向山型算数教え方教室 2004年9月号
「算数が苦手な子」に変化を起こす授業パーツと技術

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向山型算数教え方教室 2004年9月号「算数が苦手な子」に変化を起こす授業パーツと技術

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ジャンル:
算数・数学
刊行:
2004年8月4日
対象:
小学校
仕様:
B5判 92頁
状態:
絶版
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目次

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特集 「算数が苦手な子」に変化を起こす授業パーツと技術
方法記憶に変換するための「探す」「唱える」活動
河田 孝文
授業行為をすっきりさせよ
大関 貴之
「頑固さ」と「執念」!
本間 尚子
「点」ではなく,「線」で指導する
千葉 康弘
輪郭数字数え棒カード&W百玉そろばん
岩本 友子
通分,約分がある分数の加減算で満点
田村 治男
計算ができない子は数をかたまりとしてつかめていない
楢原 八恵美
ミニ特集 目撃証言!私が見たひどい授業と向山型が示す代案
活動だけの授業では学力は形成されない
松藤 司
「いけにえ」を求める問題解決学習
八和田 清秀
すべては子どもの事実!
岩田 大輔
私は見た!絶対許せないこの瞬間
楠 康司
「練り上げ」は子どもを犠牲にすることで成立する
伊藤 洋一郎
二度と同じ思いはしたくない
杉原 進
グラビア
平均点90点を取るための授業戦略と戦術はいかにあるべきか
高橋 和夫
若葉印教師のための向山型算数基礎基本イラスト事典
写すのもお勉強のうち@
小倉 郁美
向山型算数キーワード
授業の始まり(15秒)のつかみ
木村 重夫
巻頭論文 算数授業へのこだわり
教科書チェックの原風景
向山 洋一
学年別9月教材こう授業する
1年
20までのかず
水野 彰子
ふえたり へったり
飯塚 美代子
2年
たし算とひき算のひっ算
高橋 一行
たし算とひき算のひっ算
松島 恵
3年
あまりのあるわり算
石川 努
わり算
鈴木 正輝
4年
三角形のなかまを調べよう
堤 信之
三角形と角
武藤 淳一
5年
小数のかけ算とわり算
加藤 延啓
小数倍
近藤 裕重
6年
分数のかけ算
篠崎 孝一
比例
川田 英津子
向山型算数に挑戦/論文審査 (第58回)
活動(操作)をさせ,整理する
向山 洋一
向山型算数実力急増講座 (第60回)
文章題入門期の実力アップ指導(上)
木村 重夫
向山型算数の原理原則と応用 (第60回)
神経心理学から見ても,向山型算数のわり算指導は優れている
尾崎 文雄
向山型算数と出会ってTT授業・少人数授業が変わる (第29回)
TTで,向山型算数のよさと自分授業の我流を知る
松原 貴大
向山型算数WEBサロン (第54回)
「いきなり問題の板書」で授業開始5分間をシステム化する
赤石 賢司
中学校からの発信!「向山型数学」実践講座 (第54回)
定期テスト対策・向山型なら授業中にできる
井上 好文
「親と子の証言!」向山型算数は公文を超える! (第18回)
保護者が強力な応援団になる。それが向山実践の威力である
松崎 力
〈教室の障害児と向山型算数〉特に気になる『あの子』への向山型アプローチ
気になっていた子もできたわり算第1時の基本型(下)
藤野 美紀
LD疑いのあるM君をヒーローにした百玉そろばん
石川 真悦
もう一つの向山型算数 難問良問1問選択システム (第60回)
低学年
小田 昌宏
中学年
武田 俊樹
高学年
津下 哲也
ライブ体験で味わう“実力づくりへの道”向山弟子の介入を受けて
説明しない授業を笑顔で
宮崎 京子
ツーウェイの授業を目指せ!
西山 喜一郎
向山型算数セミナー
向山型算数の骨格であるリズムとテンポを学ぶ
板倉 弘幸
腹の底からの実感!向山型算数を知る前と後
「ことばを削る」ことで変わった!!
奥井 利香
教師修業のスタート
小松 尚子
わずかな手ごたえを感じて
伊P知 寛
自分がこんなに変わるなんて
石原 くるみ
算数地獄からの脱出
宮島 真
人気歌手のコンサートみたいだ
信藤 明秀
模擬授業を通して見えたこと
近江 純子
論文ランキング
6月号
木村 重夫
実物ノートと指導のポイント
一目でわかるノート作りで成績アップ
小室 由希江
読者のページ
向山型を推進する「脳科学」のススメ
編集後記
木村 重夫赤石 賢司
TOSS最新情報
赤石 賢司
向山型算数に挑戦/指定教材 (第60回)

