世界一わかりやすい道徳の授業づくり講座 対話でつくる道徳の学び
いよいよスタート目前の「特別の教科 道徳」。身構えなくても大丈夫。考え、議論する道徳にはもやもや・ワクワクがたくさん!対話的な子どもを育てる道徳の授業づくりを始めましょう。
世界一わかりやすい道徳の授業づくり講座(7)
評価も“シェア”してみては?
その2 道徳の評価の留意点
立命館大学大学院准教授荒木 寿友
2017/12/25 掲載
  • 道徳の授業づくり講座
  • 道徳
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 先生のみなさま、2学期お疲れ様でした。年を取れば取るほど月日が経つのを早く感じてしまいます。ついこの前、平成になったと思ったのに、もう30年も経とうとしているんですね。というわけで、早かった(?)今年一年を振り返る意味で、今回は評価について考えていきましょう。

道徳科の評価 前回のまとめ

 道徳科の評価については、すでに3回目(8月25日掲載)で扱いました。そこでは子どもたちの「学習状況や道徳性に係る成長の様子」を、「一定のまとまりをもって、認め励ます個人内評価で行うこと」を確認しました。
そして、まとめとして

・子どもたちがもらって嬉しい記述を心がけよう
・ポートフォリオ評価を通じて、子どもたちの自己評価の力も伸ばしていこう
・実際に評価を書いてみて、他の先生と検討してみよう

といったことを中心にお話しました。
 今回は、道徳の評価、特にその留意点に焦点を当てて一緒に考えていきますね。

道徳の評価は教師の主観?

 多くの先生が不安に感じているのが、「自分が書いた評価が子どもの成長や実態を適切に捉えていなかったらどうしよう」というものではないでしょうか。いくら学習指導要領の解説に「道徳性が養われたか否かは、容易に判断できるものではない」と記されているとしても、「じゃあ適当でいいや」とはさすがになりませんよね。
 でも、実際問題として、子どもの成長や実態を捉えることってなかなか難しいと思います。そもそも道徳の評価は学習の到達度を図るものでもありませんし(だから「学習状況」と書いてあるんですね)、子どもの外側に設定した評価規準に基づいて評価するわけでもないので、なおさら評価を困難なものにしてしまいます。
 となると、基本的に道徳の評価は「教師の主観」によってなされるものになります。実はこの「教師の主観」が、多くの先生を悩ませてしまっているおおもとの原因じゃないかと私は感じています。「教育評価には『妥当性や信頼性』が求められるのに、道徳に関しては主観ってどういうこと!? それでいいの?」とお感じかもしれません。ただ、教師の主観ってそこまで捨てたものではないと思います。教師のキャリアなどに裏打ちされた人を見る目って、どんな教師も一定に備えているはずだからです。その子が醸し出している雰囲気などから「あの子はなんだか今日は元気がないな」って感じるのも教師の主観ですし、子どもを見る目の一つですよね。

教育的鑑識眼を持て!

 子どもの外側に評価規準がないということは、子どもの内側に目を向けて、その子どもがどう変わってきたのか見極めていく作業、つまり教師の子どもを見る目(小難しく言うと「教育的鑑識眼」)が必要になってきます。
 教育的鑑識眼という言葉は、かつてアイスナーという美術教育の専門家が使い始めた言葉です。美術作品って、それこそ見る人が見るととても高い価値のあるものになるのに、私たち素人が見るとなぜそれがいいのかわからないことが多々あります。こういう鑑識眼が教育の世界、つまり子どもを見る目やよい授業を見極める目にも当てはまるんじゃないかというのがアイスナーの主張でした。
 となると、次の疑問が湧いてきます。「私にそんな鑑識眼なんてあるんだろうか?」って。たしかに、「あの子元気がないなぁ」と感じるのも見る目の一つですが、それに対してさまざまな理由を教師側が想像できるのかという点では、教師が持っている経験や知識の差によって鑑識眼の質が変わってくるでしょう。でも、これってあくまで「教師一人で子どもを見る」という前提に立っていませんか? 一人で責任を負ってしまうから、教育的鑑識眼に裏打ちされた教師の主観による評価も怖くなってしまうのではないでしょうか。
 国立教育政策研究所の西野真由美先生が、今年の日本道徳教育学会(千葉大会)で教師の主観に対応できうる可能性を秘めた道徳の評価として「グループ・モデレーション」を取り上げていました。要は、複数の評価者(特に授業者と参観者)によって評価の調整を行っていくことなのですが、これによって教師の主観が「間主観性」を持った(主観と主観が出会うことでより「妥当性や信頼性」を確保することにつながりうる)評価になることをおっしゃっていました。
 ここには大きなヒントが隠されています。一人で道徳の評価を背負う必要はないということ、むしろ、複数の関係者で評価を行っていくことによって子どもたちの学びをより豊かに捉えることができるということです。学習指導要領の解説にも「評価は個々の教師が個人として行うのではなく、学校として組織的・計画的に行われることが重要」と述べられています。さらに言えば、「私の主観ではないか」という恐れが、他の評価者と意見を抱き合わせることによってより説得力を持ってくると同時に、自分自身の教育的鑑識眼を向上させるきっかけになるということです。
 となると、鍵は道徳の評価を複数名でいかに行っていくかということになってきます。

道徳の評価を複数で……なんて考えたこともありませんでした。指導要領にも明記されているんですね!

