向山型算数教え方教室 2006年6月号
算数指導の“ここ”から学級崩壊が始まる

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向山型算数教え方教室 2006年6月号算数指導の“ここ”から学級崩壊が始まる

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ジャンル:
算数・数学
刊行:
2006年5月8日
対象:
小学校
仕様:
B5判 92頁
状態:
絶版
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目次

もくじの詳細表示

特集 算数指導の“ここ”から学級崩壊が始まる
長い説明なら1時間で学級崩壊する
松藤 司
子どもたちのアドバルーンを見逃し続けたら…あぶない!
有村 春彦
一部の子どもの説明に依存する危険性
八和田 清秀
学習の型を教えれば、「できない」子も「できる」ようになる
勇 和代
問題解決学習でまじめな若い先生が学級崩壊する
小松 裕明
こんな我流は卒業しよう
平山 優希
ノート指導を徹底し、授業を早く終えよ
楠 康司
ミニ特集 黒板を子どもたちの思考道場に
円の面積の公式がみるみる板書に現れる
馬場 慶典
空白禁止の原則、誰もが熱中!
溝端 久輝子
知的に熱中した難問の授業
白井 朱美
問題作りを採点方式で
岩岸 節子
友達がどう考えたのかを予想させる
塩苅 有紀
7400はどんな数か、ノートに書いて持っていらっしゃい
宍戸 威之
グラビア
キーワードは「正しいユースウェア」
村田 斎
若葉印教師のための向山型算数基礎基本イラスト事典
もう一つの向山型算数・難問
小倉 郁美
向山型算数キーワード
自己否定
木村 重夫
巻頭論文 算数授業へのこだわり
向山の介入授業から見えてくること
向山 洋一
学年別6月教材こう授業する
1年・のこりはいくつ
例題指導
梅垣 紀子
「練習問題・スキル」と教材教具
高谷 圭子
2年・1000までの数
例題指導
森元 智博
「練習問題・スキル」と教材教具
乙津 優子
3年・たし算の筆算
例題指導
太田 健二
「練習問題・スキル」と教材教具
河野 健一
4年・小数
例題指導
青木 勝美
「練習問題・スキル」と教材教具
細井 俊久
5年・分数のたし算
例題指導
東 邦彦
「練習問題・スキル」と教材教具
篠崎 孝一
6年・単位量あたりの大きさ
例題指導
白瀬 嗣大
「練習問題・スキル」と教材教具
田上 大輔
中学難教材こう授業する
1年/正負の数の利用
橋 薫
中学校からの発信!「向山型数学」実践講座 (第75回)
「向山型数学」もまた進化し続ける
井上 好文
向山型算数に挑戦/論文審査 (第79回)
知的に熱中する授業が向山型だ
向山 洋一
向山型算数実力急増講座 (第81回)
向山型算数でD表22級を突破した授業の秘訣
木村 重夫
向山型算数WEBサロン (第75回)
比例の性質を使って解く問題の授業―表・言葉の式をきちんと書かせる―
赤石 賢司
“若葉印”教師が向山型算数でダッシュするとき (第15回)
目線で確認、さらに「安心と緊張」を与える
和歌 千明
“問題解決学習”隣の教室の実態ルポ
最初に教科書をしまわせた授業
村山 俊輔
たくさんの補助線が引かれた答案
岩井 俊樹
〈教室の障害児と向山型算数〉特に気になる『あの子』への向山型アプローチ
ファンタジー状態の子を授業に入れた赤鉛筆は、奇跡のアイテムである
松崎 力
もう一つの向山型算数 難問良問1問選択システム (第81回)
低学年
千野 毅
中学年
石富 敦子
高学年
中田 昭大
ビギナー専科=向山型算数ココが授業の勘所
1年/これはできるだろう、で招く混乱
岩田 一博
2年/百玉そろばんで全員を授業に引き込む!
岡倉 光悦
3年/練習問題の指導には教育技術がぎっしりと詰まっている
中谷 康博
4年/言葉、うなずき、笑顔、全てでほめる
山本 東矢
5年/やんちゃ君への対応から見えたほころび
田中 圭祐
6年/サークルの模擬授業が我流を防ぐ
石田 勝紀
向山型算数セミナー
仙台セミナーは90点達成の原則を明らかにする
板倉 弘幸
腹の底からの実感!向山型算数を知る前と後
人生を変えてくれた向山型算数
倉岡 正英
Aさんも私も救われた
林 恵美
「もう終わり?」を目指して
松 真人
「知る」と「できる」は大違いだった
今井 淳
家に飾られた100点のテスト
西脇 亮
本物の向山型算数を求めて
徳丸 幸平
授業の基本を教えてくれた
福地 健太郎
論文ランキング
3月号
木村 重夫
実物ノートと指導のポイント
教師こそ結果をあせらない!
斎藤 貴子
読者のページ
一斉指導で学力をつける教師の力量
編集後記
木村 重夫赤石 賢司
TOSS最新情報
赤石 賢司
向山型算数に挑戦/指定教材 (第81回)
向山 洋一