巻頭論文

算数授業へのこだわり

教科書チェックの原風景

向山洋一


 向山型算数の重要パーツに「教科書チェック」がある。重要なのに,正しく理解している人は少ない。

 向山の教科書チェックは,私が中学3年のときに考え出したものである(A)。それを教師になってから応用した(B)。

 つまり原型(A)と指導(B)がある。

 私は「家庭学習法」の中で,十数年昔に次のように書いた。

◇中学生なりの「勉強の仕方」を身につける 中学に入学したら,一番必要なのは,「勉強そのものを教える」ことよりも,「中学での勉強の仕方」を教えることだと思う。

 ところが,入学した中学1年生に勉強の仕方を教える先生は少ない。

 私立中学のほうはかなり教えているが,公立中学では,きちんと教えている先生はきわめて稀まれである。

 こんなところにも,世間を知らぬ公立校の教師(私もその一員であるが)の心配りの不足を感じる。

 さて,初めて知った「中間試験のカルチャーショック」から,私はすぐに立ち直るのだが,役立ったのは「中学生用受験雑誌」だった。

 何も情報の入らない1人の中学生に,勉強のやり方を教えてくれたのは『時代』(旺文社発行)と『コース』(学習研究社発行)だったのである。

 当時の中学生の「学習文化」に果たした両雑誌の貢献は,はかり知れないものがある。

 わずかな雑誌代で,貴重な情報を運んでくれたのである。

 あれから40年余り,時代は変わった。

 今の子は,さまざまなところから,勉強の方法を教えてもらえる。

 塾もふえた,通信添削も盛んになった。さまざまな方法が生まれるのは豊かな証拠だ。そのために消えた受験雑誌もあった。

 ただ「勉強のやり方」を,子どもには必ず教えなければならない。

 最もいいのは,学校の教師だ。

 毎日,教えているわけだから,いくらでも教えられるチャンスはある。

 ところが,実情はお寒い限りだ。

 だから,ときには,親が心配してやらなくてはならないことも出てくる。

 自分の子どもが,何も言われなくてもきちんと勉強をしているのなら,この本は必要ない。

 黙って,見守ってやればいい。

 ところが,勉強のやり方に困っているようだったり,思うようにできなかったりした時には,親なりのアドバイスが必要だ。〈向山・注〉「勉強のやり方」を子どもの身につける研究・実践がいっぱい必要だ。

 本もたくさん出されなければならない。

 骨太の知的な「勉強のやり方読本」が必要なのである。

◇中学3年になって,人並みに受験勉強を始めた。

 勉強は友人と2人でやることになった。

 学年の実力テストなどでトップを争っていた友人がいて(その友人とは同じクラスになったことはないが),いっしょに勉強しようということになったのである。

 勉強する場所は友人の家の勉強部屋。私の家から歩いて10分ばかりであった。

 やる日は,月曜から金曜までの毎日。夜の7時からということに決めてあった。

 当時の都立高校の入学試験は9科目であった。私たちが目ざす高校は,平均95点,900点満点で,850点ほどが必要であった。

 95点をとるには,1冊の問題集を完全にやればいいと私たちは考えた。

 厚いのはよくない。途中で終わってしまう危険がある。

 私たちは書店に出かけ,名の通った出版社のやりやすそうな問題集を選択した。各科目1冊ずつの合計9冊。これだけが私たちがやった問題集である。

 勉強の方法は簡単だった。

 2人で勉強するといっても,2人いっしょにいるだけだった。やり方はそれぞれかってだった。

 つまり,私と友人は,それぞれやりたいと思う問題集をかってにやって,かってに答え合わせをしたのである。

 それなら,家でやればいいじゃないか――と思うかもしれないが,そうでもなかった。

 2人は,同じくらいの成績を上げていた。

 2人は,同じ問題集を使っていた。

 そして,同じ場所で勉強しているのである。

◇「教科書チェックの誕生」

 問題集をやっていくテンポは,家にいるよりはるかに速かった。

 2人とも,答え合わせをしたあと,問題に印をつけていった。

 たとえば,1回やってできたとすると斜線を入れた。

 このようにである。

 できなかった問題はチェックを入れた。

 このようにである。

 問題を解くごとに「できた」「できない」の印をつけていった。

 全部終わると,問題集は「チェック」だらけになった。

 自分はどれができて,どれができないか一目瞭然である。

 実は,「受験勉強」というのは,ここまでが第一段階である。

〈向山・注〉ここまでが第一段階というのが大切なのだ。問題集1冊を終わらせて,問題にチェックが入る。しかし,ここまでの努力では,学力が上がらない。成績は向上しないのである。それにもかかわらず,重要なステップなのである。

