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1.「耳から聞く」だけでは厳しい、という子
授業に参加しづらい子がいるとします。仮にA君としましょう。A君は、耳で聞いただけでは理解することが難しいという特性を持っています。ゆっくりと説明されると一生懸命に理解しようとする姿勢は見せます。ただ、友達同士の話し合いの場面では、みんなの話す速さについていけません。ですから、話し合いの活動がとても苦手でした。板書に説明を書く量を増やしたり、教具を工夫したりしながらA君の参加できる学習を確保しようとしていましたが、担任が頑張るだけのやり方にはちょっと限界も感じていました。そしてやはり、子ども同士の学び合いから得るものは大きいと感じていた担任の教師は、A君にも話し合いに参加できるよい方法はないだろうか、と考えていました。
2.話し合いを「見える化」する技術
こんなときに役立つのがファシリテーション・グラフィック(FG)です。教育の世界ではまだまだなじみ深いとは言えない言葉ですが、NPOや企業の会議の中で取り入れられていて、大きな効果をあげています。簡単に定義すると、話し合いの経過や内容を模造紙などに「描く」技術です。話し合いを「見える化」するための方法で、色とりどりのペンが楽しい雰囲気を作り出してくれますし、何より、一度口に出してしまうと、その場から消えてしまう「音声」を図や絵などに構造的にわかりやすくまとめていきますので、A君のように、「耳からの情報だけでは何が話し合われているのかわからない」という子どもも自信を持って話し合いに参加出来ます。
子どもが自分の話したいことをどんどん描きながら話しますので、目で見て理解できます。わからなくなっても、「ねぇ、これってどういうこと?」「この言葉の意味って何だっけ?」と質問ができます。この質問には大切な価値があります。それは、質問されながら話すことで、互いの理解の度合いを確認しながら話そうとする姿勢が身についていくのです。「〜ってわかる? ……だよ。」と相手を気遣い、説明している姿も多くなっていきます。
3.導入の指導言は「汚く描きなさい」?
模造紙1枚とペンさえあれば明日からでも始められるファシリテーション・グラフィック。しかし、最初は子どもたちの手がなかなか動き出しません。それは、ノート指導が身についている子どもは、「キレイに・わかりやすく・丁寧に」まとめようとするからです。
そんなとき効果的なのが「汚く描きなさい」という指示です。子どもたちが自由に思ったことを描きながら自分の考えをまとめていくとき、そのプロセスには描いたものの美しさはいりません。自由に・どんどん・遠慮なく描き続けることによって、楽しみながら授業に参加するA君と、A君を話し合いの中に生かす子どもたちの姿が見られるようになっていくはずです。