著者インタビュー
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合理的配慮を支えるための支援技術
国立特別支援教育総合研究所総括研究員金森 克浩
2014/3/31 掲載

金森 克浩かなもり かつひろ

国立特別支援教育総合研究所 教育研修情報部 総括研究員。

―本書タイトルにもある「AT(アシスティブテクノロジー)」。学校での活用を促すために、国では、現在どのような動きがあるのか、どうぞ教えてください。

 文部科学省は平成25年8月に「障害のある児童生徒の教材の充実について 報告」を出しました。ここでは、障害のある児童生徒の将来の自立と社会参加に向けた学びの充実を図るためには、障害の状態や特性を踏まえた教材を効果的に活用し、適切な指導を行うことが必要とされ、各学校における必要な教材の整備、新たな教材の開発、既存の教材を含めた教材の情報収集に加え、教員がこれらの教材を活用して適切な指導を行うための体制整備の充実が求められると述べられています。
 それを受ける形で、平成26年度から「学習上の支援機器等教材活用促進事業」が始まり、私が所属する国立特別支援教育総合研究所では特別支援教育教材ポータルサイトを設置しATを活用するためのさまざまな情報普及が進められようとしています。
 これ以外にも教材研究開発事業や指導方法充実事業、教科書デジタルデータを活用した拡大教科書、音声教材等普及促進事業などさまざまな形でATの活用を進める施策が始まりました。

―特集にある「合理的配慮」とは何ですか?

 合理的配慮とは平成26年1月に日本が批准した「障害者権利条約」によれば「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。」と書かれています。専門用語ですので、難しい用語となりますが障害のある人が置かれているそのままの状態では彼らの権利が十分に保証されていない場合に、環境側を変更したり調整するということになります。標準のパソコンでは使えない場合に、専用のソフトを使ったり特殊な入力装置を使うことで他の人と同じ事ができるようにするということもあるでしょう。

―ATを用いて、具体的にどんな「合理的配慮」ができるのでしょうか?

 前述のようなこともありますし、例えば紙に印刷された文書を読むことが困難な視覚障害のある児童生徒や読字障害のある児童生徒などがパソコンを使って音声読み上げで内容を聞いて理解したり、拡大表示やフォントの種類や色を変更調整して見やすくするなどは合理的配慮となるでしょう。
 そのためには、それらの機器があればいいということだけでなく、学習場面でどのように使えばいいかといった指導方法も関連して大切になりますし、クラスの中で他の児童生徒の理解を深めることも必要になります。

―ミニ特集では外部機関との連携を取り上げられていますが、AT活用のために、どんな点が連携では大切になってくるのでしょうか。

 ATを活用するには、それを作る人、サービスする人、指導する人、などさまざまな機関との連携なしには十分な使い方ができません。そのために最も大切なことは関係者のコミュニケーションです。
 そのコミュニケーションを円滑にするためには「共通する言語」をいかに持つかが大切です。特別支援学校や特別支援学級では個別の指導計画や個別の教育支援計画が作られて教員と保護者、関係機関がコミュニケーションを図っていますがそれらに書かれている言葉が双方で「同じ意味」を持たなければ誤解を生みます。
 まして、特別支援教育や福祉関係について詳しくない外部機関と連携する場合には「共通する言語」を持つためのコミュニケーションが大切になってきます。

―最後にATに興味を持ってくださった全国の先生方へメッセージをお願いします。

 前記の通り、国立特別支援教育総合研究所ではATを活用するためのポータルサイトを平成26年度に作成します。ぜひ、ここに情報をお寄せいただき、全国各地の先生方と実践を共有してもらいたいと考えています。

(構成:佐藤)

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