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巻頭論文
算数授業へのこだわり
問題解決学習はなぜひどいのか
向山洋一
問題解決学習は,犯罪的学習法である。
問題解決学習を強要する管理職,指導主事は犯罪者である。
私の論文への反論は,いつでも本誌でうけつける。
また,教育技術学会などの公的な場で,実践家,専門家,医師,保護者などを招いて,敵座して討論の場を用意することもお約束する。
全国の問題解決学習をすすめるすべての管理職,指導主事,附属小教官,研究者が,向山の批判に逃げないで正対してくれることを願う。
算数ができない子の多くは,「算数ができない」のではない。
学習活動ができないのだ。
普通のクラスなら,「教科書を出しなさい」と言われて,出せない子,出さない子が2,3人いる。
教科書の23 ページを用いて,4番をやりなさいという指示ができない子がいる。
教科書の解き方を写しなさいと言われても写せない子がいる。
問題を一つやっただけで,ボーっとしている子もいる。
クラスには,このような子が,6,7人はいるものなのである。多いクラスでは,10 人を超えることもあるだろう。
なぜ,学習活動ができないのか。どのようにさせたら,できるようになるのか。教師なら誰でもつきあたる問題である。クラスの学力底辺の子に対する対応が,問題解決学習では,全くといっていいほどない。
問題解決学習をすすめる大半の教師は,学力底辺の子に目を向けないか,見捨てているのだ。
かすかに,対応している教師もいる。
「かけ算九九のできない子を,放課後のこしてできるようにさせた。」
「ヒントカードを与えた。」
このような教師だ。
これらは,誰でも思いつく,シロートの対応だ。こんなことで,学力底辺の子には,対応できない。
絶対にできない――と断言できる。
例えば,ADHD(注意欠陥,多動性障害)の子を考えよう。
ADHDの子は,医学の世界では,5パーセントいると考えられている。
どのクラスにも2名程度はいる。多いクラスは,もっといる。
しかも,これは「障害を持った子」であって,「そういう傾向を持つ,グレーゾーンの子」は,更にいることになる。
「注意欠陥」というのを,早トチリしてはいけない。「注意力が欠ける子でしょう」などとシロートの教師はいうのだ。
違うのだ。一つのことだけに注意力が集中してしまう子をいうのだ。
人間は,行動するとき,いくつもの小さな順序が頭の中に入っている。
「教室に入って」「机にすわって」「算数の教科書を出して」「昨日までのところを開く」というのは,四つの作業記憶が入っていることになる。
ワーキングメモリー(作業記憶)をいくつも頭に入れて,人間は行動する。
しかし,ADHDの子は「一つだけ」しか作業記憶が入らないのである。「二つ目」が入るのは,かなり困難だ。
そういう障害である。
問題解決学習の基本パターンは,教師が黒板に問題を書いた紙を貼り,子どもたちにプリントが配られ,「どのようにやったら解けるか」「いろいろと考えてプリントに書け」というものである。
これは,ADHDの子にできるだろうか。
こんなに,いくつもの作業記憶が必要な学習行動は,できるわけがないのである。
できないとどうするか。多くは「多動行動」が出てくる。
そして,教師に叱られる。なじられる場合もある。それが毎時間,続く。
そして,第二次障害が蓄積される。
「反抗挑戦性障害」である。
教師のいうことには,すべて反抗するような子も出てくる。もちろん,ADHDの子でなくても,この障害は出てくる。
問題解決学習をすると,このような場面は必ずといっていいほど出てくる。
私は,ADHDの子についてだけとりあげた。問題解決学習の実践記録の中に,全国に広がっている研究の中に,こうした場面の記述はない。障害ある子に対応していない。
もちろん,「向山型算数」には,たくさんある。感動的なドラマ,親からの感動の手紙が山ほど届いている。向山型算数は,障害を持った子,学力底辺の子に,まともに対応しているのである。
だから,低学年のとき算数テストで5点10点だった子が,高学年になって80 点,90 点,100 点をとる奇蹟のようなドラマが続出しているのである。
もう一つ書く。学習障害の中に,「写すことができない子」もいる。
教科書さえ,写せないのだ。
赤えんぴつでうすく書いてやると,それを喜んでなぞる。丸をつけると,とびあがって喜ぶ。「算数で初めて,丸をもらった」という子もいる。
なぞることから始まって,少しずつ進歩しやがて,90 点,100 点をとるようになった子もいる。