ローテーション道徳のススメ

 2016年に「道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議」が報告を提出しました。そこでは非常に興味深い記載がなされているので、ちょっと長いですが、引用します。

年に数回、教師が交代で学年の全学級を回って道徳の授業を行うといった取組みも提起された。このことは、自分の専門教科など、得意分野に引きつけて道徳の授業を展開することができ、また、何度も同様の教材で授業を行うことにより指導力の向上につながるという指導面からの利点とともに、学級担任が自分のクラスの授業を参観することが可能となり、普段の授業とは違う角度から子供たちの新たな一面を発見することができるなど、児童生徒の学習状況や道徳性に係る成長の様子をより多面的・多角的に把握することができるといった評価の改善の観点からも有効であると考えられる。

 教師が交代で学級を回る! つまり「ローテーション道徳」『ゼロから学べる道徳科授業づくり』ではスライド制と呼んでいました)の有効性を述べています。教師の専門性に根ざした道徳実践、何度も授業を行うことによる授業力量の向上、子どもたちを多面的・多角的に把握できること、こういった利点を述べています。
 この報告では、学級担任が自分のクラスを参観することを書いていますが、実際にローテーション道徳をやっているならば、担任は別のクラスで授業をすることになるので、現実的には無理なことを書いているなぁ(そりゃ参観できたらベストだろうけど)とは思いましたが、複数の教師の目によって子どもたちを見ることができることは、「グループ・モデレーション」という評価場面において個々の教師の教育的鑑識眼を高める一助になりますし、教師の主観による評価を「妥当性や信頼性」のあるものに変える契機になるはずです。「あの子、先生の授業ではそんなすごい発言してるの? 私の授業では全然話してくれないのに」といったことが日常的に起こってくるかもしれません。ローテーション道徳をやった日は、担当教員が集って30分程度の事後検討会を持つということを決めておいてもいいかもしれません。
 ローテーション道徳は、教師の主観で終わってしまいそうな道徳の評価をより妥当なものに変えていく可能性を秘めていますし、教育的鑑識眼を高めていくことにもつながるのです。

入試に用いてはならない

 つい先日、文部科学大臣が道徳の評価を入試に用いない趣旨を徹底したいとの答弁を行いました。道徳科の評価は、児童生徒一人ひとりの学習状況や成長の様子を捉えることが大切であって、決して他者との比較の中で行われるものではありません。入試はそもそも他者との比較(競争)の中で行われるものですので、個人内評価がベースの道徳の評価とは趣旨が相容れないのは明らかです。
 入学選抜などに道徳の評価が用いられる弊害については、また機会があれば一緒に考えてみたいと思います。

第7講のまとめ

  • 道徳の評価を一人で抱え込まないで!
  • 教師の主観を乗り越えるために、複数の先生で評価を考えてみよう。
  • ローテーション道徳は教師の教育的鑑識眼を高めていくきっかけになる。

注)規準と基準
 「のりじゅん(規準)」と「もとじゅん(基準)」という言い方で区別します。規準は、簡単に言ってしまえば目標そのものになります。たとえば「プレゼンテーションができる」というのが評価規準になります。それに対して、基準は、規準がどれくらい達成されたのか、その程度を示す際に用いられます。モゴモゴ喋って支離滅裂な内容のプレゼンと、明快な言葉遣いで理路整然としたプレゼンでは、同じ「プレゼンテーションができる」とはいえ、違いますよね。モゴモゴ喋っているのがC評価、理路整然としたプレゼンがA評価という形で評価基準が決まってきます。

荒木 寿友あらき かずとも

1972年宮崎県生まれ,兵庫県育ち。2002年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は道徳教育、教育方法、ワークショップ、カリキュラム開発。現在,立命館大学大学院教職研究科准教授。NPO法人EN Lab.代表理事。元セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンアドバイザー。NPO法人cobon理事。国内外、大人子どもを問わず、さまざまなワークショップを展開する。
単著に『学校における対話とコミュニティの形成』(三省堂、2013年)、共著に『モラルの心理学』(北大路書房、2015年)、『考える道徳を創る「私たちの道徳」教材別ワークシート集』(明治図書、2015年)、『やさしく学ぶ道徳教育』(ミネルヴァ書房、2016年)、『戦後日本教育方法論史 下』(ミネルヴァ書房、2017年)など。

(構成:林)
特集 「特別の教科 道徳」
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