「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方
算数授業における「個別最適な学び」を、非認知能力、GIGAスクール、自己調整学習…など重要なキーワードから紐解きます。
「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方(3)
「数学的な見方・考え方」を重視した個別学習の進め方(授業前半編)
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2021/8/25 掲載

 前回、単元の中で一斉授業と個別学習を分けて単元構成を考えることを書きましたが、個別学習といっても、あくまで一斉授業があっての個別学習ですし、協働的な学習に支えられて個別学習が実現できるのです。そのうえで、個別学習をどのように進めていくかを紹介します。
 1時間の授業で考えれば、前半は教科書の問題を解きます。問題を解くことを通して、子どもは大事な「数学的な見方・考え方」を見つけます。後半では、前半で見つけた見方・考え方を働かせながら、問題を発展させたり、探究したりすることを目指していきます。
 問題を解いて終わりではなく、そこから大切な見方・考え方を見つけ、見つけた見方・考え方を働かせて、自ら学習をつくっていく子どもを育てるための授業のあり方を考えます。

単元の導入で大事な見方・考え方を共有する

 単元の導入では、既習とのつながりやその単元の学習で大切になる「数学的な見方・考え方」をクラス全体で共有します。個別学習の基になる内容です。そのため、単元の導入では、問題解決を通して一斉授業を行うとよいでしょう。
 下の板書の写真の1つめは6年生の分数×分数の導入の板書で、2つめは分数÷分数の導入の板書です。

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 この2時間で、分数×分数と分数÷分数が、5年生の小数のかけ算やわり算の学習からつながっていることを意識させるとともに、「分数×整数や分数÷整数に戻して考える」「いつでも使える形式に整える」という見方・考え方が重要であることを確認していきました。
 3時間目は1、2時間目を振り返り、4〜7時間目は1〜3時間目の学習を基に個別学習に取り組みました。
 一斉授業といっても、教師から一方的に知識を伝達するのではなく、子どもがまわりの友だちと話し合ったり、みんなでいろいろな解き方を出し合って議論したりしながら、既習とのつながりやその単元の学習で大切になる見方・考え方をクラス全体で共有することが大切です。一斉授業で「どのように学べばよいか」という学び方も共有し、個別学習において自分で学べるようにしていくのです。

個別学習の時間の進め方

 4〜7時間目は、以下のような学習の内容を扱いました。

4時間目…途中で約分のある分数×分数、分数÷分数
5時間目…帯分数・整数の混ざった×分数、÷分数
6時間目…乗数と積、除数と商との関係
7時間目…分数×分数の計算のきまり

 それぞれ教科書にある問題を2問程度載せたワークシートを用意します。ワークシートといっても、振り返り部分以外は問題しか掲載していません。例えば、4時間目であれば、8/9×3/10と9/14÷3/4の2問だけです。
 4時間目のはじめに、4〜7時間目の分のワークシートを配付し、「自分のペースに合わせて先に進めてもよい」と伝えました。最低限1時間に1枚は終わらせて、提出することだけを約束し、個別学習に取り組ませます。

45分の中の個別学習の実際(授業前半)

@問題を解く
 まず、子どもはワークシートに書いてある問題を解きます。大事なことは、問題を解いて「大切な見方・考え方は何か」を考えることです。最初のうちは、ワークシートにも「なぜそうしようと思ったのか、どうやって解いたのか、大切な考え方やわかったこと、を書いてみましょう」と記載しておくと、解き方や考え方を意識して問題を解くようになります。
 下のワークシートは、4時間目に子どもが実際に書いたノートです。

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 大切な見方・考え方として、「計算の途中で約分してもよいこと」「計算の途中で約分してよいかを確かめるためには、途中で約分しないで計算した答えと同じになることを確認すること」が書かれています。

A大切な見方・考え方を共有する
 大切な見方・考え方というのは、自分一人では気づけなかったり、気づけたとしても、自信がもてなかったりします。そういうときは、まわりの友だちと確認する習慣をつけておくと、自信をもって次の学習に進むことができます。
 また、まわりの友だちと共有することも大切ですが、まわりの友だちだけだと間違っている可能性があります。一斉授業であれば間違いにも気づきやすいのですが、個別学習だと気づきにくい場合があります。
 そこで、大切な見方・考え方をタブレットを使って共有することをおすすめします。プラットフォームとなるアプリを使うと、大切な見方・考え方の共有もしやすくなります。子どもにプラットフォームに大切な見方・考え方を投稿させ、それをお互いに見るだけです。そうすると、まわりの友だち以外の子も、同じような見方・考え方を働かせていることがわかったり、自分たちでは気づけなかった見方・考え方に気づけたりします。また、手が止まってしまっている子どものヒントにもなります。
 本校ではMicrosoft Teamsをプラットフォームとして使っています。下の写真は、5時間目の授業(帯分数・整数の混ざった×分数、÷分数)の大切な考え方をTeamsで共有した際の画面の一部です。

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 なお、個別最適な学びにおけるタブレットを使った学習の仕方については、今後の別の機会に紹介したいと考えています。

授業前半編のまとめ

 先に述べた通り、4時間目のはじめに、4〜7時間目の分のワークシートを配付し、「自分のペースに合わせて先に進めてもよい」と伝えましたが、先に進む子どもはいませんでした。ただ問題を解くだけならすぐに進めるでしょう。しかし、大事なのは、大切な見方・考え方を見つけることです。
 大切な見方・考え方を見つける過程で、「いつでも使える方法は何か」「この方法は他のどんなときに使えるのか」といったことを考えるようになります。すると、授業後半では、数値や場面を変えて問題をつくる姿や、数の範囲を拡げて規則性を見つけたり、一般化を図ったりする姿も見られるようになります。問題をたくさん解くのではなく、学習したことを発展させ、探究することが、個別最適な学びでは大切です。
 次号では、子どもがその日に解決した問題を発展させたり、探究したりする授業後半の進め方を紹介します。

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。

(構成:矢口)
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