著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
何を隠そう、この私も実は「文系教師」なのです
兵庫県朝来市立与布土小教諭國眼 厚志
2005/6/10 掲載
 今回の著者インタビューは『文系教師のための理科授業note』を共同で執筆された國眼先生。自らも文系理科教師という先生に、著者を代表して本書について詳しく伺いました。

國眼 厚志こくがん あつし

 1963年、兵庫県生まれ。岡山大教育学部卒業、兵庫教育大大学院修了。現在、兵庫県朝来市立与布土小教諭。原体験教育研究会ウェブマスター。
 中学校教師を14年間勤め、途中現職で大学院に入学。「原体験を理科教育に生かすカリキュラムの基礎的研究」をテーマとし、研究を進める。以来、現在まで自然体験イベント、科学実験教室、子育て学習センターなどの講師を精力的に勤める。
【著書】 『自然観察で楽しく遊ぼう』『環境問題を考えて活動しよう』(明治図書)/『わくわくサイエンスマジック』(共著、海流社)

―「文系教師のための理科」という視点が新鮮でしたが、どのような理由でそのような内容になったのでしょうか?ご執筆までの経緯をお聞かせください。

 当初依頼があったときは、いわゆる実験の「ネタ本」を作ろうと考えていました。「授業で使える超簡単実験ネタ集」という感じでしょうか。実際、そういった本を今までにも書いてきましたし、自分たちも子どもをぐっと惹きつけるような楽しい実験が大好きで、あちこちで実験教室をしていました。ところがよく考えると類書は非常に多く、単なる実験本では特異性が出てこないだろうという意見が出ました。そこで毎日の授業でそのまま役に立つものはできないだろうかという話になりました。そこそこ経験のある理科の得意な先生が対象ではなく、理科の実験が苦手な文系教師にターゲットを絞ろうと思いました。
 実際に理科を教える小学校の先生のほとんどは文系出身なんですね。9割はそうでしょう。教員養成大学では実験の設備も乏しく、中学校以来実験や理論から遠ざかっている方も多いのです。多くの「文系教師」にとって理科の実験はその準備も含め、悩みのタネだと聞きました。音楽や家庭科では専科制をとっている学校は多いのですが、理科はまだ担任が教えることが多いようです。理科の教科書はかなり薄くなり、内容も削減されています。でもそうなればなるほどある程度の知識や経験のバックボーンが必要です。でも今の先生は子ども一人ひとりの指導に加えて、会議や提出文書も多く、授業準備どころか指導書を開くゆとりもないと聞きます。とりあえず、まず「板書計画」だけでもしっかり提示できたら喜ばれるだろうな、と考えたことがスタートでした。それなら「よい子のノートが本になった」というべき「子どものノート」という視点で本を作ってみようということになりました。

―理科ノートといっても単にワークシート形式ではなく、「指導のツボ」「実験のコツ」「転ばぬ先のツエ」など、楽しく授業するアイデアが満載で、単元ごとに1時間ずつまとめた板書例にもなっています。簡単に本書の使い方をご説明ください。

 この本の対象は指導書すら見る時間がない先生、または、指導書は見る気がしない先生と考えています。文字が多く、「あれも」「これも」と教えることがいっぱいで、1時間のあいだにいったい何をやったらいいのだろうと悩むことも実は多いのです。準備の時間がないけど、次の1時間の授業を何とかしないと・・と思ったらその授業ページを見てノート通り板書を進めると「とりあえず」の授業は何とかなります。授業中にでも「ツボ」や「コツ」、「ツエ」を見ると注意事項がいくらか頭に入り、危険も回避できるでしょう。でも本来はじっくり準備して欲しいので、できれば1単元分さらっと読んで「流れ」を頭に入れてスタートすればかなり余裕をもって授業に臨めます。余裕があると実験って本当に楽しいんですよね。

―理科では5社の教科書があり、それぞれの教科書によって扱う実験や生き物も違うと思いますが、その点で工夫されたことはありますか?

 文科省発行の指導書には具体的な動物名、植物名は載っていません。「これしかだめ」というのはないのです。でも教科書を見てある植物が出ていたら「これしかだめ」と思ってしまうんでしょうね。でもだいたい教科書全社で傾向があって、どの教科書でも取り扱っている植物や動物があります。一番「無難」な教材ですので当然やりやすいはずです。あれでもいい、これでもいいというと読者も迷うので本書では「この植物で行うとこんなにやりやすい」としてメインで挙げています。4年5年のヘチマであったり、3年のホウセンカ、4年のインゲンマメなどは、ほぼ全社で扱っています。やはりそういう植物は失敗が少ないのでしょう。

―新教科書では、前回削減された部分が発展教材として取り上げられていますが、それはどのように扱われていますか?

 発展教材は本当に授業がノッてきたとき、「もっとやりたい」「他の材料では?」などと子どもの要求が強く出たとき、とても効果があると思います。何よりも教師自身が「やりたい」「体験させたい」と思う気持ちが必要です。ページの関係ですべての単元にというわけではありませんが、各単元の最終ページに「こんなことをやってみたら」と思う発展教材を載せています。筆者らがあちこちの実験教室で得てきたネタを紹介していますので、ぜひ楽しんでやってみてください。

―最後に理科を教える文系の先生方へ一言お願いします。

 何を隠そう、この私も実は「文系教師」なのです。教員養成学部で設備の乏しい理科実験室で「免許状獲得」のため、とりあえず実験をして、レポートを出し、真っ赤になって返ってきた経験を持つ、理科の弱い教師なのです。それでもくじ引きで負けて理科に配属されたがゆえ、免許状くらいはと必死で単位をとり、新任で向かったのは希望もしない中学校。理科と技術、体育に英語を担当する「何でも屋」でした。下手な授業でしたが、子どもたちが時として「おおっ」と驚いてくれることに快感を覚え、授業の「飛び道具」に実験を多用したのが「実験好き」の始まりでした。文系教師が得意の「話術」にちょろっと予習して楽しくアレンジした実験をからませ毎回楽しませる授業に子どもがついてこないはずはありません。研究授業、参観授業は「とっておき」の実験を披露する場となってきました。文字通り「楽しんで」授業をしていました。常に得意な分野ばかりではありませんが、それでも「どうすれば楽しくなるかな」と考えて、どうしても楽しくなりそうになかったらさっと終わる・・くらいな気持ちで取りかかっていました。こんな「気楽」なスタンスがひょっとすると今の忙しい子どもたちにもいいのかも知れません。高校で物理を選択さえしていない文系教師でも中学校の理科を教え、小学校に転じてからも、偉そうに理科部会では「指導」したりするのですから、文系教師はまさにオールラウンド。自信を持って楽しみながら取り組んで頂いたらと思います。どうしても苦手と言われる向きは、この本を読んで頂き「とりあえず授業」になってもいいじゃないですか。板書はすでにできているのですから。あまり深く考えず、悩む時間は楽しいことができないかな・・という時間にしてしまいましょう。たまに「おおっ」があればいいのですから。

 この本を読んで頂いた、「理が苦手だな」と思われている先生が、本当に少しでも準備の時間が短縮でき、「次は理科だ・・」と不安になるのが取り除かれ、何となく余裕をもって授業に臨んでいかれるのを希望してやみません。

(構成:木山)

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