巻頭論文

算数授業へのこだわり

向山の介入授業から見えてくること

向山洋一


 向山型算数セミナーが,昨日,東京江戸川で開かれた。

 私は「授業」「発表」に,何回か介入し,最後に講演をした。1年生プロブレムを解決

する「4つの研究」についてである。

 さて,私が介入した授業の中に,広角を分度器で測らせる指導があった。


 「◯あの角をはかりなさい」という授業である。

 教科書には,「子どもの考え方」として2つのやり方が示されていた。

 授業者は,その1つの方法を取り上げた。

 補助線をひき,「180°」と「残りの角」に分ける方法である。

 ていねいに指導はされた。

 しかし,私は「この授業は,向山型ではない」と強く思った。多くの人は,「解き方の手順を教えること」を,向山型と錯覚している。

 「手順を教える」ことは,とても大切だ。

 しかし,「知的興奮を与えること」も,とても大切だ。

 両方を,満足させなければならないのである。

 そこで,私は介入した。

 一般参加をしていた伴先生が,この場面について,長い文をアンケートに寄せた。紹介する。


■向山先生の介入

(長崎県・伴一孝)

 向山先生の介入がすごく知的で興味深かったです。

 午後一番に見た大関氏の「角」の授業で,「大きい角で測りにくいので2つに分けることにします」「分けてごらんなさい」「何通りに分けられますか」から,180°×2通り,90°×2通りを出させていく展開,これぞ向山型と得心いたしました。

 向山先生の指導は1にシンプル(短い),2に明解,3に知性的だと思います。「分けることにします」も「分けてごらんなさい」も,シンプルで明解です。

 でも,これだけでは半向山型です。「何通りに分けられますか」で,グワンと脳みそにエンジンがかかります。自分の頭と,他の子(人)の頭とが,嫌でも比べられることになります。だから伸びるのだと思います。

 細かく言うと,このあとの構成がまた集中を高めるようになっています。「隣の人と比べてごらんなさい」「1つの人」「2つの人」「3つの人」「1つ,2つじゃあ話にならないということですね」

 このように,頭がフル回転していく指示・説明が続きます。さらに,「じゃあ,多いほうから逆に聞いてみましょうか」「8つ,7つ,6つ,5つ,4つ」「これは4つでしょう」となりました。ここでまたグワンとなるわけです。

 “なぜ4つなのだ”と誰もが思います。4つにしていた子(人)は,“本当にこの4つなのか”と思います。全員が集中する,伸びざるを得ないようになっているのです。

 そして,桑原君に発言をさせました。200名が見事に術中にはまって,桑原君の発言に聞き入らざるを得ない状態になってしまっています。

 このようにして,「力」ではなく,「術」で集中空間を創っていくわけです。ほんのちょっとした導入ですら,このように見事に芸術的にやられてしまうわけです。

 向山先生の授業・向山型の魅力は,ここです。人間の知的好奇心・知的欲求を巧みに引き出していく。だから同じ内容が,ストンと入ってくる。すごい満足感が得られるわけです。