◇問題集を一生懸命やって,勉強したつもりにはなるが,実のところ「できた」「できない」の区分けをしたにすぎない。

 極端に言えば,ここまでのことなら,問題集を解かなくても「できる」ものはできたし,「できない」ものはできなかったのである。

 問題はここからなのだ。

 つまり「できない」問題を「できるようにする」ことは,自分の実力を飛躍させる。

 これこそが,勉強である。

 だから,1回しか問題集に取り組まないのは,何をしたか分からないと言っていい。

 1回やるということは「できた」「できない」を区分けしたにすぎないのである。

 したがって,何冊もの問題集を買って,すべて途中でやめてしまうようなことは,受験に失敗する子の典型的パターンである。

 厚い問題集を買って途中でやめてしまうのも同じである。

 1冊の問題集を二度,三度とやる人間だけが,実力を飛躍させられるのである。

 私と友人が9冊の問題集を一とおり終了するのにかかった日数は2カ月ちょっとであった。

 集中してやれば,このくらいでできるわけである。

 そして,私は第2回目にとりかかった。当然「できた」ところはパスである。できなかった問題だけに再度取り組んだ。

 そして,できた問題には斜線を入れていった。

 つまり,次のようにである。

 二度目にやってもできない問題はあった。チェック印を入れる。二度目のチェックが入って次のようになる。

 これは二度目もできなかったという印である。

 この二度目の勉強が終了するのは速かった。

 一度目は2カ月ちょっとかかったが,二度目は3週間ですんだ。

 そして,二度目がすんで三度目に入った。やはりチェックを入れた。記号で示すと次のようになった。

 三度目は1週間程度だった。

 三度目のころには,ほとんどすべての問題が「できた」になっていた。

 三度やってもできなかった問題に取り組んだのは,勉強を始めてから3カ月たってのことだった。

 四度目は3日ですんだ。

 そして,私たちは,時を同じくして,9冊の問題集のすべてを完了した。

 「マスター」というのはこういうことだろう。

 この問題集に出ていることなら,どこが出てもすべてできるという自信があった。

 この自信は大きかった。

 それ以後,どんな問題を見ても「できるはずだ」と思うようになったのである。

 この後,2人の成績は急上昇した。

 私は東京・神奈川・埼玉地区の何十万人かの実力テストで,10位以内に入ったことがある。

 3カ月たって,(夏休み前に)2人の受験勉強の予定は終了した。

〈向山・注〉実力が向上するのは,二度目,三度目,四度目のときなのだ。四度目ともなると,ページをめくるだけで答えが出てきた。

 わずか3日で終了した。そして,このときが実力がグーンと向上するのである。

◇私はそれ以後は,好きな「幾何」の問題を解いたり「地理」の大学入試問題を解いたりして暮らした。

 陸上競技部の練習も入試直前までやっていた。

 この3カ月の勉強は,私に多くのものを残してくれた。

 友人との勉強は夏休み前までの3カ月だった。

 学校から帰って夕食を食べて,問題集をかかえて友人の家へ行った。

 午後7時から,2人ともそれぞれの勉強を始めて10時には終了した。

 10時から,2人で囲碁をした。ニ,三番やって11時過ぎに友人の家を出た。

 単調な生活だったが,充実もしていた。

 ザル碁から始まった囲碁も,いつの間にか初段の域に入っていた。

 勉強の途中,友人の姉さんがコーヒーを出してくれた。

 知的な感じの人だった。

 友人の姉さんは,その後ラジオ局に入ってアナウンサーになった。

 結婚して子どもをもうけ,そしてガンにかかって子どもを残して死んだ。若くして死んだのである。

 友人の姉さんの話はドラマになり,映画になった。『ちょっちゃん待っててね』である。

〈向山・注〉以上が,向山の「教科書チェック」の原型である。ちなみに友人は日比谷高校から現役で東大法学部に入った。私は小山台高1年で学生運動にのめり込み教師になった。

 同期会で会ったかの友人は,「向山は向山らしい人生を歩んだな」と感想を言った。

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