著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
モデル授業と動画を活用してオーダーメイドの授業をつくろう
東京学芸大学准教授鈴木 直樹
2023/2/24 掲載

鈴木 直樹すずき なおき

 東京学芸大学大学院修了。博士(教育学)。公立小学校に9年間勤務後、2004年から埼玉大学、2009年より東京学芸大学で勤務している。2008年にはニューヨーク州立大学コートランド校、2017年にはメルボルン大学で客員研究員として体育でのICT利活用に関する研究に取り組んだ。体育の学習評価研究を中心にしながら、体育教師教育の研究、子供中心の体育の実践研究、体育におけるICTの活用や遠隔体育に関する研究に学校教員や企業と連携して取り組んでいる。IOHSK 副会長、IAHPEDSアジア地区代表、TGfU SIG リーダーシップフェロー。

―本書は、中学校の保健体育の全時間に関して、各時間見開き構成で、授業展開例や指導と評価のポイントを解説した本ですが、まずは、本書の活用方法を教えてください。

 本書を活用して質の高い授業をつくるには、書籍の内容を参考にして皆さんの指導する学級に合わせたオーダーメイドの授業を開発することがポイントです。
 まず、各単元の冒頭にある、単元全体の内容と構成を記載したページにおいて、単元を通しての子供の学びをイメージしてください。単元のうちいくつかは、単元全体の流れを動画でも示しています。こちらを視聴して、単元全体の見通しをもつとよいと思います。それにより育てたい子供像が明確になり、授業展開の中で、どのような方向に子供たちを誘っていこうとするのかがはっきりすると思います。
 次に、授業で活用する教材づくりを考えます。本書では、全時間において、毎時間の主活動等を動画で紹介しています。こんな活動をやってみるとよいという例示として参考にしてもらいたいと思います。
 また、指導と評価の一体化は、大変重要です。よい学習とよい指導とよい評価は表裏一体の関係にあります。本書を手にとってくださった先生方の授業中のよりよい教師行動を生み出すのも評価の役割と言えます。そこで、どんな評価規準をもって授業にのぞみ、それをどう活用して評価をするのか、その具体も示されています。それを参考に、目指す授業像と照らし合わせて、よりよい評価実践を取り入れていただきたいと思っております。

―本書は全時間において動画で中心となる運動や活動が閲覧できるというのが魅力ですね。動画の活用方法を教えていただけるでしょうか。

 動画は、文章やイラスト以上に具体的な活動イメージを提供してくれ、授業づくりを効率的かつ効果的に行うことを支援してくれます。
 具体的な動画の使用方法は、次の3つです。第一に、先生方が授業で実践する活動を考える上で、動画の活動を参考にして教材を開発するということです。第二に、その動画を使って、子供たちに活動を示すということです。第三に、その活動を子供たちの問題解決に生かすということです。
 この3つの使用方法を有効にするため必要なことは、まず、取り上げる授業で目指す授業イメージをしっかりもつことです。また、運動の特性をしっかりと押さえた上で、子供たちの実態を把握し、子供視点で動画の活用について考えることです。この2つを大切にして、上記の3つの使い方をしてみることで、よりよい体育授業の創造につながると思っています。

―各単元の最後にはICTと学習カードの活用に関するページが設けられています。保健体育で、効果的にICTや学習カードを活用するヒントを教えていただけますか。

 身体活動を中心とする体育では、ICTの活用方法が他教科とは異なります。また、保健の授業でも具体的なICTの活用方法に困っている先生も多いと思います。そこで、本書では、様々なICTの活用事例をできるだけ含めていくように心がけました。それを参考にしてご自分の端末のシステムやアプリケーションに応じて工夫して活用してもらいたいと思います。例え、端末のOSが異なっても、搭載されているアプリケーションが異なっていたとしても、その実践の取り組みを自分の環境下で実現できる方法はあると思います。
 また、体育の教科学習を展開する上で、学びの履歴づくり、学びを価値づける上で学習カードの活用は頻繁に行われていると思います。しかし、自分が構想した単元とうまく適合した学習カードはなかなか見つからないため、既存の学習カードを参考に修正をしていくと思いますが、それはなかなか大変な作業です。そこで本書では、実態に応じた学習カードを誰でも効率よく作成できるよう、本書で紹介した学習カードを加工可能な電子データの形で提供しています。読者の皆様はそのデータをダウンロードして適宜アレンジすることができるのです。

―本書の書名にもあります「生徒主体の学習の場をデザインする」というのはどのようなことでしょうか。授業づくりにおける心構えとともに教えていただけますか。

 授業づくりを行う際、「子供が楽しく意思決定しながら学ぶ」ことを大切にするとよいと思います。そのためには、子供たちは自己自身で学びを拓く力があると信じることです。そして、それを引き出す環境づくりが教師の中心的な役割ともいえます。つまり、この単元で期待する学びを引き出す条件を整え、それを引き出すための働きかけを工夫する必要があります。この働きかけを「指示」から「問い」へと変化させていきましょう。教師の問いを手がかりに、子供たちは学びを見つめ、自分たちの位置を把握して(評価)、自分自身の道を切り拓いていくのだと思います(問題解決)。そんな学習環境を物的にも人的にも整えていくことが教師には求められています。

―最後に、全国の先生方へ向け、ぜひメッセージをお願いします。

 本書はただ真似をすればよいモデル授業を示しているだけでなく、先生方の個々人にとって最適化された体育授業をつくり出すために、その授業の源を提供しているようなものです。ぜひ、本書を読み、本書の材料を活用して読者の先生方自身にとってよりよい授業を実践してほしいと思っています。私たち執筆者は、この書籍を通して読者の先生方と協働して授業をつくり上げていくようなイメージをもっています。

(構成:木村)
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