著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
気になるあの生徒にやさしい方法は、学級全員にやさしい!
神奈川県横浜市立洋光台第一中学校教諭下村 治
2015/7/27 掲載

下村 治しもむら おさむ

1970年千葉県生まれ。東京理科大学理学部数学科卒業。
私立中高教諭,進学塾専任講師を経て,横浜市の公立中学校で通級指導教室を担当。その後,横浜国立大学教育人間科学部臨時教員養成課程特別支援教育コーディネーターコースを修了し,現在も通級指導教室で指導にあたる。支援センター機能を担当し,特別支援教育の視点を生かした授業づくりについて,地域の小中学校や他市からの講演依頼にも応じている。日本数学教育学会『数学教育』編集部常任幹事。

―本書では、様々な特性をもった生徒がいることを前提とした、授業づくりの工夫が紹介されています。例えば、板書については、どのような工夫の仕方があるのでしょうか。

 書き終わった板書が、動画のように動くことはありません。しかし、色づかいやレイアウトを工夫することで、授業の流れをわかりやすく、動きがあるように見せることは可能です。本書に示したように、見やすい色と見難い色を組み合わせて使う、手順を示す番号を振っておく、などの工夫で、そのまま生徒がノートをとったとしても、後で見直したとき、授業のライブ感がよみがえってきます。

―下村先生は、本書の中で「質問することはかなり高度な学習スキルである」と述べられています。その点を踏まえて、質問しやすい環境づくりの方法を教えてください。

 「自分は何がわからなくて、それをどう伝えたらよいか」ということが整理されていないと、本当に聞きたいことが教師に伝わらず、答えてもらっても何となく消化不良気味になってしまいます。
 そこで、カウンセリングのように、教師が質問に答える前に生徒の質問内容を繰り返してみて、「こういう質問なんだね」という確認をとると、生徒の表情も明るくなります。教師も過不足ない答えを返せますから、その後も安心して生徒は教師のところへ質問に来られるでしょう。

―本書では、ユニバーサルデザインとともに、個に対する支援の仕方についても多くのことが述べられています。通常学級の授業において、特に多動傾向の生徒への対応に苦慮されている先生は多いと思いますが、こういった生徒への支援の仕方のポイントを教えてください。

 じっとしていることが不可能だから多動傾向と言われるわけです。対応の仕方の発想を変えないと、教師が疲弊してしまいます。ポイントは、生徒が「動いてもよい時間」をつくることです。
 よく、英語や体育の時間は多動傾向が気にならない、という話を耳にします。例えば英語の授業では、集中力が切れてくる授業開始から20〜30分ぐらいのタイミングでコミュニケーションの練習などで立ち歩いてもよい時間があるので、その間に集中力が回復するというわけです。数学の授業でも、自由に発言したり、立ち歩いたりする時間をつくることがおすすめです。

―中学校においては、成績に直結する、いわゆるペーパーテストにおける個に対する支援も重要なものだと思います。このような、テストにおける合理的な配慮の具体的な方法を教えてください。

 テストは公平に行われなければいけません。ただ、何をもって公平とするのかは、よく考える必要があります。
 例えば、「入力→統合・処理→出力」という認知処理過程において、そのテストで評価する目的は何なのかを考える、ということがあります。本書でも触れたとおり、数学では、入力段階や出力段階より、統合・処理段階の力を特に評価するべきだと私は考えています。
 この点を踏まえて、読字障害で入力に時間がかかる生徒に問題文を音読して聞かせる、書字障害で出力に時間がかかる生徒に口頭試問をする、といった対応をして、統合・処理にかける時間を十分にとってあげることで、こういった生徒の数学の力をより適切に評価できます。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いいたします。

 様々な特性をもつ生徒が通常学級に存在する現状において、「こうすれば必ずうまくいく」というハウツーを見いだすことは難しく、私自身そのようなものは存在しないと考えています。
 しかし、そういった生徒を巻き込みながら授業をつくっていくうえで私が心がけていることや着眼点を、先行研究に基づいて書くことができましたので、先生方が指導の手がかりやアイデアを欲するときには大いに役立てていただけるのではないかと思っています。
 教育的支援に関する研究は日々進化していますので、皆様が本書をさらに一歩進めた新たな知見を付け加えてくださるとうれしいです。

(構成:矢口)

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