「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方
算数授業における「個別最適な学び」を、非認知能力、GIGAスクール、自己調整学習…など重要なキーワードから紐解きます。
「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方(11)
個別最適な学びと学級経営
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2022/4/25 掲載

 個別最適な学びを行うということは、子どもを能動的な学習者に育てることを目指すことだと考えます。そのためには、子どもを自立させ、様々な人と協力できる力を養う必要があります。
 学習というのは、一人でできることは限られています。まわりの人と一緒に考えたり、困ったときは助けてもらったりすることも大切です。まわりの人と協働的に学ぶことで、一人では発見できなかったことも発見できるようになります。
 個別最適な学びを目指す場合、子どもに「だれとでもかかわる力」をもたせる必要があると考えています。そのためには、日々の学習の中で、「だれとでもかかわる力」を養っていくことが大切です。それが学級経営にも直結します。 
 今回は、学級経営という視点から、個別最適な学びについて述べていきます。

個別最適な学びを支える学級経営

 個別最適な学びを実現するために実践を重ねていると、あることに気づきます。それは「学級経営が根幹になっている」ということです。
 もし、個別学習をしようとしたとき、学習が一人で進められないで困っているのに、だれともかかわれなかったり、まわりに同じ問題を解いている人がいるのに、自分が話しやすい人のところに移動したりする子どもがいたら、どうでしょうか。それは「孤立学習」につながってしまったり、「特定の人とかかわれればよい」という、ある意味ではいじめを助長するような考えに至ってしまったりする恐れがあるということです。
 だからこそ、個別最適な学びを進めていくうえでは、学級経営のあり方を考える必要があるのです。
 ただし、「学級経営が先で、個別最適な学びが後」ということではなく、個別最適な学びを実現しながら、よりよい学級を築いていくということです。個別最適な学びを、学習の手段だけでなく、学級づくりの手段にもしていくということです。

個別最適な学びを実現するための基本的な考え方

 個別最適な学びを実現するための基本的な考え方として大切なことは、「だれとでもかかわる力」を養うということです。
 もしこの考え方がないと、「困ったらだれかに相談してみるといいよ」「問題が解き終わったら、他の人と話して共通する考え方を見つけられるといいね」といった声かけをしたとき、子どもたちはどんな動きをするでしょうか。きっと、普段の人間関係に基づき、仲のよい友だちのところに移動するのではないでしょうか。それでは、学級を壊してしまいます。
 私は、いつも「休み時間や休みの日に、〇〇と遊びなさい、みんなで遊びなさいなんて言いません。でも、学習のときは別です。学習は『だれとでもかかわる力』を養うための場でもあります。ですから、学習しているときは、まずはまわりの人と協力しながらいろいろな課題に取り組んでみてください」と伝えています。この言葉かけが結構大切だと考えています。
 すべての時間を教師の理想で縛るのではなく、普段かかわらない人とかかわる理由をきちんと伝えることが大切だと思うのです。最初は指示に従っただけだとしても、席がたまたま隣になってかかわるようになったことで、普段の人間関係に良好な影響が及ぶことも多々あります。
 「だれとでもかかわる力」を養うためには、席替えの方法も考える必要があります。そこは、それぞれの価値観があるので、子どもと一緒に考えながら決めていくとよいと思います。

まわりの人と協働することと学級経営との親和性

 個別最適な学びを実現するために、個別学習は大切な学習形態だと考えています。この連載で述べている個別学習とは、子ども自身が取り組む問題を考えたり、まわりの人たちと一緒に相談したりしながら学習を進める学習形態です。子どもが自ら学習を決定する形態とも言えるでしょう。特に、まわりの人たちと相談しながら学習を進めることを子どもが選択できるようにしておくことは、学級経営をしていくうえでとても重要です。
 宗形・山本(2015)は、協働学習と個人学習の学級への親和性について調べ、「協働学習には、既存の私的な人間関係にとらわれない新たな関係を希求する態度を醸成する可能性があることが示唆されたと考えられた」と述べています。この研究結果は、まさに、「だれとでもかかわる力」を養うことを意識させ、普段の関係とは異なる人とかかわる機会を設けることが、お互いのよさを再発見したり、認め合うことにつながり、学級経営においても効果的であることを示しています。
 また、「だれとでもかかわる力」が養われることは、子どもを自立させることにもつながります。自立というのは、「何でも一人で問題を解決できるようになる」ことではなく、「自分でも考えるけれど、困ったら、人と協力して問題を解決できるようになる」ことだと考えています。汐見(2021)は、東京大学先端科学技術研究センター小児科医の熊谷晋一郎さんの言葉を引用しながら、「熊谷さんは、『自立とは依存先を増やすこと』と言います。私たちは、誰かに依存しなければ生きていけない。これは、障害がある人だけではありません。障害があってもなくても、人間はたった一人では生きてはいけません」と述べています。
 「自立とは依存先を増やすこと」という言葉は、「子どもを自立させる」ということを考えるときに意識しなければならない言葉ではないでしょうか。だれとでもかかわることができるようになれば、当然、困ったときにかかわれる人も増えていきます。まさに「依存先が増える」のです。

