国語教育 2008年6月号 臨時増刊
新学習指導要領国語科の長所・短所

B694

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国語教育 2008年6月号 臨時増刊新学習指導要領国語科の長所・短所

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ジャンル:
国語
刊行:
2008年6月2日
対象:
小・中
仕様:
B5判 172頁
状態:
絶版
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目次

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新学習指導要領国語科の長所・短所
巻頭論文
厳しい時代に呼応しようとする 第八代 新学習指導要領
市毛 勝雄
1 改訂国語科の長所と短所
改訂学習指導要領の本当の“ねらい”―仕掛けは“上々”、しかし現場は―
小森 茂
グローバルな技能と伝統との調和で国語の力を伸ばす斬新な試み
大森 修
長所だからこそ考えてほしいこと
陣川 桂三
言語活動の蔓延と偏狭な伝統主義
府川 源一郎
言語活用力育成の視点から授業プランをたてる
田近 洵一
長所、短所の区分けができない構造
渋谷 孝
「伝え合う力」の視点で検証する
村松 賢一
新学習指導要領の特色―言語能力本位・国語力の向上・言語文化(古典)の尊重―
吉田 裕久
国語科の役割が明確に。授業改善が課題
吉永 幸司
文言よりも運用の仕方がカギ
井上 尚美
多様な言語活動をどう生かすのか
花田 修一
言語活動の重要性と曖昧さ
光野 公司郎
三つの長所、二つの短所
野口 芳宏
真に学習を指導する要領に―その可能性をさぐる、小学校低学年で―
中西 一弘
長短は定義の明確さと定位次第―『時代閉塞の現状』(石川啄木)から学ぶもの―
望月 善次
バランスとアンバランスの混淆―小学校学習指導要領をみる―
難波 博孝
新学習指導要領はどのような国語科教育実践を求めているのか―中学校の場合―
大槻 和夫
戦後以降の言語教育改革への期待
佐藤 洋一
活用型学習、言語活動の具体化・詳細化
大熊 徹
的確な理解を〜冷静に受け止めたい
相澤 秀夫
2 「話すこと・聞くこと」改訂の長所と短所
対事・対他意識の言語力育成を
高橋 俊三
「対話」は話し合いの〈形態〉ではない!
大内 善一
らせん・思考・聞くこと・他者尊重
岩ア 淳
「伝え合う力」継承の功罪
植西 浩一
指導事項・言語活動の充実は諸刃の剣
安藤 修平
より具体的に示された国語力
佐藤 明宏
話す聞く活動の「充実」・「具体化」・「活用による体得」を促す改訂
山元 悦子
「話すこと・聞くこと」の実践的課題―新学習指導要領から考えること―
町田 守弘
「話すこと・聞くこと」改訂の周到性
野地 潤家
能力志向の明確化と言語観の必要性
植山 俊宏
相互交流学習の推進を
若林 富男
3 「書くこと」改訂の長所と短所
歓迎したい二つの長所・経験と詩
菅原 稔
書く機能による指導のシステム化を
大西 道雄
問題点を把握して、自己の実践を組織し直す
藤井 圀彦
書くこと能力の中核と文芸的創作
竹長 吉正
コミュニケーションとしての書くことの活動の重視
河野 順子
言語活動例の位置づけは妥当か
高野 保夫
言語活動の展開が鍵を握る
山本 名嘉子
日本人の課題である論理力の育成をめざしている
山本 章
目標と内容の不整合
岩下 修
小・中一貫の選題・取材活動と評価活動
中洌 正堯
『論理的文章の書き方指導』を利用して言語力を「習得」させる
石田 寛明
「引用」の導入は画期的である
伴 一孝
4 「読むこと」改訂の長所と短所
内容の良さとわかりにくさ
小川 雅子
長とするも短とするも教師力
安河内 義己
「あいまいさ」を生かす国語教育―読むことの醍醐味―
白石 寿文
学習目標・内容・言語活動の一体化を図る―確かな学力を目指す各領域との関連学習―
須田 実
PISA型読解力の育成を中心に
鶴田 清司
主体的な読みと言語活動例
益地 憲一
違和感と危惧
内藤 一志
「分析批評」の成果に学ぼう!
浜上 薫
教科内容の体系性・系統性の弱さ
阿部 昇
新学習指導要領「読むこと」は、『ごんぎつね』の授業を変えるか
二瓶 弘行
5 「伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項」の長所と短所
時代への即応性と系統性の観点から
長崎 伸仁
昔話や神話・伝説などの本や文章
小林 一仁
音声言語こそ国語科の基礎だ
増田 信一
伝統的言語文化は国語教育を質的に向上―国語の特質に関する事項を基盤とする―
瀬川 榮志
「言語文化」と「国語」というくくりの意味する言語論的基底
藤井 知弘
「伝統的な言語文化」の教育の課題―創造的価値発見の教育を求めて―
渡邊 春美
現代を生きる学習者が身に付けるべき言葉の力と「伝統的な言語文化」の位置づけ
松山 雅子
小学校の古典学習が充実する
中村 孝一
見るべき進化が多いが「段落の重視」を
市毛 勝雄
巻末付録
学習指導要領(国語)新旧対照表

