著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
困った時に友達が助けてくれるクラスをつくろう!
作新学院小学部教諭八島 禎宏
2014/11/7 掲載

八島 禎宏やしま よしひろ

1959年生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科修士課程修了 修士(教育学)。作新学院小学部教諭。日本カウンセリング学会認定カウンセラー会理事。日本カウンセリング学会栃木県支部会副支部長。日本生徒指導学会関東支部会理事。NPO法人栃木県カウンセリング協会理事。栃木ロールプレイング研究会 代表・監督
座右の銘は「啐啄同時」

―「気になる子」がいると、どうしてもその子どもだけの対応になりがちだと思います。クラス全体をまきこんだ指導とするために、教師が常に意識しておくべき視点とは何でしょうか。

 「気になる子」は、自分自身に対し「どうもうまくいかない」という感覚を大なり小なりに抱いていると思います。ただ、「うまくいかない」理由を他者に押し付けてしまって、自分の主張を通す場面を見かけることも事実です。やはり、身近な人にほめてもらい認めてもらうことが大切だと思います。結論として「同級生を中心とした仲間集団に受け入れられ、その仲間と共に活動していく」中で、互いが関係性を深めていくことが極めて重要なこととなります。教師は、その機会と場をコーディネートする役目があることを再認識してほしいと思います。

―本書では、「そっ啄(そったく)」という言葉がよく出てきますね。「そっ啄」の意味を教えていただけますか。また、本書のテーマとどのように結びつくのでしょうか。

 「そっ啄(そったく)」のそっ」は、孵化しようとしている雛が卵の殻を内側から突く音を表しています。「啄」は、「そっ」を聞きつけた親鳥が卵の殻を外側から突く音を表しています。自力で孵ろうとする雛を尊重しつつ、導くように少しだけ手助けしてあげる様子を表現しているのです。その意味から、絶妙のタイミングで教え導くことと意味づけすることができます。元々は、禅語の「そっ啄同時」という言葉から引用したものです。20数年前に出合った言葉です。後年、ヴィゴツキーの「最近接領域」を学んだ時に、「あぁ、そっ啄に似ているなぁ」と思ったものです。本書では、「そっ」は「気になる子」、「啄」は教師か、ときには「周りにいる子」という役割をもっています。

―第2章では、事例が沢山収録されています。本書の活用方法を教えてください。

 たとえば、第2章第2部の「集中力が続かない子」では、1校時の時間内に授業の山をいくつ提示できるかという教師側の課題を提案しています。さらに、「勉強のつまずきや心配事がないのかを探ってみること」の必要性も説いています。全体として、学習指導と生徒指導を「同じ時と場で同時進行で行う」ことの意義と有効性を実践報告しています。
 この理論と実践法は、対象が中学生でも高校生でも当てはまるのではないでしょうか。本書は、小学校の教師向けに書かれたという点は事実ですが、理論や実践法は中学生にも高校生にも当てはまると考えています。「ぜひ、多くの先生方に本書を活用してほしい」という願いでいっぱいです。

―第3章では、ロールプレイングの手法と実践をご紹介くださっています。ロールプレイングをすることにより、子どもたちにどのような変化があるでしょうか。

 単刀直入に述べさせていただくとしたら、大上段に上から命令調で言われることではないので「子どもたちは『警戒心』をほとんどもたない状態で学べる」という点がロールプレイングを採用する最大の利点です。「劇」風に進んでいくので、小学校の低学年から使える手法であるとも言えます。小学校高学年以上になると、自分の内面を見ることができるようになります。将来培ってほしい「洞察力」の育成・醸成にもつながります。
 まとめますと、ロールプレイングは「自分の内面に気づき」ます。この気づきは、自分との対話です。他人からの押し付けではなく、自らの気づきにより「望ましい方向」に歩み出せるのです。

―最後に、全国の先生方へ向け、メッセージをお願いします。

 全国津々浦々の先輩諸兄ならびに諸姉の先生方に、メッセージをお伝えできる機会に恵まれたことに感謝します。教師とは、教育の実践家だと思います。職場の先輩から教えていただいた指導教育法や、ご自分で苦労しながら努力して磨いてきた実践法が、先生方の今を支えているのだと思います。
 ただ、私自身、自分を顧みてみますと、実践に終始してしまい記録することを二の次にしてしまいがちだとずいぶん前に反省したことがありました。卵が先か鶏が先かの議論ではありませんが、実践と理論はとても大切なパートナーだと思います。実践家であるならば、まず記録を録ってみて修正を加えてみる。その繰り返しの中で、教師が子どもたちの前に立ったとしたら、それは子どもたちにとって安心できる頼りになる存在として目に映るのだろうと思います。
 本書を一読された後には、ぜひ記録を録りながら、追試のような形で実践されることを望みます。日々の実践を書きとめる「私の実践ノート」と3色ボールペンを用意していただければと思います。何かの折に、また皆さんとお会いできることを願ってメッセージとさせていただきます。

(構成:木村)

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