著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
小学生に必ず身につけさせたいスキル獲得プランが満載!
法政大学文学部心理学科教授渡辺弥生
2019/2/27 掲載
今回は渡辺弥生先生に、新刊『小学生のためのソーシャルスキル・トレーニング』について伺いました。

渡辺 弥生わたなべ やよい

法政大学文学部心理学科教授。法政大学大学院ライフスキル教育研究所所長。教育学博士。
専攻分野:発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学

―本書は、2015年発刊の『中学生・高校生のためのソーシャルスキル・トレーニング』の姉妹版です。中高生版に続いて、小学生版を発刊された理由を教えてください。

 私は、人の心の発達を研究しています。嬉しい、悲しいといった基本的な気持ちの獲得から、信じる心、思いやる心、慈しむ心といった内省を必要とする感情や考え方、そしてふるまいがどのように獲得されるかについて調べています。自我に目覚め、他人と異なる存在に気づき、互いに共存してくために助け合っていく考え方や具体的な行動レパートリーを獲得するプロセスは単純ではありません。質の高い経験の積み重ねが大切です。特に、児童期のソーシャルスキルの発達が、児童期以降の発達に大きな影響力をもつことが学術的に明らかにされています。小学校の授業の中に積極的に取り入れていただくことは是非とも必要です。

―中高生と比べて、小学生に対してソーシャルスキル・トレーニングを授業で行う際の留意点は、どのようなことがあるのでしょうか

 一口に児童期といっても、心の発達は直線的ではありません。なんでもできるという万能感が強い幼児期から、小学校に入り、周囲と比較し始め、必ずしも自分がすべてにおいて他人よりも優れているわけではなく、むしろ劣っていることに注意がいき、様々なコンプレックスを抱き始めます。誰とでも仲良くやっていけると思っていたのが、嫌いな人がでてきたり、なんでも正しいことを教えてくれる存在だと思っていた大人にそうでもない面が見えたりと、信じていた基盤が崩れやすく、多くの葛藤体験を抱える時期です。第二次性徴を迎える時期とも重なり、心が身体の発達に追いつかない時期でもあります(渡辺、2011)。こうしたプロセスを考えると、小学生の心の発達を理解し、心の葛藤を解決できる免疫力を早くから育てていくことは、次の思春期に問題を抱える予防につながります。そして、子どもたちがもつ大きなポテンシャル(伸びしろ)を開花させることにつながることに留意していただきたいです。

―本書のサブタイトルは「スマホ時代に必要な人間関係の技術」であり、「ネットで相手を傷つけないスキル」についても取り上げられています。今後、小学生のスマホ所有率も、ますます増えることが予想されますが、どのように情報機器の利用について指導すればよいとお考えですか。

 科学技術が進歩し、人の生活を便利にするモノやコトが次々と生み出されてきます。その存在自体は悪ではありませんが、ものごとの出現には副作用や思いもかけない負の出来事が必ずもたらされます。人には、ある程度先のことを想像できる力が与えられていますが限界があります。とりわけ、子どもたちの時間や空間、ものごとについての視野は狭く、浅い状況にあります。ただし、子どもたちは大人が考えている以上に、新しいものを使いこなし、時には無謀とも思われる勇気を発揮して、新しい体験を選ぶものです。ですから、ただダメだといった単純な制止をしても効力がありません。子どもたち自身が負の状況を想像できるように、理解できる説明やイメージ、疑似体験を与えて、誤った行動を選ばず賢い選択ができる力を育てていく必要があります。

―学校のカリキュラムに、どう取り入れるか課題を感じている方もいるようです。カリキュラムに入れる際のポイントを教えてください。

 ソーシャルスキル・トレーニングは、これまでの教育方法と対立する新しい方法ではありません。これまで子どもたちに教育を通して教えたかった教育の理念や価値観を、子どもたちの心にストンと落とし、子どもたち自身の学ぶ意欲を高め、よりよく生きるために活用できる力を身につけられるよう、学術的に実証されてきた効果のあるスベやコツを「一括した手続き」として授業に取り入れるよう推奨しているだけです。
 子どもに理解しやすい説明(インストラクション)、イメージとして理解できるようにする模範を与えること(モデリング)、自身の体験として会得するための練習(リハーサル、ロールプレイなど)、より適切な行動化を目指すプロセス(フィードバック)、そして、授業で学んだことを生活経験に応用すること(ホームワークやチャレンジ)、を一つのセットとして提供しているのです。すでに多くの先生方が無意識に部分的に取り入れてこられたことかもしれません。
 この本では、授業で活用できる一つのモデルを提案していますが、学校レベル、クラスの授業レベル、個別の対応レベルなど、カリキュラムに柔軟にカスタマイズして取り入れていただくことが可能です。重要なポイントは、意識して取り入れるということです。

―子どもたちのソーシャルスキルを高めたい!と本書を手に取られた読者の方にメッセージをお願いします。

 人として生きるために必要な考え方、ものごとの感じ方、そして行動のあり方を教える場所として、家庭や学校は大切な環境です。大人は子どもが将来社会において幸せに生活できるよう社会化する担い手の役割をもっています。教える内容は具体的なことにとどまらず、自尊心、感謝、共感性、正義など抽象的なことが多く、子どもたちにこうした概念を悟ることができるように関わっていくことはたやすくありません。そのため、時に業を煮やし、怒鳴り、体罰にはしる人がいますが、教えるプロとしては失格です。
 こうした見えない難しい概念を、子どもたちが「なるほど、そういうことか」と会得できるよう「見える化」するために、ソーシャルスキル・トレーニングは大役を果たします。子どもたちには素晴らしい想像力や理解力があります。世の中はきれいごとだけではすまされず、誤った考えをもち、後悔する行動をし、恥ずかしく惨めな気持ちにさらされることをたびたび経験する世界であることを想像させることができます。人の未熟さや陥りがちな過ちを疑似的に想像させつつも、現実にどのような対応をしていくことが望ましいのか深く考えさせる授業が大切です。自分も他人も互いに未熟であり、時に傷つけ合うこともありつつも、同時に互いに高め合い幸せをわかち合える存在であることを繰り返しわかりやすく伝えていきたいものです。
 まずは、提案されている授業をやってみてください! 山を登った者だけが山の向こうの景色を見られるように、体験することは想像以上に多くのことを学ばせてくれます。
 この本が少しでもお役に立てれば嬉しいです。

(構成:茅野)
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