- はじめに
- 第1章 生徒も指導者も成長する!スポーツコーチング
- 1 日本における子どものスポーツ活動
- 2 スポーツ活動における課題を知る
- 3 「伝統」と「創造」の両方を重視する
- 4 「違い」を大切にする時代
- 5 これからの指導者が果たす役割
- 6 どんなチームにしたいか
- 7 スポーツ指導の意識改革
- 8 戦略的に考える
- COLUMN 努力の方法
- 第2章 生徒も指導者も成長する!チームづくり
- 1 知識・情報を共有する
- 2 チームづくりの基本
- 3 チームづくりは人づくり
- 4 対等な人格的立場
- 5 科学的コーチング
- 6 真摯に学ぶチームが成長する
- Q
- できているところを伸ばそうとしていますか?
- できていないところを直そうとしていますか?
- Q
- 自分たちならではの戦術を持っていますか?
- 強いチームの真似だけをしていませんか?
- Q
- 生徒がミスをしたとき,目的を聞いていますか?
- 生徒がミスをしたとき,すぐ怒鳴っていますか?
- Q
- 生徒のアイデアを吸い上げるようにしていますか?
- 自分の考え方にこだわっていますか?
- Q
- 生徒が伸び悩んでいるとき,聞きに来るまで待っていますか?
- 生徒が伸び悩んでいるとき,「こうすればいい」と言っていますか?
- Q
- 先生は目的を伝え,生徒同士でミーティングを行うチームですか?
- 先生が呼びかけて,ミーティングを行うチームですか?
- Q
- 生徒に仮説を立てさせ,取り組むチームですか?
- 生徒に課題を与え,取り組むチームですか?
- Q
- 生徒全員が役割を持っているチームですか?
- 上級生−下級生の関係で仕切られているチームですか?
- COLUMN 常識を疑ってみる
- 第3章 毎日が成長のステージ!日々の練習の工夫
- 1 ウォームアップとクールダウンをしよう
- 2 道具や備品の扱い方と管理の仕方を知ろう
- 3 競技初心者と経験者の練習メニューを考えよう
- 4 日々の練習メニューの振り返りをしよう
- 5 基礎練習・トレーニングを工夫しよう
- 6 個人スポーツとチームスポーツの違いと共通点を知ろう
- 7 レギュラーと非レギュラーを上手にマネジメントしよう
- 8 自分で考えて行動する風土をつくろう
- 9 栄養・運動・休養の関係を知ろう
- 10 動機づけをスキルアップにつなげよう
- 11 オフシーズンの指導について考えよう
- 12 教師が指導につけないときの練習を考えよう
- 13 練習試合のセッティングを工夫しよう
- 14 ミーティングを成長に結びつけよう
- Q 活動時間が短い・活動場所の確保が難しい
- Q 準備運動・トレーニングが単調になる
- Q 個人競技なので部全体での目標を持ちにくい
- Q 部員が多くて/少なくて練習に難がある
- Q レギュラーメンバーがけがをしてしまった
- Q 部活動と学業の両立が難しい
- Q 練習に緊張感がなくだらだらしている
- Q プレーに波がある
- Q 生徒とのコミュニケーションをたくさんとりたい
- Q 外部コーチと上手に連携をしたい
- Q オフシーズンにモチベーションが保てない
- Q スランプに陥った生徒がいる
- Q 突然部活動を辞めたいと言い出した生徒がいる
- Q スタンドプレーが目立つ生徒がいる
- Q 言われたことしかやらない生徒がいる
- 第4章 勝ちからも負けからも学ぶ!試合・大会の取り組み
- 1 試合・大会前の指導と言葉がけ
- 2 試合・大会でのモラル・マナー指導
- 3 メンバー選考と教師の責任
- 4 持ち物と集合時間・場所の確認
- 5 試合・大会直前の指導と言葉がけ
- 6 試合・大会中の指導と言葉がけ
- 7 結果のとらえ方と教師の指導
- 8 日常の練習へのつなげ方
- Q レギュラー争いで生徒間にトラブル
- Q 本番に弱い生徒がいる
- Q 試合運びがうまくなりたい
- Q 評価のタイミングが難しい
- Q 1人のミスで負けてしまった
- Q 気持ちの切り替えを上手にさせたい
- Q 試合後にチームの雰囲気が悪くなった
- Q 最高学年だけど試合に出られない選手がいる
- Q 次の目標が決まらない
- Q 燃え尽き症候群になっている
- おわりに
- 主要参考文献
はじめに
子どもたちのスポーツ指導に携わっている方々へ。まずは,誰か身近の子どもを思い浮かべてみてください。クラスの児童・生徒,チームの選手そして自身の子ども。みんな違います。みんなそれぞれ異なる人格を持ち,多様な感性や価値観を持っています。しかし,共通していることは,すべて意味があって存在していて,みんな将来を担う貴重な「宝物」であるということです。
2013年1月,大阪市立桜宮高校男子バスケットボール部キャプテンが自殺しました。間髪を入れず,女子柔道の日本代表選手が,代表監督からの暴力を告発するという衝撃的な事件が相次ぎました。
