「協働的な学び」を実現する算数授業のつくり方
個別最適な学びと一体的に充実させていくために、協働的な学びを、その定義や効果、学習環境など、様々な視点から掘り下げていきます。
「協働的な学び」を実現する算数授業のつくり方(12)
個性を発揮する教師の時代にしよう!
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2023/5/25 掲載

 「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指すのであれば、我々教師が個性を発揮して教育活動を行う必要があります。子ども一人ひとりの実態に応じた学習を行うということは、子どもの実態を一番知っている人が授業を行う必要があるということです。子どもの実態を一番知っているのは、担任であり、専科の先生です。
 同じ学年であっても、クラスが違えば子どもの実態は異なるということを、我々教師はよく知っています。よって、子どもの実態に応じた学習を行うためには、そのクラスの子どもを受け持つ担任や専科の先生が「この子たちのためになる」と考えた授業をするしかないのです。それは、一人ひとりの先生の個性を発揮するということです。そのためには、一人ひとりの教師が自分の個性を発揮できる環境を整えなければならないのです。

「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現するための教師像

 今回は本連載の最終回です。「『個別最適な学び』を実現する算数授業のつくり方」〜「『協働的な学び』を実現する算数授業のつくり方」は合計24回の連載でした。今回は最終回なので、ちょっと熱い話をしたいと思います。多少のご批判も覚悟のうえで、書かせていただきます。
 「個別最適な学び」を実現したいのであれば、子ども一人ひとりの実態に応じた学習が必要になります。子ども一人ひとりの実態に応じた学習が必要ということは、子ども一人ひとりのことを知っている教師が授業をすることが必要ということになります。子ども一人ひとりのことを知っている教師とは、そのクラスの子どもといつも一緒に学習をしている担任であり、専科の先生です。どんなにすばらしい先生が来て授業をしたとしても、子どもの実態を知らなければ、「個別最適な学び」を実現することは難しいのです。ですから、一人ひとりの教師が「個性を発揮する教師」になる必要があるのです。「個性を発揮する教師」とは、だれかに言われたことをやるのではなく、一人ひとりの子どもの実態を把握し、目の前の子どもたちのためになることを実行していく教師のことです。
 経験値の高い先生、研究を深くされている先生の授業を観て学ぶことは大切です。しかし、その先生がやっていることをそのままやってもうまくいかないことは、多くの先生が経験されているのではないでしょうか、そのまま行うのではなく、「自分のクラスの子どもたちだったら、どうやってアレンジすると効果的かな?」「自分の学校の子どもたちだったら、どこまで教えてから考えさせるとおもしろいと思うかな?」と、自分が授業をする子どもたちのことを想定して考えてから、真似してみることが大事なのです。
 「個別最適な学び」だけでなく、「協働的な学び」も同様です。クラスの実態、学校の実態は、1つとして同じものはありません。子どもどうしの関わり方の実態を踏まえて、どんな声かけをするのか、どこまで先生が介入して子どもどうしをつなげていくのか。そういったことをよく考えていかないと、「協働的な学び」を実現することも難しいでしょう。

「個性を発揮する教師」が存在するために必要なこと

 「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実されていくためには、「個性を発揮する教師」が必要であるとともに、一人ひとりの教師が個性を発揮することが許される環境をつくることが重要です。
 繰り返し述べているように、クラスや学校によって子どもの実態は異なります。そして、その実態を一番知っているのは、その子たちと長い時間関わっている担任であり、専科の先生なのです。子どもと直接関わり、子どものことを一番知っている先生が「こんな授業をしたい!」「こんな活動をさせたい!」と思ったことを実現できるような環境がなければ、個性を発揮する教師は育たないのです。
 決して自分勝手で独りよがりな教育が認められるわけではありません。個性を発揮するためには、教師に日々の研鑽が求められますし、子どもや保護者から他の教師と比較される覚悟ももたなければなりません。また、自分の実践が効果的でなく、改善すべき点を同僚や先輩、時には子どもや保護者から指摘されたときは、しっかりと受け止め、修正すべきことは修正する素直さも必要になります。また、同調圧力に屈せず、改善すべき点について発言する勇気をもつと同時に、様々な考え方や価値観を受け入れる姿勢も必要になるでしょう。

