著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
子どもを幸せにする保護者とのいい関係づくり
帝京大学大学院教職研究科客員准教授吉本 裕子
2013/6/19 掲載
吉本 裕子よしもと ゆうこ

特別支援学級(知的障害学級)の担任として29年、その後管理職として11年、公立小学校に勤める。特別支援学級担任時代は東京キの個別の指導計画作成に携わった。校長時代は「特別支援教育の考えを基盤とした4つの教育改善」のテーマの下、通常の学級の担任と通級による指導担当者たちと研究発表を実施。平成25年3月に小平市立鈴木小学校の実践をまとめた『特別支援教育の視点で授業改善』を明治図書より出版。
現在 調布市教育委員会教育支援コーディネーター、清瀬市特別支援教育巡回指導員等。

―保護者との関係づくりに悩む若い先生が増えていると聞きます。先生ご自身もお若い頃に悩まれたことはございますか? 保護者との関係づくりでは何か一番難しいと感じますか?

 障害の重い子やどんな手のかかる子の対応より、保護者の対応は難しい!と、この歳になっても思います。信頼関係を築くことが難しいです。大人である保護者の方は、お一人お一人、人生を抱えていらっしゃるので、こちらが誠実に対応しているつもりでも、理解していただけず、しかられることも多かったです。もちろん、最後に理解してもらえてほっとしたケースもあります。

―特別支援教育をすすめるには、保護者との連携はかかせない要素と言われていますが、なぜ、連携がかかせないのでしょうか。

 しかられても、嫌われても保護者と連携をとらなければ、子どもを成長させることはできません。生活の多くの部分を子どもは家庭で過ごします。学校の力を最大限生かそうと思ったら、家庭の協力なくしては実現しませんから。

―特別な支援を必要とする子どもの保護者、ということで通常の子どもの保護者とは異なって必要になる配慮はどのような点でしょうか。

 通常の子どもの場合は、学んだことを自分の力で10にも20にも広げることができます。高学年になるに従って保護者の力を借りなくても、子どもが自力でできることが多くなります。しかし、特別な支援を必要とする子どもの場合、低学年は低学年なりに、高学年になっても高学年なりに、保護者の方の支援が必要になります。そのため、特別な支援を必要とする子どもの成長に合わせて、保護者の方と連携をとる必要があります。多くの子どもに触れている教育のプロとして、教師は、発達段階にあわせた具体的な助言や支援をする必要があります。単に、保護者の方に「お子さんが、困っています、ご協力をお願いします」と言っても、わが子のみとかかわっている保護者にとって、一般的な成長とひきあわせながら、これから成長するわが子のイメージをもつのは大変難しいでことです。より具体的に相談することが大切です。

―本書では29のケースをあげて「いい関係」づくりについて述べられていますが、どのケースを通しても感じられる、教師が保護者との信頼関係を築くために、一番大切なことは何でしょうか。

 実は、私も仕上がってきた29のケースの原稿を改めて見直しみてびっくりしたのですが、その多くのケースが「保護者の気持ちを受け止める」ところから始めると語っているのです。どんな無理難題を訴えてきた保護者に対しても、まずその思いを受け止め、つらい気持ちに寄り添うことが大切であることを伝えています。信頼関係の第一歩ですね。

―最後に、これからを担う若い先生方へのエールをお願いいたします。

 子どもはかわいいけど、保護者への対応を考えると……というは、教師の永遠のテーマかもしれません。保護者とのつきあい方に裏技はありません。まじめに、誠実に対応しましょう。「子どもの幸せために」がんばると思えば、前に進めます。

(構成:佐藤)

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