巻頭論文

厳しい時代に呼応しようとする

第八代 新学習指導要領

市毛 勝雄

◆国語教育研究所所長/日本言語技術教育学会会長/埼玉大学名誉教授


1 新しい学習指導要領が公示された

二〇〇八(平成二十)年三月二十八日、新学習指導要領(第八代目)が公示された(インターネット上の文部科学省ホームページに記載された)。新しい内容が数多く盛り込まれている。今回は「新旧比較対照表」が同時に発表された(本誌の末尾に掲載)。その内容は深く検討するに値すると思われる。

国語教育研究所は今回、いろいろな立場の研究者に、自由に新学習指導要領を検討していただくことを企画した。

これまでの多くの学習指導要領の解説書は、学習指導要領を作った側の意見、解説であった。それはそれで意義はあるが、学習指導要領の文言は、作った側の意図を離れて一人歩きするものである。

今後約十年間、わが国の国語教育はこの学習指導要領に沿った指導研究が行われるから、学習指導要領の意義と役割は大きい。それだけに自由な立場からの検討が必要だと考えたわけである。

2 時代に呼応する学習指導要領

学習指導要領は、教育学研究のエリートが教育の理想をまとめたものではない。いろいろな立場で社会的活動をしている人たちが学校教育に期待する内容を話し合い、それをもとに教育関係者が指導内容の大筋を決めたものである。「現代社会の期待」に対応するものだから、十年に一度は改訂する必要があることになる。

その「現代社会」の状況はどうか。二十世紀後半から日本ではコンピュータが進歩・普及して、通信革命・金融革命・流通革命・技術革命と言われる急激な社会変革が進行している。多くの銀行・会社が合併し、倒産した。証券、交通、輸送、印刷、出版等が電子化して、タイピストをはじめ多くの職業が消滅した。この社会改革についていけない人々がたくさん失業して、社会問題化している。

教員免許を持つ父母が多くなった。我が子のために新書・雑誌で受験勉強の方法を比較研究している父母もいる。公立小中学校で夜間塾を開講して、生徒一人ひとりの学習能力を高める試みが、教師と父母の協力によって行われている。

これらの事態は、のんきな「無責任時代」の歌で植木等が活躍した、三十年前の日本社会には、誰も想像できなかった。

第八次学習指導要領はこのような時期に改訂された。「ゆとり教育」は見直され、「論理的思考力・表現力」が重視された。新しい社会に対応するために作成された日本の学習指導要領が、西欧近代の理想主義的教育論を出発点とする教育学の立場と異なっているのは当然である。

子どもの教育は父親や母親になった者が否応なく直面する現実問題である。世間の営みのうちでもとくに世俗的な営みである。それをまとめた学習指導要領の内容は、幼い小中学生に教える事項としてまとめただけのものであるから、その指導事項は誰でも意見を言うことができるはずである。

