「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方
算数授業における「個別最適な学び」を、非認知能力、GIGAスクール、自己調整学習…など重要なキーワードから紐解きます。
「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方(1)
「個別最適な学び」って何?
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2021/6/25 掲載

2021年1月26日に出された中央教育審議会答申のタイトルには「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜」と書かれています。我々が目指すべき今後の教育の中に、「個別最適な学び」というものが明示されたのです。それ以前にも、2019年6月に総務省から示された未来の教育ビジョンの中の、今後の教育改革に向けた3本の柱の中の1つに「学びの自立化・個別最適化」という言葉が示されています。しかし、中教審答申などで示されたからやるのではありません。個別最適な学びをやる価値があるからやるのです。

個別最適な学びは「飛行機能力」を養うことを目指す

 外山滋比古のベストセラー『思考の整理学』の中にこんな一文があります。
「人間には、グライダー能力と飛行機能力とがある。受動的に知識を得るのが前者、自分でものごとを発明、発見するのが後者である。両者はひとりの人間の中に同居している。グライダー能力をまったく欠いていては、基本的知識すら習得できない。何も知らないで、独力で飛ぼうとすれば、どんな事故になるかわからない」 
 この本が出版されたのは1986年です。今から35年も前に書かれた本ですが、この状況は変わっていないでしょう。個別最適な学びは、「飛行機能力」を育てるための学びとなる必要があるのです。
 しかし、個別最適な学びは、すべて子どもの力に任せればよいというわけではありません。外山氏の言葉を借りれば、「グライダー能力」を欠いていては、基本的知識すら習得できません。そう考えると、自分一人では解決できない問題があったとき、まわりの人に聞いたりする力は不可欠です。「解決したい」「理解したい」という本人の前向きな意識がなければ、そういった力も身につきません。

個別最適な学びを考えるためのキーワード

 さて、個別最適な学びについて考えようとしたとき、どこから手をつければよいかわからないと感じたことがある方は多いのではないでしょうか。そこで、この一年間、いくつかのキーワードを通して、個別最適な学びについて考えていきたいと考えています。
 主なキーワードは以下の通りです。

  • 非認知能力
  • GIGAスクール構想
  • 自己調整学習
  • 学習評価
  • 資質・能力
  • 心理的安全性に裏づけられた学級経営
  • 協働的な学びとの関連
  • 単元構成

など

 例えば、「非認知能力」とは、困難な課題に対して我慢強く取り組む力のように、数値化して認知することができない能力のことです。与えられたテストでよい点数を取る力があっても、困難な課題に我慢強く取り組む力がなければ、「飛行機能力」は身につきません。
 このように、個別最適な学びを実現するためには、教師が学力観を転換することまで必要なのです。もちろん、育成すべき資質・能力を大切にすることは変わりません。新しい概念、今までに大切にしてきたこと、どちらも意識しなければならないのです。

個別最適な学びを実現する算数授業のつくり方

 この連載では「『個別最適な学び』を実現する算数授業のつくり方」について述べていきますが、できるだけ現実的に書いていきたいと考えています。個別最適な学びだからといって、教科の学習内容がおざなりになっては意味がありません。
 教科の学習内容には系統性がありますから、目の前の学習内容を理解していないと、次の学習を自分で進めていくことはできません。とりわけ、算数は他教科と比べても学習内容の系統性が強い教科です。長方形の面積の求め方を基に平行四辺形の面積の求め方を考える場面は、わかりやすい一例でしょう。ですから、学習内容をしっかりと身につけながら、個別最適な学びを実現する授業のあり方を提案できればと考えています。
 ポイントとなるのは、「数学的な見方・考え方」を働かせることであると考えています。個別最適な学びだからといって、一人で機械的にドリル学習を繰り返して答えが出せるようになっても、そのことに大きな価値はありません。算数の学習では、既習事項を使って新しい知識を自らつくり出していくことに価値があります。そのためには、数学的な見方・考え方を働かせ、新しい知識をつくり出すような個別最適な学びを行っていく必要があるのです。
 また、この連載では、算数授業を軸に話を進めていきますが、算数の個別最適な学びを考えることを通して、他教科における個別最適な学びにもつながっていくことを願っています。

【参考・引用文献】
・外山滋比古(1986)『思考の整理学』pp.10-15
・経済産業省(2019)「『未来の教室』とEdTech 研究会 第2次提言」
・中央教育審議会(2021)「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現〜(答申)」

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。

(構成:矢口)
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    • 2021/7/6 15:59:03
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