しても動かなくても、心が動けば自然に行動に移すようになります。
C身体を動かす
 「やってみよう」「やってみたよ!」「うまくいったよ」「う〜ん、ちょっとうまくいかなかった。次はどうしようかな」これは、授業中というより、授業後の実体験によるものが大きいと思います。道徳の授業には限界があります。時間内にすべてのことをフォローすることはできません。だからこそ、授業後に効果的につなげるのです。
 授業で心を動かし、授業後の実生活で身体を動かしたくなるようにしてあげる。この合わせ技で、初めて「実感した」という深い理解が可能になってくるのではないでしょうか。

実際の授業場面

 では、実際の授業場面でどのような展開が可能か、私の担任する1年生の実践から紹介しましょう。礼儀(あいさつ)に関する学習です。
(○教師・児童)
@既成概念を打ち破る
○よいあいさつってどんなあいさつでしょう。
・いつでもどこでも。 ・大きな声で。 ・心を込めて。
○では、やってみますよ。(わざと大きな声で)「おはようございます!」これでいい?
・いや、ちょっと違う気がする。
A新しい発見を演出する
○では、よいあいさつについて、今日のお話から考えていきましょう。
・この話の○○さんは、自分の気持ちを言葉にして付け足ししているよ。
・普段していることとは違うあいさつを、相手の気持ちを考えてできているよ。
○なるほど、そうか、ただ元気よく声に出すだけではないのですね。
B学びに対して感情を動かす
○そういうあいさつをすると、どんなことができると思いますか。
・もっと友達が増えそうだ。
・あいさつをその場でかえて言える(マニュアル通りではなく、時と場と相手に応じて臨機応変にできるということ)。
C身体を動かす
○そういうあいさつができたら、きっと相手もうれしいし、確かに仲良しになれそうですね。そういうことに気づいたみなさんも、きっと授業前よりあいさつ上手になっているね。
 授業後の子どもたちの反応は様々であったが、確実に授業を受けた効果が見て取れた。
 例えば、Sさんは次のような感想を道徳ノートに書いてきました。

今日は、どうとくノートを5ページも書いてしまいました。あいさつのよさを20こ見つけました。ほんとうにたのしかったです。たのしいどうとくのたのしいやりかたがわかったので、これからもがんばります。

 また、K君は、あいさつカードを作ってきました。その項目が面白かったので、一覧にして作り直し、全員に配布しました。
 これらの思い思いの、しかし授業を受けた上での学習の積み重ねが感じられる子どもたちのリアクション。これがアクティブ・ラーニングだと言えないでしょうか。

いたずらに言葉に踊らされて右往左往せず、子どもに向き合ってすべきことをしましょう。
●心が動かないと身体は動きません。しっかり心を動かすような授業を目ざしましょう。
●しっかり心を動かすためには、知的理解による納得がなければいけません。抽象的な言葉でごまかしたり、なんとなく雰囲気で丸め込んだりしないで、きちんと理解させましょう。

加藤 宣行かとう のぶゆき

東京生まれ。
神奈川県津久井地区公立小学校教諭を経て、現在、筑波大学附属小学校(道徳部)教諭。
筑波大学・淑徳大学講師。

(構成:茅野)
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