世界一わかりやすい道徳の授業づくり講座 対話でつくる道徳の学び
いよいよスタート目前の「特別の教科 道徳」。身構えなくても大丈夫。考え、議論する道徳にはもやもや・ワクワクがたくさん!対話的な子どもを育てる道徳の授業づくりを始めましょう。
世界一わかりやすい道徳の授業づくり講座(8)
考え、議論する道徳の授業づくり―批判的思考力を育成する授業
立命館大学大学院准教授荒木 寿友
2018/1/25 掲載
  • 道徳の授業づくり講座
  • 道徳
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 「道徳って暗記教科ですか?」―そう聞かれたら多くの方は、「違う」とお答えになると思います。
 じゃあ、「考える教科ですか?」と聞かれたら、『そういう面はあるよね』とは思うものの、なかなか具体的な方法が見つからないというのが現状かもしれません。今回は具体的に「考え、議論する道徳」の授業方法について見ていきましょう。

道徳授業で思考力を伸ばす

 これまでも(特に第5回目かな)お話してきたように、新しい学習指導要領では資質・能力(コンピテンシー)を伸ばしていくことが大切になっていきます。もっと具体的に言うと、「何を知っているか」という知識や技能の習得から、「知っていることをどう使うか」という思考力、判断力、表現力といったものや、学んだことをいかに人生や社会に生かしていくかということがより一層重要視されてくるということです。
 道徳教育においても同様です。道徳の授業での学びが、思考力や判断力に結びついていく必要がありますし、道徳の授業が(ほんの少しであっても)子どもたちの人生を豊かなものにしていってほしいと願っています。
 そこで今回は、あまりこれまでは紹介されていない新しい道徳の授業の方法を紹介します。この授業は「思考力」に結びつく取組になっています。
(ちなみに私も『道徳教育』2018年1月号に思考力に直結する授業を提案しています。「桃太郎」をテーマにしたオリジナル実践です。よろしければご覧になってください!)

TOKに基づいた道徳の授業とは

 TOK、いきなり聞き覚えのない言葉が出てきました。TOKとは「Theory of Knowledge」(知の理論)の略で、国際バカロレアという教育プログラムの核となっている教科横断的な授業です。国際バカロレアについて説明を始めると長くなってしまいますのでここでは省略しますが、簡単に言ってしまえば、「多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成」を目指して行われる国際的な教育です。
 TOKでは、何かしらの知識を教えることに焦点を当てるのではなく、知識そのものを批判的に見ていくこと、いわゆる批判的思考の育成に焦点を当てています。その際に、ある知識について、「私が知っていること」と「私たちが知っている(共有している)こと」を区別し、自分たちが知らず知らずのうちに抱いてしまっている思い込みや信念、前提といったものを洞察していくことをねらっています。
 TOKは、道徳教育を進めていくために開発されたものではありませんが、「批判的に物事を捉えていく」ことは道徳の授業においては今後非常に大切なポイントになってきます。なぜならば、私たちの争いごとのそもそもの発端は、「自分こそが正しい」というある種の信念によってもたらされていることが多いからです。第6回目の講義でもお話したように、対話をしていくためには、自らの当たり前を紐解いていく必要があります。
 さて、このTOKを道徳の授業に位置づけられないかと取り組みを始めたのが、立命館宇治中学校です。系列校の立命館宇治高等学校が国際バカロレア認定校になっていることもあって、中学校ではその知見を道徳教育に活かす試みとして、今年度からTOK道徳をはじめました。実際どんな取組になっているのでしょうか。

TOKによる道徳授業の実際

授業テーマ「大人と子どもの境界線はどこか」(中学2年生対象)
<導入>
 教師がサッカーの久保建英選手(16歳)、ドラえもん、のび太の画像を出して、「それぞれの大人度ってどれくらい?」と問いを出します。久保選手(飛び級をしてU-20 サッカー日本代表に入る逸材)に対しては多くの手が上がりましたが、のび太に対してはあまり上がらず。「どこに大人と子どもの境目があるんだろうね」という問いかけの後に、続けて「あなたは大人ですか? それとも子どもですか? 大人と判断する基準って何?」を生徒に問いました。
 この問いに対して、生徒はまず自分の考えを書いていきます。その際に、大人であること、子どもであることの条件(判断基準)も一緒に記していきます。
<展開>
 それぞれの個人の意見を元に、グループでの「意見の共有」が始まります。生徒は大人と判断する基準として、年齢や話し方、見た目といった意見から、責任感がある、メンタルが強い、気持ちの切り替えができる、自分のことを理解している、気配りがあるなど、個人として考えたことを発表していきます。その中で、「私の知識」と「共有された知識」に整理していきます。
 整理された表を見ながら、いよいよ「大人と子どもの境界線はどこか」を探るディスカッションが始まります。「年齢だけで大人って判断できんし」「先輩も私からしたら大人」「“自分と比べて”っていう視点があるんじゃないの」「誰の視点から見るかで変わってくるんじゃないの」。ディスカッションが深まっていきます。「大人の条件を書いたけど、できてない大人いっぱいいるし。大人って言えるの?」。鋭い意見です。
<まとめ>
 生徒たちはディスカッションを踏まえて、境界線はどこにあるのか、その理由を記していきます。「自分をコントロールできる」「その場に合った対応ができる」といった「自主、自律、自由と責任」の点から考える生徒、「他人をまとめることができる」「人を成長させることができる」といった「リーダーシップ」の点から考える生徒、「気配りができる」「他人を気遣える」といった「礼儀」や「思いやり」の点から捉える生徒、さまざまなポイントを示した上で「境界線ってとてもグレーなもので、程度の問題じゃない」と結論付ける生徒など、多岐にわたりました。そして、授業の最初に書いた自分の判断基準がどう変化したのか確認し、自分の日常生活における行動にどう活かしていくのか考えて、授業は終了します。

