教育オピニオン
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iPadを活用した音楽授業のアイデア@
Bluetoothで音を飛ばそう/速度や調を変えて楽しもう
筑波大学附属小学校教諭平野 次郎
2015/2/1 掲載

1 音楽の授業でこそiPad(タブレット端末)の活用を

 「音楽は好きだけれど、音楽の授業や指導をするのは苦手」という先生も多いことでしょう。本来は楽しいはずの音楽。でも授業となると「歌唱や器楽などの技能向上をさせなければ」、「授業として成立させなければ」という思いから、本来の「楽しい」から遠ざかっているのではないでしょうか。また音楽を指導するためには、教師側にもある程度の知識・技能が必要です。「ピアノが弾けないから…」という声も学校内で聞こえてきますよね。

 しかし、子どもたちは音楽の授業を楽しみにしているはずです。音楽は、国語や算数のように正解を追い求めたり、問題を解決していったりするものではなく、子どもが「音や音楽で自分を表現していく」場です。そのために、教師として何ができるのでしょうか。

 そこで、「音楽の授業が苦手」「ピアノが弾けないので…」という先生方におススメしたいのが、iPadなどのタブレット端末の活用です。市町村によってはそれぞれの規定で「学内での使用はできない」という声も聞きますが、これからの教育にはICT機器の活用は欠かせません。今回は、「子どもの音楽表現を助ける」、そして「先生の音楽指導を助ける」ための活用方法をご紹介していきます。

2 まずはBluetoothで音楽を無線でとばしましょう

 ひと昔前までの音楽の授業と言えば、「教室のラジカセ」が必須アイテムでしたが、これからの時代は「タブレット端末+Blutooth環境」です。歌唱や器楽などでCDを流すとき、「ラジカセ」だとリモコン操作に手間取ったり、再生や巻き戻しのたびに「ラジカセ」の近くまで行かなければならなかったりしますよね。そうすると先生の立ち位置はいつも教室の前(担任の先生が教室で授業をすることを想定)になってしまいます。当然、子どもたち一人一人の表現を聴き取ったり、声をかけたりすることもできません。音楽の授業で大切なことは「子どもたち一人一人の表現を教師がしっかりと評価してあげること」です。

 それを助けるアイテムの1つがBluetoothです。Bluetoothの細かな説明は省略しますが、「音楽を無線でとばす」というコードレスの状態がつくれるわけです。iPadにはBluetooth機能が搭載されていますので、あとはその受け手が必要になります。ここ数年、大手電機メーカーや音響メーカーが「Bluetooth対応スピーカー」を発売しています。これを使用するのも手ですが、教室の大きさとスピーカーの音量の問題が出てきます(教室で使うにはやや音量が小さいなど)。私は、音楽を指導する教室や音楽室では「Bluetoothレシーバー(プリンストン社 PTM-BTR1)」を使っています。その場所にアンプやスピーカーがあれば、「Bluetoothレシーバー」と組み合わせて「Bluetooth環境」がつくれます。まずは簡単に、そして豊かな音量で使用したい方にはおススメです。

 コードレスの状態になれば、曲の操作などは手元のiPadで行うことができます。歌唱のときは一人一人の表情や音程を、リコーダーなどの器楽のときは正しい指使いで演奏しているかなどを確認することができます。子どもたちは「自分の表現を見て、聴いて」と思っているはずです。まずは、「Bluetooth環境」をつくって、子どもたちの近くにいくことから始めてみましょう。

Bluetoothミュージックレシーバー プリンストン社 PTM-BTR1

3 移調や速度を変えて活動にバリエーションを加えましょう

 教科書に掲載されている曲を学習していくとき、ピアノが苦手な先生はどうしてもCDなどの音源に頼ってしまいますよね。そのCDをオーディオ機器等で再生する場合は、元の音源通りに再生することしかできません。すると「高学年で変声をむかえた男の子」や「音源の速度でリコーダーなどを演奏することが難しい子」にとっては、自分の表現がしにくくなってしまいます。やがて人前で表現することを嫌がり、「音楽の授業が嫌い」というようになってしまうこともあります。