問題解決学習をする管理職,指導主事,附属小教官の中には,それを止めろという人がいる。
結核の特効薬ストマイが発見され,多くの患者が治っている事実があるのに,「ストマイを使うな」と強要する医学部ボスのようなものだ。
これは許されるのか? 断じて否である。
これは,犯罪行為に等しいのである。
私は,たった二つだけの事例をあげた。もっと多くの事例がある。それらは,すべて,算数の問題解決学習の犯罪性を示している。
本誌6月号で,東北大学医学部の横山ドクターが,障害のある子にはどのような指導が必要なのかを明確に述べられている。
全国の著名な病院の小児科には,「問題解決学習が主要な要因」と見られる子どもたちがかなりの数,訪れているのである。
TOSSインターネットランドには教師以外の方の発言もある。
◆私は教師ではありませんが,問題解決学習について発言したく思います。問題解決学習の話題をみかけるたびにいつも不思議に思います。なぜ,基礎を蓄えるべき時期の子供に,発想,考えを重視するのか,という疑問です。本来,私は教師ではありません。歯科医師です。只,新卒後3年間,大学の医局に残り教育の場に身を置きました。はっきり言って,指導ができるようになったのは,甘い目で見ても2年目以降。1年目は,させてもらえません。大学で教育されるに当たって,歯科医療関係では(外来なども),まず手で覚えろでした。例えば,歯科で練習用模型の入れ歯の歯を並べるのであれば,mm以下μmの単位での徹底した反復練習で一項目ごとにOKがでるまで,やり直しです。もちろんμmの単位の測定は,定規では測れません。指先で体感させられるのです。学生は,半年かかって,一つの入れ歯を作りました。これは,今でも大切にしまってあります。向山型算数で言うと,ノートです。それをチェックする先生の方もその何十倍もトレーニングをして,見分ける基礎をつけるのです。新卒の医局員時代(総入れ歯専門の医局です),まず4月だけで,学生と同じことを8回やらされました。最初は1週間,次は5日,最後は2時間。もちろん先輩の駄目だしチェック付きです。その指導教官も,学生に接する前に,毎年必ず3回は復習しています。もちろん我々は,治療や,患者さんの技工物を並行的に作りながらです。私が居た所では,医局員は,技工士の仕事も兼ねています。これも勉強です。それぐらいで,何とか分ってきます。でも,このぐらいでは,5月からの実習の時に印鑑を持たせてもらえません。指導教官の助手です。学生の代わりに,遅い生徒の分少しだけ並べてやるのです。向山型算数で言うと,T2の赤鉛筆部隊です。2年目初めて,印鑑がもらえました。3年後,退局する時この専攻分野のみ人並みになったと言っていただけ,大変嬉しかったことを思います。ちなみに3年間無給,研修料年間5万円(当時)払っていました。A先生の所の,校長先生はなぜ,下記のように言われるのか,不思議です。
A
その後,校長に言われたことは,以下のことです。
○確かに子供は学習によく参加していて真面目に取り組んでいたが,授業が,算数の技能面に重きを置き過ぎている。
○(私は)子供を枠にはめ過ぎていて,子供を引っ張り過ぎる。もっと失敗させたり横道にそれたり,子供たちの多様な発想や考えを,やりとりの中で取り上げる柔軟さが,必要である。多分,忘れておられるのだと思います。算数,数学を好きにさせてもらった,基礎の力。昔の指導方法である反復練習で,苦しかったことは,覚えていない。その上で,問題解決学習に出会ったことを,忘れておられるのだと思います。算数は,技能の部分が大きい学問だと思います。数学者小平邦彦氏は,「初等教育の第一義は,何よりもまず大人の真似をすることを教えることにあると思う。」「近頃,子どもの創意を生かして楽しく学ばせることに重点を置くあまり基本的な機械的な訓練をないがしろにする傾きがあるのではなかろうか?〜すべて技術といわれるものを習得するには機械的訓練が不可欠である。」
<向山>TOSSランドには,東北大学病院の横山ドクターのホームページがある。日本咀嚼学会会長の斉藤ドクターも応援してくれている。歯科医師の先生も発言して下さっている。数学の専門家だって,私たちと同じ主張をされている。若い教師諸君は,「子どもの事実」と「腹の底までの手ごたえ」の二つを評価の基準に,ひるまずに進むことだ。教室の一人一人を大切に育てていくのが私たちの仕事なのである。
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- 明治図書