著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
新教育課程の算数授業を充実させるために
山梨大学教育人間科学部教授中村 享史
2009/7/10 掲載
 今回は中村享史先生に、『小学校新教育課程 算数科の指導計画作成と授業づくり』について伺いました。

中村 享史なかむら たかし

東京学芸大学附属世田谷小学校教諭、山梨大学助教授を経て、現在山梨大学教育人間科学部教授。
主著に、『数学的な思考力・表現力を伸ばす算数授業』(明治図書)、『「書く活動」を通して数学的な考え方を育てる算数授業』(東洋館出版社)、『算数 考える力をのばす教材』(国土社) など多数。

―新学習指導要領の完全実施に向けて、本書の大きなテーマでもある算数科の指導計画を考える際、一番気を付けなければならないのはどんなことでしょうか?

 新学習指導要領では、基礎的・基本的な知識・技能の習得、思考力・判断力・表現力等の育成、学習意欲の向上があげられています。算数科でも、この3点は大事なものです。特に、数学的な思考力・表現力の育成をどのように指導計画に位置付けるかがポイントになります。例えば、数学的な表現力は、数式表現だけでなく、操作、図、言語表現などを授業の中に取り入れることが大切です。文章題からの立式の根拠として数直線を用いることは、単元を見通して、整数、小数、分数に共通する表現として位置付ける必要があると思います。

―スパイラル的な内容は、「数と計算」領域に集中しているようですが、その他の領域でもスパイラル的な指導は必要なのでしょうか?

 スパイラル的な指導は、他の領域でも必要です。例えば、「量と測定」領域では、直接比較、間接比較、任意単位、普遍単位を扱います。これは、体積でも、長さでも、面積でも繰り返し指導します。センチメートル、リットル、平方メートルという普遍単位だけを教えるのではなく、測定の意味として、あるものを単位として数値化することのよさを知らせることが大切です。また、「図形」領域では、「量と測定」領域との関連付けをすることが大切です。新学習指導要領では、図形の性質が先行して教えられます。円の性質を理解して、それを基に円の面積を求めるというように学年を分けていることもその表れです。

―数学的な思考力・表現力を育成する学習活動として、中村先生が本書でも推奨されている「学習感想」について教えてください。

 「学習感想」は、授業について子どもが自由に記述するものです。これは、思考力・表現力の評価に用いることができます。「学習感想」の記述を分析すると4つの段階に分かれています。最初は、楽しかったなどの情意のフェイズです。次は、算数の内容が書かれている内容のフェイズです。3番目は、他者の考えに対する意見が書かれているコミュニケーションのフェイズです。そして、自分の学習や解決の仕方を見直している省察のフェイズです。これらのフェイズに合わせて評価します。また、教師にとっては、授業評価としても使うことができます。

―本書では、「話し合い活動の充実」が提唱されていますが、特に算数が苦手な子どもに対してはどのような支援をすればよいのでしょうか?

 数学的な表現力を高めたり、コミュニケーション能力を伸ばしたりするためには、話し合い活動が大切です。算数が苦手な子どもの場合、何を話せばよいかがわからなかったり、どう表現すればよいかに戸惑ったりします。そこで、話し合い活動も隣同士のペアで行うことから始めたいと思います。また、4人で行う少人数の話し合いもよいと思います。普段の会話のような感覚で自分の考えを話せるようにします。教師は、ペアや少人数での話し合いの様子を見て、よいところをほめることを心がけてほしいと思います。

―最後に、初めて教育課程の改訂を経験される若手の先生方に、算数科の授業づくりという視点からメッセージをお願いします。

 まず、算数を楽しんでほしいと思います。問題を解きながら、解決のおもしろさを感じてほしいです。また、子どもの解決の仕方の多様さに感心してほしいと思います。算数では答えにたどり着くアプローチの仕方はたくさんあります。それを子どもと一緒に味わってほしいと思います。また、新しい学習指導要領では、算数的活動を具体的に示しています。思考活動や操作活動など様々な活動を入れて、子ども同士が学び合い、表現し合う授業づくりを目指してほしいと思います。

(構成:矢口)

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