教師の仕事の魅力を再発見する

 「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実させていくためには、目の前の子どものことを一番知っている先生が個性を発揮することが必要だと述べました。この「個性を発揮する」ということは、教師の仕事の魅力を再発見することにもつながると考えています。
 昨今、教師不足が叫ばれています。教師を目指す人が減っているとともに、教師になっても離職する人が増えているという現状があります。様々な数値を見なくても、この文章を読んでいる方々のまわりに、実例はいくらでもあるのではないでしょうか。
 教師のなり手不足、離職率の高さといったことの原因は、いったいどこにあるのでしょうか。労働時間の長さ、給与体系の不完全さ、保護者対応の深刻さ、多様化する子どもの実態、やりがい搾取、数え上げればきりがないでしょう。そういったことを理由に教師を目指さなかったり、教職を離れたりすることは、何も悪いことではありません。かくいう私も、転職組です。どんなにキャリアを築いたとしても、自分が仕事を楽しめないのであれば、仕事を変えるのは何も悪いことではありません。
 ただ、ネガティブなニュースにばかり触れていると、「教師の仕事はブラックだ」「教師は辛い仕事だ」というマイナスイメージばかりが広がってしまい、教師の仕事の魅力に目を向けなくなってしまう恐れも感じています。教師以外の仕事をしたことがある身として感じることは、「どんな仕事にも、魅力もあれば、悪い面もある」ということです。
 では、教師の仕事の魅力とは何でしょうか。「子どもの成長が身近に感じられる」「子どもががんばる姿に感動できる」といったやりがいを感じられることも間違いなく教師の仕事の魅力だと思います。私にとっても、子どもや保護者との関わりは、教師の仕事を続ける原動力になっています。しかし、それだけでは気持ちはもちません。仕事をするうえで不可欠なことは「自分らしくいられること」ではないでしょうか。要するに「個性を発揮する教師」であることを認めてもらえることなのです。
 例えば「今日の算数の授業は、昨日○○さんが考えた問題を使ってみんなで考えたい」といったように、教師が目の前の子どもたちに「こんなことをしてあげたい」という想いをもったとき、それが実現できる環境が整えられていることです。もし「算数で扱う問題は、全クラス同じでないと、学習進度に差が出てしまうから、あなたのクラスだけ別の問題を扱うのはよくない」と言われてしまったら、きっとその先生のやる気はしぼんでしまうでしょう。そして、子どもたちの学習のつながりに対する意識も弱まり、自分たちで学習を創り出そうとする意欲も削がれていってしまうでしょう。このように、「個性を発揮する教師」が認められる環境は、子どもの学習意欲にも関係しているのです。

今こそ管理職や教育委員会の懐の深さを! 我々教師は責任をもって自分で考えることを!

 きっと、個性を発揮することで、教師という仕事の魅力を感じる人が多くなると思います。そして、目の前の子どものためになる教育が、それぞれのクラスで行われていくようになると思います。
 時には失敗も起きることでしょう。そんなとき、管理職や教育委員会が守ってくれるという安心感が大事だと思います。安全に関すること、人権に関することについては、最初からやってはいけないことがあると思います。それを踏まえたうえで、学習の中身や学級で行われることに関して、一人ひとりの教師の個性を発揮させてあげてもらえないでしょうか。子どもの実態を踏まえ、一人ひとりの子どものために考えた教育活動であれば、やらせてあげてほしいのです。それは、教師の魅力を発見することだけでなく、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実することにもつながるはずです。なぜなら、「個別最適な学び」と「協働的な学び」は、一人ひとりの子どもの実態に応じた学習だからです。その実態を一番知っている先生が個性を発揮できなければ、一人ひとりの子どもの実態に応じた学習はできないのです。
 我々現場の教師が個性を発揮することを認められたら、とにかく「子どものためになる教育活動」を考える必要があります。自由を与えられるということは、責任をもつということだからです。「管理職の先生に言われたから」「教育委員会で決められているから」という他力本願の教育ではなく、「なぜそれをやったのか」という質問に答えられなくてはいけません。でも、失敗はつきものです。失敗したときは、管理職や先輩の先生からアドバイスをもらいましょう。そのアドバイスを聞き、自分なりに解釈し、次に生かしていくのです。すべて受け入れたり、鵜呑みにしたりする必要はないでしょう。自分なりに考えることが大事で、それが成長につながります。失敗しているのに「自由だからいいのだ」「だれかに言われる筋合いはない」というのでは、いつまでも改善されませんから、子どもの「個別最適な学び」と「協働的な学び」も保証されなくなってしまいます。

2年間の連載のまとめ

 これから、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を研究テーマにした校内研究や自治体の研修が盛んになっていくと思います。その際、我々教師が楽しく仕事をする姿を子どもに見せるという視点を忘れないでほしいと思っています。教師の仕事の楽しみ方は人それぞれです。でも、本当に子どものことを想って行う教育活動は、だれが行ったとしても、子どもには伝わるはずだと、一人ひとりの教師の個性を信じてもいいのではないでしょうか。
 この2年間の連載を通して、「個別最適な学び」と「協働的な学び」について、いろいろと考える機会をいただきました。この連載を読んでくださった多くの方々には深く感謝申し上げます。

 またいつかお会いしましょう!

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。2023年3月明星大学通信制大学院にて修士(教育学)の学位を取得。

(構成:矢口)
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