授業のポイント

 TOK道徳をする際には、導入部で授業の目的を毎回伝えています。この授業は物事の本質を探っていく授業であること、多くの知識や価値観の中から自分で選択し判断する力をつけていくこと、他人の意見に対して多くの「問い」をもつこと、そのためにも相手の話をしっかりと聞くこと、といった具合です。このような前置きがあることで、授業そのものの方向付けが可能になります。

 導入段階で、「考え、議論するんだ」ということを共通認識する、とも言えますね。いっぱい意見を言うこと・問いを持つことが目的だとあらかじめわかっていれば、グループ内でも発言しやすいかもしれません。
 あれ? そういえばこの授業の「内容項目」ってなんだったでしょう……?

 そう、多くの先生は「この授業で扱った<主題名>って何?」と感じたかもしれません。確かに、通常の道徳の授業では必ず主題名=内容項目が明記されます。この授業の場合は「自主、自律、自由と責任」になるのでしょうが、その内容項目に生徒の意見すべてが収斂されるわけではありません。「大人と子供の境界線」について考えを巡らせる中で、「礼儀」や「希望と勇気、克己と強い意志」「相互理解、寛容」「思いやり」など多岐にわたって道徳的価値を捉えたと解釈した方がいいでしょう。道徳科の目標にも「道徳的諸価値の理解に基づき」とあるように、強引に一つの内容項目に収めてしまわなくてもいいと思います。
 最後に、生徒同士でディスカッションをしていく場合、その成否は生徒がどれだけの「問い」を出せるかということに尽きます。クラス全体で教師主導のもとディスカッションを行うのであれば、問いを考えるのは教師が中心になるのですが、グループの場合はそうはいきません。「なぜそう思うのか?」「具体的には?」「他の場合だとどうなる?」など、いろんな質問のレパートリーを生徒と共有しておくといいでしょう。子どもたち自身が「問い」を持つことが、学びを深めていく=思考力を高める重要なポイントになります。この取組が、道徳的価値について単に「知る」ということを超えて、「わかる」ということにつながっていくのです。

 今回はTOKに基づいた道徳の授業を紹介しましたが、これ以外にも子どもたちの批判的思考を育んでいく手法として、リップマンが考案した「子どものための哲学」(philosophy for children)という実践もあります。ご興味のある方は、書籍を手にとってみてください。

第8講のまとめ

  • 自分の当たり前を問い直す「批判的思考」に着目した道徳の授業をしてみよう。
  • 1つの主題=内容項目にこだわらず、関連する複数の内容項目も意識して授業づくりをしてみよう。
  • 子どもたち自身が「問い」を持つ授業づくりを試みてみよう。「問い」が学びを深めていく。

【参考文献】
文部科学省HP 国際バカロレアについて
S.Bastian,ら著、大山智子訳、後藤健夫編『Theory of Knowledge 世界が認めた「知の理論」』ピアソン・ジャパン株式会社、2016年
キャロル・犬飼・ディクソンなど著『「知の理論」をひもとく UNPACKING TOK』伊藤印刷出版部、2017年
M.リップマン著、河野哲也、土屋陽介、村瀬智之監訳『探求の共同体:考えるための教室』玉川大学出版部、2014年

荒木 寿友あらき かずとも

1972年宮崎県生まれ,兵庫県育ち。2002年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は道徳教育、教育方法、ワークショップ、カリキュラム開発。現在,立命館大学大学院教職研究科准教授。NPO法人EN Lab.代表理事。元セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン,アドバイザー。NPO法人cobon理事。国内外、大人子どもを問わず、さまざまなワークショップを展開する。
単著に『学校における対話とコミュニティの形成』(三省堂、2013年)、共著に『モラルの心理学』(北大路書房、2015年)、『考える道徳を創る「私たちの道徳」教材別ワークシート集』(明治図書、2015年)、『やさしく学ぶ道徳教育』(ミネルヴァ書房、2016年)、『戦後日本教育方法論史 下』(ミネルヴァ書房、2017年)など。

(構成:林)
特集 「特別の教科 道徳」
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