「人間は習慣の奴隷」と言った人がいます。思い込みや決めつけの間違いを繰り返しやり続けてしまうのです。私自身を振り返ると,プレーヤー,学生の競技スポーツ指導,子どもから高齢者の運動指導など,スポーツ指導の実践と研究に関わって30数年になりますが,失敗だらけでした。ただし,失敗という「結果」からそのたびに「原因」を探り,いくつもの成功を経験したこともまた事実です。
子どもたちの未来に大きな影響を与える教育。私たち大人が,その目的と方法と内容を常に考え,工夫しながら子どもたちと一緒に歩む姿勢が必要であることは言うまでもありません。私自身の幾多の失敗から学んでいったスポーツコーチングが,「スポーツ」という人間が創り出した高尚な文化を通じて少しでも役に立つことを願っています。
『As A Man Thinketh,〈邦題〉「原因」と「結果」の法則』(1902)を書いたジェームズ・アレンが言った次の言葉があります。「私たちの誰もが内心では手にしたいと考えている,気高い神のような人格は,神からの贈り物でもなければ,偶然の産物でもありません。それは,繰り返しめぐらされ続けた,気高く,正しい思いの自然な結果です。そして,卑しい獣のような人格は,卑しく,誤った思いのやはり自然な結果です。」
「失敗は成功の母」と言いますが,失敗はできれば少ない方がいいと思います。いつまでも母親に依存するのではなく,自立しなければいけません。本書は,自立に必要な要因と言われている,「自由」「好奇心」「自己決定」をコアコンセプトにしています。子どもたちのスポーツ活動に関わるにあたっては,まず子どもたちに最大限の自由がある環境を整えてください。ただし,自由と放任とは全く違います。子どもたちを自由にするとは,指導者が「口を出さない,手を貸さない,指示・命令しない」ことで,子どもたちを信じて「見つめる,見守る」ことです。放任とは全く対極に位置します。
次に,私は「好奇心」こそが全てのやる気・意欲の原動力と考えています。子どもたちの意見や考えを汲み取って,好きなことをさせてみてください。思いがけないプレー,態度・行動が出てきます。しかし一方で,「そんなことをすると何をしでかすか分からない」「ぐちゃぐちゃになってしまう」という意見があるかもしれません。けれども,そのような意見は,子どもたちを信じていないからではないでしょうか。これまで同じやり方を繰り返してきたために,同じ結果しか出ないという当たり前のことを受け入れていないのではないのでしょうか。少し考え方を変えてみて,子どもたち自身が決める機会をできるだけ多く作ってみてください。この自己決定が子どもたちの内発的動機づけを高め,自ら行う自発性の源となっていきます。
子どもたちは,やる気がないのではなく,やる気を出したくないのです。言い換えると,やる気を出させない指導をしていると考えます。こんなことがありました。ある試合後のミーティングで,「何でも良いから私に改めてもらいたいことを言ってくれ」と選手に聞いてみました。すると選手からは,「ミスをしたときに怒鳴ることをやめてほしい」「ミスをしたときに交替させないでほしい」「怖い顔をしないでほしい」等々の答えが返ってきました。正直愕然としました。怒りも沸いてきました。でも,私が何でも良いからと言っているのですから,選手たちは素直に答えただけなのです。一呼吸おいて,「よし,分かった。今日はこれで解散!ゆっくり休んでくれ。明日,みんなに話すから」と言った記憶が甦ります。いかに私は選手にやる気を出させない指導をしていたかです。私自身は,そのような指導を受けそれで良い結果を出した経験がありました。だから同じようなことをすればいいだろうという勘違い,誤解をしていたのです。
本書では,私自身の経験とスポーツ現場で実際に起きたことを取り上げ,すぐに役立つように解説やコメントを入れた構成にしました。
まずは,どれか1つで良いので3回は実践してみてください。1回で結論を出すのではなく,うまくいってもそうではなくても,その原因を探り何回かトライしてみてください。もちろん,子どもたちと一緒に!なぜならば,部活動指導は子どもたちと一緒に考え,創り,育む「知的活動」だからです。そこではじめに,皆さんの「やる気引き出し度チェック」をしてみましょう。
@ 生徒の欠点を指摘する
A 失敗を責める
B お礼を言わない
C 笑顔がない
D いつも口がへの字の形をしている
E 悲観的に物事を考える
F グチ,立腹,嫌味なことを言う
G 生徒の意見を聞かない
H 生徒に厳しく接している
I 自分が最も正しいと信じている
J 責任転嫁がうまい
K 他のチームをうらむ
L 他人を嫉妬する
M 人生においても指導においても意欲がない
N なんでもないことにキズつく
このチェックリストは,指導者が画一的なマニュアルタイプの人間形成にならないように,すなわちステレオタイプ化の危険性に警鐘を鳴らす意味が含まれています。本書を参考に,一緒に学んでいきましょう。
2016年1月 /東根 明人
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- 明治図書