著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
すべての学習に生きてくる「書写スキル」を育てよう!
長崎大学教授鈴木 慶子
2011/9/23 掲載
 今回は鈴木慶子先生に、新刊『書写スキルで国語力をアップする!新授業モデル 中学校編』について伺いました。

鈴木 慶子すずき けいこ

長崎大学教授(教育学部初等教育講座)、書育推進協議会事務局
1987年、千葉大学大学院教育学研究科修了。千葉県立高等学校教諭(国語)、千葉大学教育学部講師(非常勤)を経て、1994年に長崎大学へ。
現在、科研費研究「学習基盤を形成する書字力育成プログラムの開発」を推進中。また、2011年11月開催の長崎大学「育シリーズ」第2弾「書育・音育・読育」の実行委員長として、小学生とその保護者を対象にした、手書きと他分野との関係をアレンジした楽しいイベントを準備中。
〈DVD〉『これからの書写指導に向けて』教育出版(2009年)、『新学習指導要領準拠指導事例・百人一首カレンダーを作ろう』経済産業省助成、非売品(2011年)など

―書写というと、とにかくお手本を忠実に真似るというイメージがあったのですが、本書では全く違う新しい「書写」の存在を提案されています。これからのあるべき「書写」とは、どのようなものなのでしょうか。

 「書写」は、文字を読みやすく整えて、速く、手書きすることをねらった学習です。
 これまでは、そういう結果のみを求めて、窮屈になっていた面がありました。これからのあるべき「書写」は、誰のため(自分も含めて)に書くのか、何のために書くのかをしっかり考え、それに応じた書き方が効果的にできるようになることを提案しています。
 効率を優先する場合には、手書きよりもパソコンがベストだと判断できるような認識を育成することでもありますし、手書きがベストだと判断できる場合には、躊躇無く手書きが実行できる能力を育成することをめざしています。 
 一方「書道」は、芸術として、文字を素材にし、線や造形による表現美を扱います。多様な美(たとえば、整斉な美、厳正な美、温雅な美、軽快な美、重厚な美、素朴な美、雄大な美、剛健な美など)について、鑑賞力や表現力の育成をめざしていきます。小学校・中学校の国語科書写で扱った楷書や行書の整斉な文字に関する知識や技法が土台となっていきます。だから、「書道」と「書写」は、共通する部分もありますが、目標も内容もかなり異なるのです。

―新学習指導要領では「言語活動の充実」が注目されておりますが、書写の授業では、どのような形でこれが実現できるのでしょうか。

 「言語活動の充実」のために必要とされる書写能力には、三つの柱があります。伝達性、記録性、表現性の三つです。それぞれに関して簡単にご説明しましょう。

@ 伝達性
目的や相手、書式にあわせて意思を的確に伝達するという言語活動の伝達性に資する書写能力のことです。その最たるものは、手紙や葉書を書く際に発揮される書写能力です。
A 記録性
外部からの情報に対してメモやノートで受け止める行動や、自分の内部から生まれてくるアイディアを詰まらせないで滑らかに書き留める行動を支える書写能力のことです。
B 表現性
短歌や俳句の創作活動を行う際に、その世界をより魅力的に見せる表現性を保障する書写能力のことです。

 以上は、これまでも授業で取り上げてこられましたが、低調でした。というのも、毛筆を使用した書写のみで止まっていると、これら三つの能力を育成する段階にまで到達できないのです。

―本書に収録されている授業モデルは二つのタイプに分けられていますが、どのような違いがありますか。

 本書では、実践を「コラボ型」「スキル型」の二つのタイプに分けてご紹介しました。
 作文や壁新聞を書く際には文字を手書きする能力が必要ですが、そういう場面で書写能力を発揮できるように仕組んでいくのが「コラボ型」の授業です。
 目標に向かって走っていると、必要なものがわかってくる。それが、今の自分に身に付いていないとしたら、訓練して身につけようと思う。その訓練は系統立っていたほうが効率がよいですから、そういう授業を「スキル型」授業と呼んでいます。

―書写の新しい授業スタイル「モジュール学習」とはどのようなものか、簡単に教えて頂けますか。

 始業時などの10分間程度、ある一定のテーマに基づいて学習することは、これまで、帯単元学習と呼ばれてきました。このことが、平成20年版学習指導要領のもとでは、年間指導計画に適切に位置づけて行われるのであるなら、授業時数にカウントできることになりました。書写能力を身に付けるには、一定程度の反復練習が必要です。そのために、モジュール単位の学習を活用することは、とても都合がよいのです。

―最後に、本書の読者へ向け、メッセージをお願いします。

 これまで「書写」は、正しく認識されていない面があったように感じます。まずは、先入観を捨てて、どんどん取り組んでみてください。
 最近、「文字を手書きする行為は、心身脳と密着しているなぁ」と感じることがあります。私は、パソコンの作業なら多少疲れていても続けられるのですが、手書きは疲れてくるとできなくなります。また、パソコンの操作に手間取っていると、頭に浮かんでいた考えが消えてしまいますし、あるいは書き味の悪い筆記具で書いていると考えが停滞してしまいます。みなさんは、そういうことはありませんか。だから、「書写」は、知的生産の最も根源的なところに触れている行為だと感じるのです。みなさんは、どう思いますか。

(構成:木村)
コメントの受付は終了しました。