著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
不器用…でも大丈夫!感覚統合を活かした支援
(株)アニマシオン プレイジム代表太田 篤志
2017/9/14 掲載

太田 篤志おおた あつし

(株)アニマシオン プレイジム代表
姫路獨協大学客員教授
日本感覚統合学会常任理事
日本スヌーズレン協会理事
これまで学童保育・保育所、重症心身障害児施設、療育センター、小中学校・特別支援学校などの現場にて発達障害のある子に対する作業療法・感覚統合療法などを実践。広島大学医学部助手、姫路獨協大学教授などを歴任し、感覚統合機能検査の研究開発に携わる。2012年に姫路獨協大学教授を退任し、客員教授に就任。2014年、(株)アニマシオンを設立、取締役に就任。児童発達支援・放課後デイサービス・保育所等訪問支援事業所の運営に携わりながら、子どもたちが手軽に楽しめる感覚統合遊びの研究・実践を行っている。

―先生は本書の中で、苦手な動作を訓練的に行うのではなく遊びを通して関連要素に働きかけ土台の力を育むアイデアを紹介くださっていて、私はその考え素敵だなぁと思いました。苦手なことばっかりさせられるの、辛いですから!でも苦手さの土台にあることというのがなかなかわからないのですが、どんな土台の力があるのでしょうか?

 鉛筆で字を書くことの苦手さは、周囲の大人がとても気にする手先の動作ですね。鉛筆の操作は、拇指、示指、中指の3本の指の細やかな動きが重要ですが、その他の2本の指(薬指、小指)も手を固定するために役立っていますし、さらに手首や肘、肩の安定性・固定性が指先の巧緻性を支えています。このような力を本書では、「カラダ土台」「手のこなし」として紹介しています。就学前に焦って運筆のワークブックなどに取り組むことも多いかと思いまが、本来、鉛筆を操作するために必要な様々な能力が遊びを通して備わっていれば、自然と上手く書けてくるものなのではないでしょうか。

―感覚統合の考え方を活かした支援のヒントとのことですが、「感覚統合」というのはどんなものなのでしょうか?

 感覚統合とは、外界(環境)からの情報と自分の体からの情報を整理し、自分の体を適切に効率よく動かすための機能です。手先の動作というと運動の部分だけに注目してしまいがちですが、適切な手先の運動をするためには、自分の手の筋肉からの情報を受け取り、手の動きを把握しておく必要があります(手指図式)。同時に操作している対象物の特性を見て把握するだけでなく、皮膚の感触や握った感触(硬さや重さなど)を捉え、対象物に応じた手の動作を調整する必要があります(慎重遊び)。また感覚統合の機能が上手く働かないとき、姿勢保持の力や両手の協調性、順序性に苦手さがみられることがあります。これらの要素を育む方法として、本書では、「カラダ土台」「まとめ・つなぎ」の遊びを紹介しています。

―先生はOT(作業療法士)という専門職でいらっしゃいますが、この「OT」というのはどのようなお仕事なのでしょうか?

 作業というと、単純で繰り返しの手作業や仕事というイメージかもしれませんが、作業療法の作業には、「意味あることに携わる」という意味が込められています。ゆえに作業療法士は、対象者にとって意味ある活動に携わることを通して、対象者の様々な能力を開花させていきます。対象者が子どもの場合、意味ある活動として用いられるものは、「遊び」です。作業療法士は、提供する遊びが、子どもにとって治療や訓練と感じるものでなく、主体的に楽しく取り組めるものになるように工夫しています。それが作業療法士の仕事の楽しさですね。

―不器用さがあり苦手だけれども、ちょっとやってみよう、やってみたいな、と子どもから意欲を引き出すコツのようなものはあるのでしょうか?

 子どもの楽しさから始めることです。大人が一方的に決めた遊びではなく、子どもに経験して欲しい機能的要素を、子どもの興味や嗜好性・志向性に沿った遊びのなかに組み込んでいくことが大切です。そしてその遊びの難易度が、適切であることも重要です。簡単すぎる遊びは、子どもにとって退屈で魅力のないものですし、難し過ぎる課題は、子どもの自信を失わせてしまいます。どんなに小さなことでもいいので、遊びを提供したときに子ども自身の力で「できた」ということを実感できるように遊びを工夫しましょう。

―実際に不器用な子どもの指導にかかわっておられる先生方にメッセージをお願いします。

 「何かができるようになること」これはとても大切なことです。しかし,それ以上に,「自分の手の能力に自信を持ち,自分の手を使って意欲的にチャレンジし,自信を持って自分の世界を広げていけるようになること」が大切です。そして何かができるようになったことを褒めるだけではなく、その子どもの感動を一緒に共有し、他者に褒められるからではなく自分自身の成長に喜びを感じ、周囲の人もそれを共に喜んでくれる環境が大切なのではないかと思います。

(構成:佐藤)

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