著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
美文字の達人直伝! 書写を効果的に取り入れて「書く力」を伸ばそう
横浜国立大学教育人間科学部准教授青山 浩之
2012/10/26 掲載
 今回は青山浩之先生に、新刊『「書く力」を育てる 小学校国語 書写の授業プラン』について伺いました。

青山 浩之あおやま ひろゆき

横浜国立大学教育人間科学部准教授。全国大学書写書道教育学会常任理事。公益財団法人独立書人団審査会員。財団法人毎日書道会会員。書写・書道に関わる研究活動や教員の育成をはじめ、教科書の執筆・編集などを行う。また、多くの人に書写・書道の魅力を知ってもらおうと、NHK「ためしてガッテン」「あさイチ」、日本テレビ「PON!」などテレビ番組の講師や全国各地での講演などでも、“美文字王子”の異名で活躍中!
主な著書に『こうすればきれいな字がかける』(小学館)、『仕事がもっとうまくいく!気持ちが伝わる「手書き」ワザ』(日本経済新聞出版社)、『女子力が上がる 美文字練習帳』(日経BP社)、『脳トレ書道トレーニングブック』(二玄社)など多数。
青山浩之Webサイト―文字と教育―  http://www.field-design.info/

―まずは、新しい学習指導要領に基づいて求められている書写の力について、簡単にご説明いただけますか?

 端的にいえば、“半紙を書くことが学習のゴールなのではなく、半紙に書きながら身に付けたことを日常に生かすことが学習のゴールである”ということです。
 書写は、文字の書き方を学習したり毛筆を使ったりするという点で、書道と同じだと考える方も多いようです。でも、現在の教育課程では、書道は芸術科、書写は国語科であり、位置付けられる「科」が異なります。「科」が異なれば、学習目標や学習内容は当然違ってきます。
 学習指導要領では、

国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し、伝え合う力を高めるとともに、思考力をや想像力及び言語感覚を養い、国語に対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる。

(平成20年告示 小学校学習指導要領)

と国語科の目標が示されており、書写はその目標のもと、言葉の力を育む教育の一環として取り組むことが求められます。

―書写指導で中心となる学習事項とは何でしょうか? また、それらの学習事項を教える際に気をつけるべきことはありますか?

 書写指導の学習事項は、簡単に示すと以下の5つになります。

  1. 姿勢・持ち方
  2. 筆使い
  3. 筆順
  4. 字形
  5. 配列・配置(字配り)

 これらの事項を教える際に、最も気をつけるべきことは、なぜこのような事項を学習するのかということをきちんと学習者に伝えていく、ということです。本書でも繰り返し述べていますが、書写は、だれのために身に付けるのか・何のために学習するのか、という学習の目的意識をはっきりさせる必要があります。
 1〜3の事項は学習者自身の「書きやすさ」に、4・5の事項は読む相手の「読みやすさ」に機能することを、子ども自身に意識化させることが「日常に生きる」書写学習のためのポイントです。

―先生は様々なメディアで、書写・書道の魅力を広めようと活動されていらっしゃいますが、子どもたちが書写・書道の力を身に付ける意義とは、何でしょうか?

 「きれいな文字を書きたい」と願う人がますます多くなっていると感じます。そんな方々の多くが「きれいな文字=手本のような文字」ととらえているようです。では、なぜ文字はきれいな方がよいのでしょうか? それは、読む相手が読みやすい必要があるからです。そうすると、「手本のような文字」というよりは、「人に読みやすい文字」「人に伝わりやすい文字」が本来の目標になるはずです。
 わたしは多くの方に、きれいな文字を書く目的や、相手への意識の大切さをお伝えしたいと思っています。話し言葉と同様、相手のことを思いながら自分らしい文字で伝え合う。当たり前のことですが、それは言葉の力やコミュニケーション能力の基礎だと思います。

―本書でも目指されている、書写の最終的な目標である「書写の力を日常に生かす」ために、気を付けたいポイントや特にオススメの実践アイディアがあれば教えてください。

 本書では、お世話になった方へのお礼状や学校内の掲示物、特別なものとしては運動会での文字表現パフォーマンスなど、日々の授業から特別なイベントの場まで、様々な場面での書写の活用例を紹介しています。国語の授業や総合などとの関連を図りながら、書写の授業で身に付けた書写力を生かしたり、書字文化に触れたりすることのできる実践アイディアです。「ひみつ図鑑」や委員会のリーフレット作り、2分の1成人式に夢を掲げる取り組みなど、すべてがオススメです。
 こうした活用の際に気を付けたいのは、書写の学習時間の中で習得した知識や技能を、子どもたちが日常の文字を書く言語活動にうまく生かしていけるよう、授業内外を問わず支援していくということです。詳細は、ぜひ本書をご覧ください。

―最後に、読者の先生方にメッセージをお願いいたします。

 「書写が苦手」という先生方の声をお聞きすることがあります。それは、書写に対して「文字を上手にする学習」というイメージが強すぎたからではないでしょうか?
 本書でもお伝えしているように、わたしたち教師は、子どもたちの学習を支えることがまず大切です。子ども一人ひとりが「どこをどのように直したら形が整うのか」といった気づきを持てること、そして変容した自分の文字を見て達成感を味わえること、そうした学びを支える視点こそがわたしたちに求められているのです。文字を上手に書けなければ書写は教えられない、という考えで後込みする必要はありません。
 文字の書き方などを通して子どもたちが課題解決する中で、思考力・判断力・表現力が育まれていきます。そして、生活の中で文字を大切に書き、伝え合う子どもたちの姿が広がっていきます。本書を通してそうしたイメージを持っていただけたらこの上ない幸せです。

(構成:林)
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