世界一わかりやすい道徳の授業づくり講座 対話でつくる道徳の学び
いよいよスタート目前の「特別の教科 道徳」。身構えなくても大丈夫。考え、議論する道徳にはもやもや・ワクワクがたくさん!対話的な子どもを育てる道徳の授業づくりを始めましょう。
世界一わかりやすい道徳の授業づくり講座(11)
対話的な子どもを育てる!効果的な道徳授業のペア・グループ学習
―単純に隣の人と話し合えばペア学習が成功、とは言えない
立命館大学大学院准教授荒木 寿友
2018/4/25 掲載

 新しい学習指導要領のキーワードに「主体的、対話的で深い学び」という授業改善の視点があります。いわゆる資質・能力を育んでいくために、「どのように学んでいくか」を示したものですが、今回は特に「対話的」というところに焦点を当て、中でもその授業方法としてよく取り上げられるペア学習やグループ学習について、どのようなコツが効果的な授業を生み出していくのかを考えてみましょう。

ペア・グループ学習の陥りやすい罠?

 ブリスキンらが著した『集合知の力、衆愚の罠』(2010年)という本をご存知でしょうか? このタイトルからもわかるように、みんなで集まって話し合いをすると想像以上の結果をもたらす場合もあれば、逆にとんでもない結果をもたらしてしまう場合もあります。「三人寄れば文殊の知恵」とはいうものの、時と場合によっては耳を疑うような「文殊」が出てくるかもしれません。
 たとえば先日の出来事です。あるテレビ番組を見ていたときに唖然としました。グループ(ペア)で一つの答えを出すクイズをしていたのですが、ある女性が「絶対○○だって!」「あなたの答えはありえない」と言い張り、自分の考えたことを押し通していました。(しかも、その答えは不正解というオチもついていましたが!)
 こういったペアやグループでの活動、とりわけそのプロセスに対して、おそらく多くの人は違和感を覚えると思います。でも、道徳の授業でおこなうペアやグループ学習でもこういった可能性は十分にありえます。どうすればいいのでしょうか?

授業でペア・グループ学習が成立するために必要なこと

 まず私たちが認識しなければならないことは、ペア・グループ学習が成り立つためには、その基盤に他者の尊重、多様性への理解や、他者と学ぶ意味の理解が必要であるということです。「一人で学んだ方がいい」、「人と関わるのなんてめんどうだ」、「どうして一緒に学ばないといけないの」と子どもたちが思っていては、この学習形態は成り立ってきませんよね。もちろん、多様性の尊重や他人と学ぶ意義は実践していくうちに徐々に子どもたちに身についていくものでもあるので、実践初日からすべての子どもたちが完全に理解しているわけではありません。しかし、だからこそ、ペア・グループ学習をする最初の段階で、まず子どもたちにその学習の意義を伝えておく必要があります。「やっているうちにわかるよ」というスタンスでは、時間がかかりすぎてしまいます。
 ペア・グループ学習の一番の意義は、他人と協力することによって、一人では到達できないところに達すること、新しい意味を創り出していくことが可能になることです。私たちのあらゆる生活は、他人との協力のもとで成立しています。家族の関係もそうですし、職場だってそうです。スポーツの世界に目を向けても、それがたとえ陸上や柔道といった個人種目の競技であったとしても、成果をあげていくプロセスには実に多くの人が関係しています。人が生きていくにあたっては、他人とともに活動していくことがとても大切なことであることを、まず子どもたちに説明する必要がありますね。
 では他人と協力していくためには何が必要になってくるのでしょう? それが他者の尊重や多様性への理解です。自分の意見は主張するけど、他人の意見には耳を貸さないという状態では、他人と協力しているとはいえませんよね。実は最初に上げたテレビ番組の例は、ここに関連しているんです。自己主張することは大いに結構なのですが、他者の主張に対しても同様に寛大になっていくことが求められます。お互いの意見や考え方を尊重するという態度が、本来の意見表明の姿であるといえるでしょう。そしてそれが、対話の基盤となってくるのです。そうでなければ、ペア・グループ学習は「声の大きな人」の独演会に陥ってしまいます。自分の意見も他人の意見も尊重する、これってまさに道徳的な価値ですね。
 余談になりますが、子どもの権利条約の4つの柱には「参加すること(意見表明権)」が含まれています。一部の大人は子どもが意見表明することを「わがまま」であると感じていますが、これまでの話からもわかるように、自己主張のみを意見表明とするのであれば、たしかにそれはわがままになってしまうかもしれません。本当の意味で意見表明を学ぶということは、自己主張だけではなく、他者の意見も同時に尊重するということがセットで含まれているのです。そしてそれこそが意見表明権を子どもたちが学ぶ真の意味になるのです。

 さて、他者を他者として認め、ペア・グループ学習を成立させていくために、ちょっとした工夫をしてもいいかもしれません。学級全体に次のような「お約束」を共有しておくことも大切なポイントになってきますね。

・人の意見に耳を傾けましょう。
・人が話をしているときは黙って聞きましょう。
・自分の意見を積極的に話しましょう。
・できるだけたくさんの人が話せるように工夫しましょう。
・その人の意見を批判しても、その人自身を否定・非難してはいけません。(*1)

 こういった約束事が、そのまま学級の雰囲気や学級文化になっていくと、クラス全体が温かい雰囲気に満たされ、子どもたちが積極的に学びに取り組んでいけるようになります。

道徳の時間の役割は、「道徳の時間を要として学校の教育活動全体を通じて行うもの」とされていますが、まさに道徳外の教科・活動でも求められる「お約束」ですね!

