著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
つまずきは深い学びの宝物
聖心女子学院初等科森 勇介
2022/2/17 掲載
今回は森勇介先生に新刊『つまずきを生かした算数の学び合い』について伺いました。

森 勇介もり ゆうすけ

聖心女子学院初等科教諭。
神奈川県立多摩高等学校、東京学芸大学卒。川崎市内公立小学校、横浜国立大学教育人間科学部附属横浜小学校などを経て現職。
朝日新聞「花まる先生」掲載、第67回(2018)読売教育賞 算数数学部門優秀賞、第68回(2019)読売教育賞 児童生徒指導部門優秀賞受賞。ガウスの会公開授業や日本数学教育学会での研究発表等経験。単著「気軽に始める学び合い 算数好きを増やす授業づくり」(東洋館出版)の他、「はらはら、わくわく、どきどきがある導入のつくり方7人の教師・導入7分の算数授業づくり」(教育出版)、「ポストコロナショックの授業づくり」(東洋館出版)等共著・分担執筆多数。

―このたびは『つまずきを生かした算数の学び合い』で大変お世話になりました。本書では「つまずき」について取り上げられていますが、本書で述べられている「つまずき」とはどういったものなのでしょうか?

 スタートは、「ちょっとよくわからない」「困ったなぁ」「間違えちゃった」といった小さな子どもの困り感ですね。単にテストの回答率が低い場面や問題にとどまりません。
 そのちょっとした困り感を丁寧に取り上げて、学び合いの土台に載せれば、困っていた子もわかっていたつもりの子もわかっていた子も思考力・判断力・表現力が高まります。
 結果、どんな問題に出会っても、自信をもって挑むことができます。「つまずき」は、そんな豊かな学び合いの宝物だと思っています。

―本書には「皆と違う意見を言う子や間違えてくれる子がいたら、チャンスと思うといい」という言葉があります。教育実習や新任のころはどうしても子どもから正答がでると安心してしまうということが多いと思うのですが、森先生は新任の頃から子どものつまずきを生かす授業ができたのでしょうか?

  若い頃も当然「一人一人を大切にしたい!」とう熱い思いはもっていました。しかし、その思いが先行し、一人一人の困り感に対して、教師が一対一で手助けするという方法しか思いつきませんでした。今思えば、つまずかないように過剰な手助けをしていたことになります。そんな中、「ちょっとわからないんだけど…」と積極的に困り感を学級全体に表現する子どもたちに出会いました。なんと、勝手に説明し合い盛り上がるではありませんか。「一人一人が輝いている!」「将来この子たちに必要な力は、この学び合いに詰まっている!」と感じました。

―本書はタイトルに「学び合い」という言葉もあります。先生が考える「学び合い」とはどういうものでしょうか?

 「わからない」「困った」「間違えちゃった」。そのような、友だちのつまずきをクラスみんなで助け合い、解決していくことこそが「学び合い」だと思っています。その過程が、予測できない未来を生きる子どもたちに必要な力を育てます。しかし、「学び合い」は、すぐにできるわけではありません。土台は、安心して間違えられる集団づくりです。認め合い・つなげ合い・深め合う学習集団づくりのポイントにも本書では触れています。

―本書で紹介されている実践では、先生が場をつなぐアクションを起こし続けるのではなく「待つ」様子も印象的でした。間が空いたり沈黙になったりすることに不安はないのでしょうか?

 1年間の学習集団づくりを「土作り」「種まき」「生長」「開花」とイメージしてみてください。「土作り」や「種まき」の時期では、価値付けや学び合いの進行役といった教師のアクションは必要です。しかし、少しずつ子どもの力に委ねていき、「生長」では、『間』や『沈黙』が子ども達の自立の証となります。価値ある「脳内のざわめき」です。そして、「開花」の時期には、教師が存在感を消していても子どもたちだけで学び合いが成立していく。大切に育てた子どもを信頼して、「待つ」ことを楽しんでみませんか。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いします。

 私たち教師もうまくいくことばかりではありません。子どもと同じようにつまずきます。子どもたちや仲間の先生や先人の言葉に励ましてもらい、高めていけるのだと思います。本書もそんな励ましの一助になれば幸いです。小学生の基礎・基本は、「好き・やる気!」。つまずきを生かした深イイ授業を展開し、日本中に算数好きの子どもたちを増やそうではありませんか。

(構成:芦川)

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