著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
確かな指導観に基づく道徳授業の創造を!
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官赤堀 博行
2012/6/4 掲載
今回は、赤堀博行先生に、新刊『道徳授業の定石事典―確かな指導観に基づく授業構想―』について伺いました。

赤堀 博行あかぼり ひろゆき

文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。国立教育政策研究所教育課程研究センター 教育課程調査官。東京都公立小学校教諭、東京都教育委員会指導主事、同主任指導主事等を経て現職。
<主な著書>『新小学校道徳指導細案』(明治図書),『道徳教育で大切なこと』(東洋館出版社),『心を育てる要の道徳授業』(ぶんけい)}

―先生は、本書の中で「確かな指導観に基づく授業の創造を」とおっしゃられていますが、具体的に「確かな指導観」とはどのようなものなのでしょうか。

 学校における道徳教育は、道徳の時間を要として教育活動全体を通じて行います。学校における道徳教育は、各学校の道徳教育の目標に向かって行われるもので、その目標は学校によって異なります。つまり、学校として子どもたちにどのような道徳性を養いたいのかを明確にして、日常の道徳教育を計画的、発展的に行うことが大切になります。先生方が道徳の内容について明確な考えをもって(価値観)、意図的、計画的に指導するとともに、それらの指導による子どもたちの状況を把握し(児童観)、それらを基に資料の活用方針(資料観)を定めて授業を構想することが大切です。これらの3つの「観」が指導観と言えます。

―発問等はもちろん、書く活動等の様々な指導の工夫まで、一貫して明確な指導観をもつためには、授業づくりにおいて、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。

 道徳の時間の特質である道徳的価値の自覚を深める学習をどのように行うのかを明らかにすることが大切です。それに合わせて、それらの学習における子どもたちの具体的な学びの姿を想定していくことも求められます。一つ一つの指導の工夫の目的は、道徳的価値の自覚につながっていることを確認するようにしたいところです。

―本書の特徴の一つに、詳細な資料分析図があげられると思います。資料分析を行うときのポイントを教えてください。

 綿密な年間指導計画には展開の大要が示されているものも少なくありません。道徳の時間の授業は、年間指導計画に基づいて行われることが基本ですが、指導計画の立案や研究的に授業を行う際には、資料の活用を考慮することになります。このときに資料分析を行いますが、資料と向き合うと、ともすると資料の流れに沿って授業を組み立ててしまいがちです。しかし、授業構想でもっと大切なことは授業者が子どもたちに何を考えさせたいのか、つまり指導観です。資料の中でもっとも考えさせたい中心場面を明確にして、その学習が充実するように前後の学習を考えることが肝要です。

―ところで、本書には、昨年、文部科学省から刊行された『小学校道徳 読み物資料集』掲載の新しい資料を用いた実践が取り上げられています。『小学校道徳 読み物資料集』活用のポイントを教えてください。

 文部科学省で作成した読み物資料は、すべてウェブ上に公開しています。具体的には、文部科学省のホームページから、「小、中学校、高等学校」、「道徳教育」と進むと、読み物資料集を閲覧することができます。実際に授業で活用する際には、ダウンロードして複写するなどの方法が考えられます。また、イラストをダウンロードして、板書資料などに活用することも可能です。資料は一定の道徳の内容を想定して作成してあり、活用例も示してありますが、どのように活用するかは授業者の意図によります。多様な活用を期待しています。

―最後に、本書を活用して、道徳授業づくりに取り組まれる先生方にメッセージをお願いします。

 道徳の時間の授業構想に際して、ともすると学習指導過程のスタイルや指導の方法の是非などに終始して、道徳の時間で行うべきこと、つまり、道徳的価値の自覚を深めるという特質が見失われることが少なくありません。授業をされる先生方には、道徳の内容にかかわる考えを明確にもち、子どもたちの状況をしっかりと把握して、資料の活用の方針を適切に定めた上で、道徳的価値の自覚を深め得る授業を構想することを期待しています。本書がその際の参考になれば幸いです。

(構成:茅野)
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