「協働的な学び」を実現する算数授業のつくり方
個別最適な学びと一体的に充実させていくために、協働的な学びを、その定義や効果、学習環境など、様々な視点から掘り下げていきます。
「協働的な学び」を実現する算数授業のつくり方(3)
「協働的な学び」を実現するための教師の役割
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2022/8/25 掲載

 「協働的な学び」は、子ども同士が関わり、学習の理解を深めていくものです。しかし、教師が黙って見ているだけでは、子ども同士が関わることはあまり期待できません。「協働的な学び」は、学びの場で行われるものです。最初から子どもに委ねるだけでは、何を一緒に考え、何について話し合えばよいかがわかりません。
 何も意識せずにまわりの人と一緒に考え、話し合ったとしても、学習における効果はあまり期待できないでしょう。しかも、学習を通して学級経営につなげていく必要もあります。よって、子どもが「だれとでも関わる力」と「学習の理解を深めるための関わり方」を身につけられるように、教師が促す必要があるのです。

教師が「協働的な学び」ができる学習環境を築くべき理由

 まず、「協働的な学び」について、2021年に出された中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)」(以下、中教審答申)に書かれていることを見返してみましょう。

さらに、「個別最適な学び」が「孤立した学び」に陥らないよう、これまでも「日本型学校教育」において重視されてきた、探究的な学習や体験活動などを通じ、子供同士で、あるいは地域の方々をはじめ多様な他者と協働しながら、あらゆる他者を勝ちのある存在として尊重し、様々な社会的な変化を乗り越え、持続可能な社会の作り手となることができるよう、必要な資質・能力を育成する「協働的な学び」を充実することも重要である。(下線は筆者)

 上記から、「協働的な学び」は「個別最適な学び」が「孤立した学び」にならないための役割を担っていることがわかります。
 もし、個別学習をしている際、自分1人では問題が解決できない子どもがまわりの人と関わることができなければ、どうなるでしょうか。ずっとわからないまま座り続けなければなりません。まさに「孤立した学び」の姿と言えるでしょう。
 また、すぐに問題が解けた子どもがまわりの人と関わらなければ、どうなるでしょうか。自分の解き方以外を知ることもなく、また、自分の解き方を批判的に見ることもなく、「答えが出ればよい」という知識偏重の学習観をもち続けてしまいます。これも、「孤立した学び」の1つの姿と言えます。
 よって、子どもが自分の理解度や学習進度に合わせた学習を行うため、そして、様々な考え方に触れて視野を広げるためには、「協働的な学び」が必要になるのです。

学習の理解を深めるための「協働的な学び」を促す教師の言葉かけ

 「協働的な学び」をするために最も重要なものは、「だれとでも関わる力」です。すでに身についている子どもはよいのですが、人と関わることが苦手な子どももいます。しかも、学習の場面で人と関わるわけですから、既習事項とのつながりや、見方・考え方についても話し合い、学習の理解を深めるために人と関わる必要があります。そのために、教師は「だれとでも関わる力」を養うきっかけをつくるとともに、学習の理解を深めるための人との関わり方を子どもに示しておく必要があります。
 私が算数の個別学習のときに子どもに言葉かけしていることは、以下の通りです。

(1)「最初の問題は、まずは自分で問題を考えてみるといいよ」
(2)「問題が解けたら、まわりの人の解き方と見比べて、同じところや違うところを見つけて、共通する大切な考え方を見つけられるといいね」
(3)「自分でわからなかったら、まわりの人と一緒に考えてみるといいよ」
(4)「最初の問題が解けたら、解けた問題を発展したり、気になったことを調べたりできるといいね。そのときも、まわりの人と一緒にやってみると、いろいろと発見できるかもしれないよ」

 「だれとでも関わる力」を身につけるための言葉かけでもありますが、前提としては、算数の学習の理解を深めるための言葉かけです。学習の理解を深めるために人と関わらないと、「他の人と意見交換をすると、新しいことが発見できる」といった、人と関わるよさを感じることができないからです。
 特に、(2)と(4)は重要です。(2)は、問題を解決したときの着眼点(数学的な見方)に意識を向けさせるとともに、様々な着眼点の共通点を考えること(数学的な考え方)に意識を向けさせる声かけです。(4)は、「答えを出したら終わり」ではなく、解決した問題を基に、自ら学習を発展させていくこと(数学的な考え方)に意識を向けさせる声かけです。