 原理を分析します。「分けてごらんなさい」は作業指示です。紙に線(跡)が残ります。証拠です。証拠は他人(教師に対してもです)を対象にしているように見えますが,実は「自分自身に対する証拠」なのです。最初に2つの分け方を書いた子(人)は,紙に残っている以上,「最初は2つ,最初は2つ……」と何度も何度も繰り返し証拠を突きつけられるわけです。これが最後まで一貫して作用する仕掛けです。「分けられますか」と尋ねて考えさせるだけでは,このような作用はゼロに近いと言えます。

 次に「何通りに分けられますか」と発問します。

 なぜ「どんな分け方をしましたか」ではないのでしょう。

 ここが向山先生のすごいところです。「どんな分け方をしましたか」では,無限定にいろいろな考えが出てくるだけで,見ている方,聞いている方は,「ああ,そうか」で終わってしまいます。無感動です。ところが「何通りに分けられますか」と尋ねられると,証拠が残っている以上,「2つ」と確定せざるを得ないわけです。

 ここで,少し頭が働き始めます。助走です。「2つではないのかもしれない」「もっとよく考えよう」となるわけです。そうやってエンジンがかかり始めたところで,「隣の人と比べてごらんなさい」となります。緊張感が走ります。自分の考え(証拠)が,初めて人目にさらされることになります。

 これはまた別の仕掛けとなっています。あとで手を挙げるときの縛りになることが1つ。さらに,考えを増やして案を入れたときも「再度隣の人に見せることになるかもしれない」という圧力がかかることが1つです。いずれ

もエンジンに加速作用があります。

 そして,「1つの人」「2つの人」……と挙手させられます。

 これも,本人が自覚するしないにかかわらず,証拠作用が加わっていきます。「周りの子に知られた」という証拠作用です。緊張感が高まります。

 そして一気に「1つ,2つじゃあ話にならないということですね」と突き放しが入ります。

 さあ,大変です。1つ,2つと書いていた子は,証拠を握られた上で「話にならない」と断定をされているのです。これは,必死で考えざるを得ません。エンジンが加速していくのです。同様に,3つ以上書いていた子も「もっとあるのではないか」と頭を絞って考え始めます。

 ここを最初から「4つですね」と言ったのでは,全体の緊張感が違います。「全員に必死で頭を回転させる状態」をつくり出すためには,あたかも将棋の詰めのごとくに,このようにやっていくしかないのです。

 もちろん,向山先生は,これを紙に書いて段取りをして繰り出しているのではなく,「本能」とも言うべき直感的選択で絶妙に繰り出しているのです。

 次にいきます。

 何と,「じゃあ,多い方から逆に聞いてみましょうか」ときます。これはすごい指示です。

 通常は,さきほどと同じく「1つ」「2つ」と少ない方から聞いていくはずです。

 ですが,これはやはり無限定になってしまいます。

 「8つ,7つ…」と聞いていくことによって,何も言わなくても「9以上はありえない」という空気がつくられてしまいます。本当は“分け方”は無限にあるわけです。ですが,この時点で向山先生の意図する方向に「道」がつくられてしまいます。「枠」と言ってもいいでしょう。

 そして,「4つ」まで下りてきたところで,「これは4つでしょう」とあっさりと落としてしまいます。あまたあるはずの「意味のない意見」をこうして一気に消去してしまいます。考えている方は「どうして4つなんだ」「本当にこの4つなのか」と「4」に焦点を合わせて頭を働かせていかざるを得ません。

 秘密は,何気なく発せられた「8つ,7つ,6つ……」にあります。

 この段階で,向山先生のマジックにかかってしまっているわけです。芸術のごとき組み立てです。恐ろしいと思いました。

 なぜ向山先生が瞬時にこのようなものすごい授業をつくり出していけるのか,これが一番の問題です。あとからこのようにロジックを付加することは難しくはありません。難しいのは,これを瞬時に出力することです。これが「芸」と「学」の違いです。

 向山一門は,向山先生のこのような「芸」を継承する集団です。あまりにもその峰が高すぎて,目がくらむ思いがします。向山先生が毎回毎回教室で闘ってこられた(ご自身と)道を忠実に,そして真摯に,私たちも歩いていくしかないと思っています。

 それにしても,すごい授業・すごい空間でした。向国も最高でしたが,向算もやっぱり最高です。いつまでも,この空間で学んでいたいです。

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