教育オピニオン
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新しい教材開発の「可能性」を探る
福島県喜多方市立駒形小学校根本 直樹
2014/4/15 掲載

1 よい教材と正しいユースウェアのマッチング

 教師は児童生徒の教育を司る。子どもと教育内容の間に教師がいる。両者を結ぶのが教師の仕事であり、それに必要なのが教材である。どのような教材を使うかが、教師の極めて重要な仕事になる。
 よい教材は子どもを成長させる。悪い教材は子どもをスポイルする。よい教材と正しいユースウェアがマッチしたとき、その教材はすぐれた効果を発揮する。
 『天才がどんどん生まれてくる組織』は斎藤孝氏の名著である。

 ハイレベルの型・技を共有しているかどうかが集団の質を見分ける際の1つの大きな指標である。
 猿飛集団における「猿飛の術」にあたるものは、その集団では何なのか。この問いがキーフレーズになる。           (同書p.24)

 TOSS(教育技術法則化運動)には「猿飛の術」が存在する。その代表格がTOSS授業技量検定であり、その入り口がTOSS教材のユースウェアである。どのユースウェアも練習なしに獲得することはできない。しかし、練習さえすればだれでもできるようになる。それも、上級者がいて練習すれば上達はロケット並みである。

2 教材のユースウェアを生み出す背景

 2013年11月、TOSS英会話セミナーに参加した。若手の教師が非常に多いのが印象に残った。そして、危機感を感じた。自分自身の感性の甘さに、である。
 午前がTOSS教材ユースウェアセミナーで、午後がTOSS英会話セミナーだった。どちらも若手が多かった。知らない若手同士が近くの人と話している。
 まるで、もともと友だちだったかのように休憩時間に盛り上がっていた。若い人たちは、講師の井戸砂織氏の「猿飛の術」を手に入れるために参加し、熱中していたのだ。
 自分もできるかもしれない、そう思ったときに人は行動する心に灯を灯す。あまりにかけ離れた実践にはとびつけない。向山実践の凄さは「誰でもできる」「誰でも自分でもできそうだ」と思えるところにある。やり方が明確にわかり、ゴールもイメージできる。修業の途中経過も重要なのだ。
 向山学級の子どもと根本学級の子どもは違う。この「違い」こそが重要だ。
 目の前の子どもをミクロの目で注意深く見ること。観察して記録して、うまくいくときといかないときの出来の違いの原因を探ること。それはほんの些細なことかもしれない。とるに足らないと思える差かもしれない。しかし、そこに教師の「研究」の中心があるのだ。そのようなことを1つ1つ積み重ねることが教師修業の本筋であり、教材のユースウェアを生み出す背景となる。
 例えば、以前、担任していた子どもたちに次のようなことがあった。
@車編の漢字を子どもたちにつくらせた。例えば、車編に「音」と書いて「クラクション」などである。だが、どうも盛り上がらない。そこで、子どもたちをじっくりと観察し続けた。そして、ついに熱狂するような組み立てを発見したのである。それまでは授業をイージーにイメージしていたのである。じっくりと見ることで授業の組み立てが見えてきたのである。
A作文が書けない子どもが4名いた。「わかんない、わかんない」と連発する。しかし、その子どもたちに対応することで、ようやく、どの子もすらすらと書けるようになる流れが見えるようになったのである。
B2人で話し合えない子どもが2名いた。30分もお互いに黙っている。この子どもたちが話し合い指導の道筋を、コミュニケーション能力を育てるための方法を教えてくれたのである。
 このように「できない子どもをできるようにする」修業の中で手に入れることができるものだ。

3 目の前の事実から新しい教材の可能性を探る

 11月の教材ユースウェアセミナーでの向山氏の話で、次のことを初めて知った。

           その教材が開発された背景

 なぜ漢字スキルのテストは2段で、なおかつ2回目は間違えた漢字だけでいいのか。それには子どもの事実、ドラマがあったのだ。机の上で考えたことではなかったのである。だからこそ、脳科学が発達してきた現在の知見と符合するのだろう。
 「口に2画つけ加えて漢字をつくりなさい」
 この問題が生まれた背景など考えたこともなかった。すべては私たちの目の前にあるのだ。もし、向山氏が今の根本学級の担任だったらやっぱり新しい教材を創り出すはずだ。目の前にいる子どもたちから、私たちは新しい教材を開発する「可能性」を探れるはずだ。その道を歩んでいきたいと思う。子どもと教育内容の間にいる教師がすべき最重要の仕事だ。

根本 直樹ねもと なおき

福島県喜多方市立駒形小学校勤務

1966年福島県生まれ。福島大学教育学部卒業。現在、TOSS福島代表。TOSS認知症予防脳トレ士。向山型国語教え方教室副編集長。

【主な共著】『小学4年 学級で起こる“こんな困った→どう対応”プロの知恵事典』(2014)、『作文の効果的な指導スキル&パーツ活用事典』(2014)(以上、明治図書)。

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