 次に、それぞれの言葉かけに関する「だれとでも関わる力」を養うための意図について述べていきます。
 (1)は、まずは自分で考える必要性を伝えています。
 (2)〜(4)では、「まわりの人」という言葉が出てきますが、(2)(3)は、「まずは、自分の席のまわりの人」という意味です。ここは最初に伝えます。自分で問題を解けた後、もしくは、自分では問題を解けなかった場合、まずは、自分の席のまわりの人と関わるように伝えます。
 私は、席替えをくじ引きで決めています(身体的な理由等、席の場所に配慮が必要な子どもを除く)。そうなると、自分の席のまわりの人は偶然に決まります。普段の人間関係とは関係ない人が座っていることが多くなるということです。よって、まずは、自分の席のまわりの人と関わることが、「だれとでも関わる力」を養うことにつながるのです。
 宗形・山本(2015)は、協働学習と個人学習の学級への影響について調べ、「協働学習には、既存の私的な人間関係にとらわれない新たな関係を希求する態度を醸成する可能性があることが示唆されたと考えられた」と述べています。この研究結果は、まさに、「だれとでも関わる力」を養うことを意識させ、学習場面において、普段の人間関係とは異なる人と関わる機会を設けることが、お互いのよさを再発見したり、認め合ったりすることにつながり、学級経営においても効果的であることを示しています。
 (4)の「まわりの人」は、特に限定しません。なぜなら、発展させた問題や調べたいことは、子どもそれぞれによって異なるからです。「学習の個性化」が行われる場面です。「学習の個性化」が行われている場面においては、学習の中心に、子どもが興味・関心をもっている問題があります。解きたい問題に合わせて、柔軟に人間関係を組み替えていける力も学級経営には大切です。

「協働的な学び」が実現されていく様子

 次の写真は、本年度(2022年度)担任している3年生の個別学習の様子です。1枚目が4月の頃の写真で、2枚目が7月の頃の写真です。ともに、個別学習で教師から出した最初の問題が解けた後の様子です。まさに、(2)〜(4)の声かけの内容を実現させてほしい場面です。
 まずは1枚目の4月ごろの写真を見てください。

画像1

 見ていただければわかると思いますが、このころは、自分の席のまわりの人と少し話している様子はありますが、動きはあまりありません。きっと、「授業というのは、静かに座っていないといけない」と思っており、学習が受け身になっている状態です。自分からいろいろな人の考え方に触れに行こうとはしていません。
 2枚目は7月ごろの写真です。

画像2

 クラスに慣れ、学習観もだいぶ変わってきている様子が伝わると思います。かなり子どもが動いています。自分の席のまわりの人だけでなく、いろいろな人と関わり、様々な考え方に触れようとする姿が見られます。
 また、1人で学習をしている子どもも何人もいます。いろいろな人の考え方に触れつつ、1人でも考えることができており、考えたい内容に応じて、学習形態を選べる子どもが多くなっています。当然、まずは自分の席のまわりの人と関わった後に、自分の席から離れるようにしています。

 言葉かけをしたり、教師が話し合いに参加したりしても、一朝一夕で子ども同士が関わり合って学習を行うようにはなりません。しかし、学習形態を自分で決めたり、自ら学習を発展させたりする経験を積み重ねていくことで、少しずつ子ども同士が関わるようになります。
 そのとき、中心にあるのは、あくまでも子どもが自分事にしている問題なのです。「人と関わるためのトレーニング」ではなく、「問題を解きたい」「いろいろな人の考え方に触れたい」「自分たちで学習を進めたい」という学習に対する意欲が、子ども同士を関わらせるのです。まわりの人と関わると学習の理解を深められるという経験が、「協働的な学び」につながっていくのです。

【参考・引用文献】
・中央教育審議会(2021)「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)」p.19
・宗形美郷・山本奨(2015)「協働学習への参加形態が児童の授業評価と学習成果に及ぼす影響―算数科教育の実践と学級経営の視点から」、岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要第14号、pp.395-407

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。

(構成:矢口)
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