著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
主体的・対話的で深い学びのある高校英語の授業づくりのために
大阪樟蔭女子大学教授菅 正隆
2017/8/2 掲載
今回は菅正隆先生に、新刊『アクティブ・ラーニングを位置づけた高校英語の授業プラン』について伺いました。

菅 正隆かん まさたか

大阪樟蔭女子大学教授。1958年岩手県北上市生まれ。大阪外国語大学卒業後,大阪府立高等学校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て、2009年4月より現職。文部科学省教科調査官時代、日本初の小学校外国語活動導入の立役者。英語授業研究学会理事。

―高校の学習指導要領改訂の方向性が示され、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」を実現する授業改善が求められています。英語では知識偏重型の授業から脱却するために何から取り組めばよいでしょうか?

 大学入試センター試験が廃止され、大学入試が大きく変わることにより、従来の知識・技能面を重視した授業形態から思考・判断・表現を重視した授業に変更することが急務です。ご存じのように、National Training Laboratoriesから出されているラーニングピラミッドでは、「講義」形態の授業では学修者の平均定着率は5%、「読む」活動では10%、「視聴覚」教材を使った授業では20%と、あまり効果が期待できないことが分かっています。一方、「グループでの討論」では平均定着率が50%、「体験を通した学習」では75%、「学んだことを人に教える」活動では90%の定着率になります。つまり、得た知識をいかに授業で生徒に言語化させるか。知識偏重型から、生徒中心の授業に変え、いかに考えさせ、討論などをいかに随所に盛り組むか。具体的には、

 授業導入時に基礎基本を押さえた後は、決して教師が主役になってしゃべりすぎない。
 生徒を主役に置き換え、ペアやグループで討論させたり、発表させたりしながら、時には発表者、時には評価者にさせ、自分たちで考える場面や、批判させる場面を作り出す。

ことが大切です。
 そのためには、まず、ビデオやストップウォッチを使って、先生自身が50分間にどれほど話をしているかを記録することです。20分以上も一方的に生徒に話しているようでは駄目な授業と言われても仕方がありません。生徒の発話や活動を阻害していることに他ならないからです。

―Q1のような流れがある中、本書の第1章、第2章、第3章はどのように活用できるでしょうか?

 まず第1章で、アクティブ・ラーニングとは何かを知ることです。しかも、「主体的」の意味、「対話的」の意味、そして、「深い学び」をしっかりと理解することです。そこから、高校の授業にどのように取り入れるかを考えて、シュミレーションしてみることです。
 第2章では、先生方自身の授業を思い浮かべながら、イメージをもって、目の前の生徒や授業と比較してみることです。そして、可能であれば、今後の授業に落とし込んでいくことです。
 そして、第3章では、新しい評価の在り方から評価方法を改善したり、評価のポイントを見直したりすることに着手してもらいたいと思います。あくまでも、アクティブ・ラーニングは生徒の汎用的能力を向上させることをねらいとしていますので、単元や単年で判断することではなく、長い(高校3年間)期間で育て上げるものと理解していただきたいと思います。

―本書第2章の学年別事例は、基礎編と発展編に分かれた授業プランが紹介されています。これはどのように活用できますか?

 先生方の目の前にいる生徒の状況に合わせて、基礎編(やや易しめ)、発展編(難しめ)のいずれかを選んでいただきたいと思います。その上で、授業ごとに到達目標や最終的な活動をチェックし、それに至るプロセスを確認します。ここでアクティブ・ラーニングの手法が取られていますので、全体の流れをイメージしながら、ご自身の授業と比較していただければと思います。これにより、1時間の流れ、1年間の流れ、そして3年間の流れが分かっていただけると思います。これらをご自身の授業に投影していただければ幸いなことです。

―大学入試の改革が進められています。英語の新テストでは記述式やスピーキングテストが導入されることなどが検討されていますが、高校の先生方はどのようなことを意識して授業する必要があると先生は思われますか?

 まずは、生徒自身が考える場面や、思考する場面を授業の中に設けることです。思考のない言語活動は、単なる脊髄反射と同じくらい、意味のないものです。しっかりと考えさせて、しっかりと自分の考えや意見を相手に伝えること、このことこそが入試に限らず、人生においても、とても価値のあることなのです。また、記述においては、普段から書くことに抵抗感を感じず、積極的に書かせるためには、不断の練習が最も大切です。つまり、毎時間、例え一文でもノートに英文(生徒自身が考えた内容)を書かせることが大切です。

―菅先生は以前高校の英語の先生でした。最後に全国で英語を教える先生方に一言お願いいたします。

 今、英語教育が大きく変わろうとしています。その渦の中に先生方は取り込まれています。例えば、小学校英語の教科化、指導語彙数の増加、入試改革等、日々めまぐるしく変化する中でも、おろおろとせず、泰然自若として、じっくりと生徒の生きる力、汎用性、英語力を身に付けさせていただきたいと思います。英語の力を生徒に身に付けさせることは、生涯にわたって幸せに人生を送れる一助になることを忘れてはいけません。ともに、生徒のために頑張りましょう。

(構成:木山)
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