 ペア・グループ学習をすれば、どんな場合でも新しいアイデアが生まれてくるわけではないこと、むしろその学習を始めるに当たっての「下準備」が必要であることに、まず私たち教師が気づいておく必要があります。

ペア・グループ学習の進め方・4つのコツ

 さて、最後にペア・グループ学習の進め方のコツについて4つの点からお話しておきましょう。
 第一に、個人で考える時間を確保することです。個人の考えが定まらないうちにペア・グループ学習を始めてしまうと、それこそすぐにアイデアを思いつく人の独壇場になってしまいます。そうなると、ペア・グループ学習という名のもとで独演会が正当化されてしまいます。これは避けたいですね。2分間だけでもいいので、出されたテーマや問いについて自分はどう考えるのかまとめていく時間を確保すると、効果的な学習が展開される確率が高くなります。
 第二に、グループで活動する場合、ミニホワイトボードやA3程度の紙などに発言内容を書き記しながら話し合いを進めていくということです。書記が書くなんてたいそうなことをせずに、グループのみんながそれぞれそこに書き込んでいく形で大丈夫です。話し言葉は流れていきます。どういう発言があったのか、どんな意図で話をしたのかなど、記憶の中だけではとても曖昧で、かつ消えていきます。記録に残すという意味でも書き記し、それをもとに話ができるようになると、その場で出てきた話をつなぎあわせて話ができるようになってきます。
 第三のコツとして、グループを流動的にすることです。ただでさえ同じクラスの子どもたち。いつも同じメンバー(班)で話し合いをしていたら、いくらなんでも飽きてきます。中心的に話をする子どもも固定的になってしまいがちですよね。時々はグループメンバーをシャッフルすることで、新しいメンバーとの間で意見交換できるようにしてみましょう。
 最後のコツとして、教師が「待つ」という姿勢を貫くことです。ペア・グループ学習をすると、どうしても話が脇道にそれてしまったり、ちょっとした雑談をすることも多々生じてきます。限られた時間の中で一定の結論を出さなければならない場合など、教師は雑談を見つけるやいなや、「このテーマで話をして!」と、すぐに本線に戻そうとしてしまいます。
 ちょっとだけ見守ってみましょう。
 私はこれまで10年以上に渡って多くのワークショップを開催してきましたが、ファシリテーター(その場の責任者)の介入が多いほど、参加者のやらされている感が強くなり、参加者の主体性を奪ってしまうことを学びました。
 道徳の授業においてペア・グループ学習を取り入れるということは、他者とともに生きていく基盤を養っていくということにつながります。たとえその授業時間に「立派な」結論が出なかったとしても、そのプロセスにおいて子どもたちは他者との関係性を築こうとし、新しい価値を創造しようとしているはずです。長期的な視点に立って、「待つ」という姿勢を保ってみてください。どうしても気になる場合は、「あれ、脇道にそれた?」と一言言うだけで十分です。

*1 本来、批判的(critical)とは、さまざまな角度から本当にそういえるのかどうか検証を加えていき、物事の本質に近づいていくことを意味します。創造的な探究活動なんですね。それは決して、相手の人格を否定したり非難したりすることではないのですが、どうしても私たちは批判を人格否定と感じてしまうことがあります。意見の相違を楽しんでいけるように、そして建設的な話し合いになるように、ペア・グループ学習のプロセスを注意深く見取る必要がありますね。

第11講のまとめ

  • ペア・グループ学習をする意義を、まず子どもたちに伝えよう。
  • 自分の意見だけでなく、他人の意見を尊重すること、それによって新しいアイデアが出てくることを強調しよう。
  • ペア・グループ学習の4つのコツを使ってみよう。

【参考文献】
ブリスキンら著、上原裕美子訳『集合知の力、衆愚の罠:人と組織にとって最もすばらしいことは何か』英治出版、2010年

荒木 寿友あらき かずとも

1972年宮崎県生まれ,兵庫県育ち。2002年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は道徳教育、教育方法、ワークショップ、カリキュラム開発。現在,立命館大学大学院教職研究科教授。NPO法人EN Lab.代表理事。元セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン,アドバイザー。NPO法人cobon理事。国内外、大人子どもを問わず、さまざまなワークショップを展開する。
単著に『学校における対話とコミュニティの形成』(三省堂、2013年)、共著に『モラルの心理学』(北大路書房、2015年)、『考える道徳を創る「私たちの道徳」教材別ワークシート集』(明治図書、2015年)、『やさしく学ぶ道徳教育』(ミネルヴァ書房、2016年)、『戦後日本教育方法論史 下』(ミネルヴァ書房、2017年)など。

(構成:林)

特集 「特別の教科 道徳」
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