3 演繹的思考と帰納的思考と

論理的に思考するとは思いつきを並べることではなく、一定の原則(型)に従って思考することである。現在、論理的思考法の型は二つ知られている。

第一は、演繹的思考法である。古代の人びとは「十戒」などの『聖書』の言葉を「経験に先立つ言葉」とし、そこから正確に思考を発展させる方法を工夫した。三段論法や『ユークリッド幾何学』などが代表的な思考法で「言葉と言葉との関係を追求する思考法」と言うことができる。この思考法は近代科学の発達によって一時衰えたが、二十世紀後半になって数理論理学と結びついてコンピュータの発達に貢献した。事物の定義、ゲームのルール、法律の条文等に利用されている。『教育勅語』を社会的思考の出発点とする考え方も同様である。

第二は、帰納的思考法である。十七世紀初頭に、F=ベーコンは「経験に先立つ言葉」を疑い、人間を含む自然界に対する「観察・実験」をくり返してたくさんの観察データ、実験データを蓄積して一つの法則性を見つける、というのが正しい思考法だと主張した。「事実と言葉との関係を追求する思考法」と言うことができる。帰納的思考法の正しさを確信して、C=ダーウィンは世界中の海を航海して多くの動植物の観察記録から『種の起源』を発表した。その論文は「生物は全能の神の創造物」というキリスト教の教義を完全に否定して、思想界に大きな影響を与えた。現代の観察測定技術の発達とともに、帰納的思考法は自然科学の思考法として定着した。

学習指導要領を読むとき、この二つの思考法をどう働かせるのか。

学校教育の話をするときに、学習指導要領の文言の一語一語を聖典のように解説する人がいる。あるいは、学習指導要領の文言を一語でも多く学習指導案にそのまま書き込もうとする先生がいる。この反対に、学習指導要領の文言の一つ一つを悪の根源のように非難攻撃する人がいる。こういう人たちはいずれも、学習指導要領を「経験に先立つ言葉」として、固定的に考えていると言えるだろう。

学習指導要領は、項目ごとに演繹と帰納の思考法を使い分けて書いている。読み手はそれを承知して、項目ごとに二つの思考法を使い分けながら理解する必要がある。

4 学習指導要領は教科書を監督する

学習指導要領が「内容」として明示している一項目は、学習指導案では「指導目標」の一つに当たる大づかみな規定である。指導技術が網の目のように組み合わされて、時間の経過とともにできあがっていく「授業」を規定することなど、とうていできるものではない。

学習指導要領の目的は教科書教材の質の維持である。国語科の授業での学習内容は教材文によって決まってくるから、国語の教科書検定で学習指導要領がその特質を発揮する。

わたしが教科書の著者の一人として、教科書検定の「結果を申し渡される席」に連なったときに印象深かったのは、学習指導要領に「例えば…のような」と例示された内容は、すべて教材として示されなければならない、と知ったことであった。

今回の学習指導要領には、従来、各学年の「A話す・聞く、B書く、C読む」の三領域とも(1)だけであったところに、新たに(2)の言語活動例が示された。例えば、小学3、4年生「書くこと」の(2)は次のようになっている。

「(2) (1)に示す事項については、例えば、次のような言語活動を通して指導するものとする。

ア 身近なこと、想像したことなどを基に、詩をつくったり、物語を書いたりすること。

イ 疑問に思ったことを調べて、報告する文章を書いたり、学級新聞などに表したりすること。

ウ 収集した資料を効果的に使い、説明する文章などを書くこと。

エ 目的に合わせて依頼状、案内状、礼状などの手紙を書くこと。」

右の場合「ア(身近なこと、想像したことを基にした)詩、物語 イ(疑問に思ったことを調べた)報告、学級新聞 ウ(収集した資料を効果的に使った)説明 エ(目的に合わせた)依頼状、案内状、礼状」をすべて「書く」教材として示さなければ、検定に合格しない。このため国語教科書は従前の「詞華集」の印象から、「言語技術教科書」に変化するだろう。

これに対して、授業の質というものは教師一人ひとりが持っている指導理論と指導技術(経験年数とは関係がうすい)で決まる。指導事項と教材が変われば、それに対応して指導過程、生徒の活動内容、指示と発問等を工夫して、生徒がわかりやすい授業を展開するのがプロの教師である。

