- はじめに
- 第1章 各教科の「見方・考え方」と育成を目指す資質・能力
- 1 主体的・対話的で深い学びと各教科の見方・考え方
- 2 知的障害のある子の特性と各教科の見方・考え方
- 3 各教科の見方・考え方を働かせる学習指導案と学習評価
- 第2章 国語科の「見方・考え方」を働かせる授業づくり
- 1 言葉による見方・考え方を働かせるとは?
- 2 聞くこと・話すことの見方・考え方
- 3 書くことの見方・考え方
- 4 読むことの見方・考え方
- 第3章 算数科・数学科の「見方・考え方」を働かせる授業づくり
- 1 数学的な見方・考え方を働かせるとは?
- 2 数量の基礎の見方・考え方
- 3 数と計算の見方・考え方
- 4 図形の見方・考え方
- 5 測定の見方・考え方
- 6 データの活用の見方・考え方
- 第4章 生活科・理科・社会科の「見方・考え方」を働かせる授業づくり
- 1 生活と関係する教科を通して身に付ける資質・能力
- 2 生活科の見方・考え方
- 3 理科の見方・考え方
- 4 社会科の見方・考え方
- 第5章 音楽科・美術(図画工作)科の「見方・考え方」を働かせる授業づくり
- 1 芸術系教科の見方・考え方
- 2 音楽科の見方・考え方
- 3 美術科の見方・考え方
- 第6章 職業・家庭科・保健体育科・外国語科の「見方・考え方」を働かせる授業づくり
- 1 職業・家庭科の見方・考え方
- 2 保健体育科の見方・考え方
- 3 外国語科の見方・考え方
- 第7章 各教科の学習困難を引き起こす障害特性と支援方法
- 1 知的障害以外の障害のある子の見方・考え方の特徴
- 2 視覚障害による学習困難と見方・考え方
- 3 聴覚障害による学習困難と見方・考え方
- 4 病弱による学習困難と見方・考え方
- 5 肢体不自由による学習困難と見方・考え方
- おわりに
はじめに
平成29年に公示された特別支援学校学習指導要領は,従前の学習指導要領から多くの点が改訂されました。そのなかでも,最も象徴的な改訂は,「育成すべき資質・能力」を明確にした点です。
これは,今後,人工知能(AI)の発達などにより,10年後や20年後の社会がどのようになるのかを予測できない時代が到来したことを前提にして,将来,どのような時代になっても活用することができる「資質・能力」を身に付けることが求められていることが背景にあります。そして,学習指導要領では,こうした「資質・能力」を育成するために,各教科の指導で「見方・考え方」を働かせることが重要であると指摘されました。
こうした学習指導要領の改訂は,知的障害児教育においても大きなインパクトを与えました。知的障害児教育では,従前から生活単元学習や作業学習を教育課程の中心に据えて実践を展開してきましたが,この改訂により,多くの知的障害特別支援学校で,各教科の授業づくりに本腰を入れて取り組みはじめています。
もともと,知的障害児の教育では,「主体的・対話的」に授業づくりをしてきたので,教科学習中心の教育課程になったとしても,今後も,「楽しく」「わいわいと」学習できるように授業が展開されると考えています。しかし,知的障害児に対する教科指導において,どのようにしたら「深い学び」を実現できるのか,あるいは,各教科の「見方・考え方」を働かせることができるのか,という点については大きな実践課題となっています。特に,これまでの知的障害児教育では,「生活に必要な力」を育成してきましたので,知的障害児に対する教科学習を展開するときに,「見方・考え方」を働かせる授業をするように求められても,どのように行えばよいのかわからないことも多くあると思われます。
そこで,本書では,知的障害児に対する各教科の「見方・考え方」のポイントをわかりやすく解説しようと考えました。特に,国語科や算数科・数学科について詳しく述べながら,生活科・理科・社会科,音楽科・美術(図画工作)科,職業・家庭科・保健体育科・外国語科の各教科の「見方・考え方」についても理解できるようにしました。
また,知的障害以外のさまざまな障害特性が,各教科の「見方・考え方」を働かせる際にどのような困難が生じるのかという点についても記述しました。それは,現在の特別支援教育では,多様な障害特性をふまえて個々の子どもに対応することが求められているからです。こうした情報をもとに,障害のあるすべての子どもたちの個に応じた教科学習の方法を検討していくことが必要であると考えます。
本書の執筆を通して見えてきたことは,「見方・考え方」を働かせる教科学習を展開するためには,教師の「発問」がとても重要であるということです。つまり,教師が授業のなかで各教科の「見方・考え方」を教えるのではなく,子どもが主体的に学ぶなかで,各教科の「見方・考え方」が働くように問いかけることが,子どもの思考を深めていく授業であると考えます。そのため,本書では,教師が子どもに問いかけるシーンを吹き出し付きのイラストにして,子どもと教師の対話を解説する箇所を随所に紹介しています。本書を参考にして,多くの学校現場で「主体的・対話的で深い学び」を実践し,子どもが教科学習の楽しさと深さを追究していくことができる授業づくりの一助となれば幸いです。
執筆者を代表して /新井 英靖
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- 明治図書