 そのような子たちが自分の音や音楽を表現することができるように、「移調」や「速度の変化」という発想をもってはいかがでしょうか。「移調」は基準となる調の高さを変えるということです。いわゆるカラオケで「+や−のボタンを押す」ということですね。「速度を変える」ことは、日頃からピアノに親しんでいる先生も行うことができますが、「移調」は至難の業です。私もiPadを活用するようになってからは、頼るようになってしまいました。使用しているアプリケーションは『Anytune pro+』。アプリケーションの中ではやや高価な方ですが、同様の作業をパソコンなどで行うとそれ以上の手間と費用がかかります。『Anytune pro+』では、iPad内のミュージックと連携しています。ミュージックに入っている曲は全て再生可能ということになります。アプリ内での「移調」や「速度の変化」は「+、−、♯、♭」のボタンを押すだけ。また難しい個所をくり返し練習するときに有効な「リピート機能」も付いています。

 例えば、6年生で学習する『ふるさと』。変声をむかえた男の子にとっては、音が高いところがあります。そこで、「♭ボタン」を押して調をさげていきます。一人一人の歌を聴く歌唱テストでも有効ですが、私は全体での表現のときも調をさげるようにしています。そこでは、変声をむかえた男の子以外も低い声で歌うことを楽しむ姿が見られます。そして「低い声を出すのは難しいね〜」、「これ以上、下は出ないよ〜」という声が聞こえてきます。変声をむかえた男の子の気持ちも共有することができ、さらには「○○くんの低い声いいね〜」と互いを認め合うことにもつながります。

 「速度の変化」はリコーダーなどの器楽の学習で使うことが多いです。教科書に掲載されている器楽曲を、まずは元の速度で演奏します。次に同じ曲でも速度を速くして演奏します。子どもたちは曲の速度が速くなることを楽しんだり、喜んだりします。速度が速くなることで気持ちも高まるからでしょうか。当然、速くなることで演奏できない部分や雑になってしまうこともあります。もし途中で曲から脱線してしまったときは、「最後の1音でしっかり戻っておいで」と伝えるようにしています。すると途中で演奏するのを諦めてしまう子がゼロになります。曲の速度を感じて、体で拍を取りながら最後の音(ドが多い)をねらっています。続いて、速度を遅くしてみます。「なんだかゆったりしているね〜」、「先生簡単すぎるよ〜」などと言いながらも遅い速度での演奏を楽しんでいます。実はこの裏で、リコーダーが苦手な子たちは、遅い速度で安心して表現しているはずです。でもここではあえて取り上げたり、その子を目立たせたりはしません。「速度の変化を楽しんでいる」という雰囲気にしておいて、実はリコーダーが苦手な子たちにも配慮しているということです。

 私は「カレーの辛さ」に例えて、「速い→辛口」、「普通→ふつう」、「ゆっくり→甘口」という呼び方にしています。何気ないことですが、「甘口いくよ〜」というと盛り上がり、「先生、今日は激辛いこうよ〜」なんて声も子どもたちからあがるようになります。

 音楽の場合は、一人一人の技能差が目立ってしまうことがあります。足が急に速くなることはありません。それは音楽も同じです。今もっている子どもたちの技能を最大限発揮していくことができるように教師として何ができるかを考えていきたいものです。

 さて次回は、『GarageBand』を取り上げます。『GarageBand』は、iPhoneやiPadなどで使えるアプリケーションです。今回は楽曲制作という視点ではなく、「音楽づくりの授業」での活用方法をご紹介していきます。「iPadを音楽の授業で活用できないかな!」とお考えの先生は是非続けてご覧いただければと思います。

平野 次郎ひらの じろう

1981年福岡県生まれ、千葉県育ち。尚美学園大学(ジャズ&ポップス専攻)を卒業後、千葉県の公立中学校、小学校(船橋市、八千代市)勤務を経て現職。今年度で教職11年目を迎える。教育実践・研究校の筑波大学附属小学校の若手教師である。
研究テーマは『対話する音楽授業づくり』。音楽づくりや即興表現、iPadを活用した授業構成、鍵盤ハーモニカやリコーダーの新たな活用方法を切り口に研究を進めている。
【著書など】
雑誌『教育音楽』(音楽之友社)、『教育技術』(小学館)などへの連載、執筆も多数。
著書『わかる!できる!つながる!一人ひとりが輝く音楽授業づくり』(学事出版)

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