学習指導要領の変化は授業まで変化させると騒ぎ立てるのは、授業の見方をよく知らない人の発言だ、とわたしは見ている。

5 指導用語の定義を決めよう

学習指導要領・国語科の文章は、わかりにくいと言われている。例えば算数科では「加法・減法」を教える、理科では「磁石の性質」を教える、社会科では「律令国家」を教える、と明確である。

これに対して、国語科は次のような表現になっている。

(1) 書くことの能力を育てるため、次の事項について指導する。(中略)

ウ 書こうとすることの中心を明確にし、目的や必要に応じて理由や事例を挙げて書くこと。(3〜4年B書くこと)

この「ウ」の内容を要約的に書くと、次のように書くことができる。

ウ 主張の根拠を一段落、一キーワードとする書き方を教える。

だが、この書き方にするためには、「主張・根拠・段落・キーワード」の定義が確立している必要がある。

これまでの国語科の指導研究は「解釈学」に偏っていたから、論理的な文章の読み書きの指導技術は、一部の教師だけのものにとどまっている。今後は、この領域の指導研究の普及が急務である。

6 評価・評定を具体化しよう

学習指導要領の内容の検討を行うときに、念頭に置かなければならないのが、国語学習の「評価・評定」の問題である。

これまでは「解釈」という観念の指導に偏っていたので、「評価・評定」の研究は無視されてきた。現在、学力テストが問題になっているのがその証拠である。現場の教師なら常識であるが、国語の授業は「指導目標は高尚だが評価は市販テスト任せ」というのが、これまでの実情であった。

これからは、論理的な文章を生徒一人ひとりが書けるようにする、という新しい「学力」を身につける指導が求められる。そのときには、段落、キーワード、段落構成、小論文の長さ、小論文のテーマ、文章の添削の基準、添削の技術、評価の決め方等を具体的に決める必要がある。

論理的文章の書き方指導については、大学の理科系研究室での論文指導の豊富な指導実績が役に立つことがわかっている。また、その種の参考書が豊富に存在する。それを高校・中学・小学校へと組織化すれば、短い時日で「評価・評定」のシステムが構築できる。「論理的文章を書く」指導は、理科・社会科・家庭科などの諸教科と協力できるから、全校的な指導態勢も意外に組み立てやすいのである。

7 第四次国語教育研究所が発足した

本誌は、第四次国語教育研究所の編集による、第一回目の企画である。

国語教育研究所の初代所長は輿水実氏(一九六五年)であった。輿水氏は戦後長く学習指導要領の編成に関わり、国立国語研究所の退職を惜しむ声が強かった。明治図書の江部満編集長は「国語教育研究所」として、一室を輿水氏活躍の場に提供した。国語教育研究所は『教育科学・国語教育』臨時増刊、別冊等を年に数回刊行して国語教育の全国的な展望の視点を提供し、国語教育研究の機運を大いに盛り上げた。

一九八二年、第二代所長に飛田多喜雄氏が就任した。飛田氏は名著『国語教育方法論史』があり、授業の実践的な研究を志していたので、講演会を全国各地で開催して好評を博した。『国語教育研究大辞典』はこの時期の国語教育研究所の産物である。 全国各地の大学の先生方や地域の国語教育研究会の熱心さの加減によって、授業研究が盛衰している地域が多い。そういう地域でがんばっている意欲的な先生たちに授業研究の「場」を提供し、国語の授業の腕を磨く機会をたくさんつくるというのが国語教育研究所の目標であった。そして、その役割をかなり果たすことができた。

第三代所長には藤原宏氏が就任した。藤原氏は文部省調査官として、第六次学習指導要領に「論理的思考力の育成」を盛り込むことに尽力された。

その後、いろいろな事情から活動を停止していた研究所を復活しようという機運が高まり、二〇〇六年ころから関係者が準備にとりかかり、二〇〇八年四月から活動を始めることができた。

今後は、国語教育の授業研究の質を高め、先生方の研究を発表する場を広げるために、臨時増刊、別冊等の刊行を活発に行いたい。

また各地にある国語教育研究会を活性化するために、全国各地で研究大会、講演会などを開催して、国語教師の授業の力量を高める運動を展開していく所存である。

皆様のご支援をお願いしたい。

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