個別学習における、まわりの人とのかかわり方の順序

 私が個別学習のときに子どもに声かけしていることは、以下の通りです。

1 最初の問題は、まずは自分で考えてみるといいよ。
2 問題が解けたら、まわりの人の解き方と見比べて、同じところや違うところを見つけて、共通する大切な考え方を見つけられるといいね。
3 自分でわからなかったら、まわりの人と一緒に考えてみるといいよ。
4 最初の問題が解けたら、解けた問題を発展したり、気になったことを調べたりできるといいね。そのときも、まわりの人と一緒にやってみると、いろいろと発見できるかもしれないよ。

 2〜4に「まわりの人」という言葉が出てきますが、2,3に限っては、「まずは、自分の席のまわりの人」という意味です。ここは最初に伝えます。自分で問題を解けた後、もしくは、自分では問題を解けなかった場合、「まずは、自分の席のまわりの人」とかかわるように伝えます。
 私は、席替えをくじ引きで決めています(身体的な理由等、席の場所に配慮が必要な子どもを除く)。そうなると、自分のまわりの人は偶然で決まります。普段の人間関係とは関係ない人が座っていることが多くなるということです。よって、「まずは、自分の席のまわりの人」とかかわることで、「だれとでもかかわる力」を養うことにつながるのです。
 当然、自分の席のまわりの人だけでなく、少し離れた席の人の声も聞こえてくるので、その人たちとも意見交換をすると、より多様な考え方がわかるのでそれはそれでよいことです。しかし、「まずは、自分の席のまわりの人」とかかわることが、「だれとでもかかわる力」を養うためには必要だと考えています。
 4の「まわりの人」は、特に限定しません。なぜなら、ここは「学習の個性化」が行われる場面であり、発展させた問題や調べたいことは、子どもそれぞれで違うからです。
 「学習の個性化」が行われる場面においては、学習の中心に、子どもが興味・関心をもっている問題があります。解きたい問題に合わせて柔軟に人間関係を組み替えていけるような力を育てることも、学級経営においては大切です。「○○さんがやるからやる」のではなく、「自分がやりたいからやる」という、他人に依存しないで行動する力を養うことが、人間関係を優先するのではなく、一人ひとりの考えを尊重する態度につながるからです。

学習感想

 私は、学習感想にも「その他(友逹の考え方や友逹との関わり方なんかについて書くといいかもね)」という欄を設けています。「その他」なので、学習の内容について書く子どももたくさんいますが、学習内容について書くことが思いつかない場合は、まわりの人とのかかわりについて書くことをすすめています。そうすると、だんだんと授業中もまわりの人とのかかわりを意識するようになり、まわりの人とかかわることのよさや価値に目を向けるようになります。
 例えば、下の学習感想は、まわりの人と解き方を交流することで、自分では気づけなかったことに気づけたことを書いています。

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 次の学習感想を見ると、最初に解いた問題を発展させた友だちの問題を解いた感想を書いています。

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授業の時間で学級経営をする

 これは、教師ならばだれもが一度は言われたことがある言葉ではないでしょうか。私は10年以上教師をしていますが、今、改めてこの言葉の意味を強く感じています。
 学級は一朝一夕では成り立ちません。学習だけでも成立しません。行事も大切です。しかし、学校にいる時間の8割は授業の時間だと言われます。この授業の時間を通して学級経営をしなければ、学級が成り立たないことは明らかでしょう。
 個別最適な学びでは、「子どもが主役の学習」を目指すことになります。そうなれば、学習形態も子どもが決める場面が増えていきます。それはよいことなのですが、その前提として、「だれとでもかかわることが大切」という認識をみんなが共有しておく必要があると考えています。もし、自分の都合のよい人間関係だけを大事にして学習形態を決める学級になってしまったらどうなるでしょうか。「子どもが決める」ことは、「何を大切にするのか」ということを共有したうえでやらなければ、学級経営にひびが入ってしまう恐れもあるということです。「子どもに委ねる」のと「子どもを放任する」ということは、表面上の活動は似ていても、似て非なるものだと意識しなければならないと考えています。
 「何を大切にすべきか」が子どもの間で共有できていれば、何かトラブルがあったとしても、それは話し合って解決し、次に生かすことができます。
 個別最適な学習を目指すからこそ、子どもは授業時間の中で、人とのかかわり方について考えることができるのだと思います

【参考・引用文献】
・宗形美郷・山本奨(2015)「協働学習への参加形態が児童の授業評価と学習成果に及ぼす影響―算数科教育の実践と学級経営の視点から」、岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要第14号、pp.395-407
・汐見稔幸(2021)『教えから学びへ―教育にとって一番大切なこと』河出新書、p.67

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。

(構成:矢口)
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