- はじめに
- 第1部 「学力」とは何か
- いまなぜ学力か
- 第1章 「学力」の曖昧さから「学力」の意味の明確化へ
- [1] 「学力」の曖昧さ
- [2] 「学力」の具体的把握 ─計算における学力─
- 第2章 学力の4階層
- 第3章 学力の階層についての他の例
- [1] 長方形の求積公式の活用
- [2] 重さの学習から
- 第4章 真の学力とは数学的な考え方
- [1] 上の諸例から見られる,真の学力
- [2] 指導要録で考えている学力
- [3] もう1つの学力 ─関心・意欲・態度─
- (1) 「関心意欲態度」か「関心と意欲と態度」か
- (2) 関心と意欲と態度,それぞれの意味
- (3) 「関心・意欲・態度」の具体的考察
- (4) 「関心・意欲・態度」の指導の基本
- (5) 態度と数学的な考え方
- [4] 学力論争について
- 第2部 学力の向上と学習指導要領
- 学力が上がるかどうかは,何と比べたらよいか
- 第1章 学習指導要領の変遷
- [1] 学習指導要領の改訂の必要・動機
- (1) 昭和22年(1947年)指導要領作成の動機と方針
- (2) 昭和23年,26年(1948年,1951年)の指導要領改訂の動機と方針
- (3) 昭和33年(1958年)指導要領の改訂の動機と方針
- (4) 昭和42年(1967年)指導要領の改訂の動機と方針
- (5) 昭和52年(1977年)指導要領の改訂の動機と方針
- (6) 平成元年(1989年)指導要領の改訂の動機とねらい
- (7) 平成10年(1998年)指導要領の改訂の動機とねらい
- (8) 平成20年(2008年)新指導要領の改訂と動機
- (9) 8回の改訂の動機と方針の比較
- (10) 学力を高めるための目安
- [2] 年間授業時数の変遷
- 第2章 現代化運動
- [1] 現代化運動の発端とねらい
- [2] アメリカでは
- [3] イギリスなどでも
- [4] 日本での現代化運動
- (1) 研究団体では
- (2) 文部省,都道府県教育委員会では
- (3) 出版界では
- (4) 教材・教具の開発利用では
- (5) マスコミでは
- 第3章 現代化とこれからの算数教育
- [1] 学力の向上を目指すための指針
- [2] 現代化のときの算数科の目標と数学的な考え方
- (1) 現代化のときの目標と数学的な考え方
- (2) 学力を高めるための数学的な考え方の指導
- [3] 現代化の内容と,新指導要領の比較
- (1) 新指導要領で新たに加わった内容
- (2) 現代化のときにあった内容
- 第4章 新教育課程に,現代化の精神を生かす
- [1] 図形領域から
- (1) 図形の包摂関係
- (2) 合同について
- (3) 対称
- (4) 拡大・縮小
- [2] 数と計算の領域から
- (1) 数の集合の相互関係と包摂関係
- (2) 数直線と包摂関係の指導
- (3) 数と数字と数の名
- (4) 数直線と小数,分数の集合の稠密性
- (5) 数の集合の構造的見方
- [3] 数量関係から
- (1) 集合に着目
- (2) 表や図から,全体の集団についての傾向を推測する
- (3) 起こりうる場合の数と確率
- [4] 現代化の内容考察のまとめ
- 第5章 これからの算数指導のキーワード ―素地―
- [1] キーワードとしての「素地」とは ―個数比べと,長さ比べを例にして―
- [2] 学習指導要領が示す「素地」
- (1) 昭和26年の学習指導要領算数科編に
- (2) 昭和33年(1958年)の学習指導要領に
- (3) 現代化の学習指導要領での「基礎的な経験」
- [3] 素地指導の意義と意味の具体的考察
- (1) 分数
- (2) 足し算引き算の素地
- (3) 掛け算の学習では
- (4) 割り算の素地
- (5) 広さ,かさの素地
- (6) もののかたち
- (7) 合同と「同じ形」
- [4] 算数の体系における基礎的経験の位置
はじめに
いつの時代でも,どこの国でも,児童生徒の教育に当たる人たちは,誰でも,自分が指導している児童生徒の「学力」を上げようと考えて,毎時間の指導をしているであろう。
そして,いろいろな学力テスト,学力調査が行われており,その規模は大小さまざまであるが,共通したねらいは,「児童生徒の学力」を見ようとすることであるといえよう。国ごとの,都道府県ごとの,学校ごとの,さらに児童生徒一人一人の学力を評価することをねらって行っているのであろう。
そして「いまの子は,学力が落ちた」とか「もっと学力を上げるように指導しよう」といったように「学力」という言葉は非常にしばしば使われており,「学力」という概念を取り上げれば,指導の営みの内容や方法に関する共通理解ができたかのように考えられている。ところが,改めて,「あなたの考えている学力というのは,どういうものですか」と聞かれたら,おそらくその答えは十人十色であろう。そのため,学力やそれを伸ばす指導について話し合っていても,話し合いがしっくり行かないということがしばしばある。その原因は,実はお互いの考えている学力が同じでないためだったということが,多いのである。
学力を伸ばし,学力を適切に評価することは最も重要なことである。しかし,そのためには,
「学力とは何か」「学力にはどのような具体的内容があるのか」
について,できるだけ明確に把握していなくてはならないのである。
そして,「できるだけ学力を伸ばそう」ということほど,学校教育に関係するものにとって,共通したねらいはない。ところが,「学力が伸びたかどうか」をどう判断したらよいのかということになると,あまり明確ではない。伸びたかどうかは,何かと比較してのことである。学力の低い人と比べて,その人より高くなったからといって「学力が伸びた」と安心はできないであろうし,学力の低い時代と比べて,現在はそれよりよくなったということが分かっても,それでよいとはいえないであろう。われわれはいつでも「学力の高い人,学校,時代」と比べて,それを凌ごうと努力していかなくてはならないのである。そこで,そのためには,
「いつの時代が,最も学力が高かったといえるかを考え,
その時代を凌ぐように努めよう」
と考えるべきである。そこで,最も高かったであろうと考えられる時代の中身を知ることが大切である。
そこで本書では,この2つについて明らかにしていこうと考えている。
なお,また学力を高めるためには,できるだけ望ましい効率的な指導を考えなくてはならない。この指導法については第2巻で詳しく考察するが,効率的な指導をするために,しっかり理解していなくてはならない重要な懸念がいくつかあり,その一つに「素地」という概念がある。
ところが,どうもこの「素地」については,理解不十分な先生が非常に多いようである。そこで,
「素地」の意味と,これの算数における位置
を,少し詳しく述べ,その重要性を明らかにすることにした。これが本書の第3の内容である。
私は明治図書から非常に多くの著書,編著書を出版してもらっているが,その多くは,明治図書の石塚嘉典氏のお世話に拠るものである。今回も石塚氏に非常にお世話になった。心からお礼申し上げます。また現代化のよさを示すために,当時の大日本図書の教科書を参考にさせていただいた。これについても心からお礼申し上げます。
2009年1月 /片桐 重男
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- 明治図書