基幹学力シリーズ9
算数指導にカウンセリング

基幹学力シリーズ9算数指導にカウンセリング

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子どもの力を引き出すカウンセリング手法で算数授業が変わる

算数は間違いがはっきりわかってしまう教科。算数が出来なくて悩んでいる子には、今までのカウンセリング方式は通用しない。子どもの力を引き出すカウンセリングをするには、何をどう変えていけばよいのか。学級経営、信頼関係の築き方、授業の組み立て方などを解説。


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ISBN:
978-4-18-605932-8
ジャンル:
算数・数学
刊行:
対象:
小学校
仕様:
A5判 128頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

まえがき
T 今,なぜ「算数の授業」で「カウンセリング」なのか
算数授業にカウンセリングを取り入れる
「今までのカウンセリング」のとらえ方
積極的な「力を引き出すカウンセリング」
算数は間違いがはっきりと分かってしまう教科
「力を引き出すカウンセリング」とは
算数の授業で学級経営を行うことについて
毎日の「小さな教育相談の場」ととらえる
「自己肯定感」を高めるために
教師と子どもの人間関係の築き方
その@ 「全体の前で思い切り認める」
そのA 「一対一で小さく認める」
そのB 「間違った意見を認める」
U カウンセラーから学ぶ基本技術
信頼関係を築くための基本
カウンセリング的な技法を算数の授業に!
まずは笑顔で
傾聴とは
傾聴には大きく「5つの技法」がある
傾聴の5技法 その@「受容」
傾聴の5技法 そのA「支持」
傾聴の5技法 そのB「繰り返し」
傾聴の5技法 そのC「明確化」
傾聴の5技法 そのD「質問」
カウンセリングの5技法を用いた授業例
できることから始めよう!
カウンセリングマインドを忘れずに!
V 力を引き出すカウンセリングモデル(事例)
自らの力で問題を解決していけるようにする
子どもはみんな勉強ができるようになりたい
長所を伸ばすことの重要性
長所を伸ばすための「力を引き出すカウンセリングマインド」
「力を引き出すカウンセリングモデル(事例)」について
Model@ 「文字による説明」と「図による説明」を分けて提示する
〜図形の選別ができない子への対応〜
ModelA 「問題を絵にかいてごらん!」
〜文章題を苦手とする子への対応(低学年)〜
ModelB 「九九」と「式」と「イメージ」をしっかりと身に付けさせる
〜かけ算九九の苦手な子への対応〜
ModelC さまざまな道具を与える
〜文章題を苦手とする子への対応(高学年)〜
ModelD スモールステップで理解度を確認する
〜抽象化した図や表の理解が難しい子への対応〜
ModelE 「正解!」「おしい!」という声かけをしながらの全員丸つけ
〜極端に間違いを恐れる子への対応〜
ModelF 「先生に耳打ちしてごらん!」
〜恥ずかしがって意見を言えない子への対応〜
ModelG 「個別指導」から「個別支援」へ
〜学習が遅れ気味だが,個別指導を嫌がる子への対応〜
W 授業の組み立て方
「楽しさ」「好き」は大きなモチベーション
〜Jリーガーの弟の言葉から〜
学ぶ楽しさを味わわせ,算数好きな子を増やすための具体的な手立て
1 授業前に行うこと
@ 教材の精選を行う
A 認知処理過程の把握をする
2 授業中に行うこと
@ 他の児童の意見を分析させる活動(他者説明)を取り入れる
A ストップ説明法を取り入れる
B ペア学習法を取り入れる
3 授業の実際
その@ 「他者説明」「ストップ説明法」「ペア学習法」を組み合わせた授業事例
そのA 算数でのLD傾向を示す児童への対応も含めた事例
児童の反応と課題
あとがき

まえがき

 基幹学力研究会に携わるようになって2年が過ぎた.

 この会の最大のテーマは,子どもにとっての「基幹学力というのは何かを明らかにし,その力を高めること」である.

 子どもたちが学習を進める際に確実に身に付けなくてはいけない「幹」となる「真の学力」の一つが「基幹学力」であるとするならば,それを培うことは私たちにとって大変重要な仕事であることは間違いない.

 しかし,このことを逆の視点でとらえてみる.

 子どもたちと授業をする際の,教師にとっての「基幹」となる力はなんだろうか?

 私は,教師にとっての「基幹」となる力の一つに,「子どもたちの力を十分に引き出し,伸ばしてあげること」があると信じている.

 ・将来に希望が持てないという若者が増えている今こそ,

 ・自分の将来を「自分で切り拓く力」がなくなってきていると言われる今こそ,私たちは「真の学力」を身に付けさせなくてはいけないと思う.

 しかし,なぜ将来に希望が持てなかったり,自分の将来を自分で切り拓く力がなくなっていたりする若者が増えているのだろうか.


 そう考えたとき,要因の一つに「自己肯定感」の低い若者の増加が挙げられるはずだ.

 社会的な要因もあるだろう.しかし,学校教育で「自己肯定感」を高めるための配慮はしっかりと行われているだろうか.毎日行われる授業で,子どもたちは認められ,「自分は大切な存在だ」というメッセージを受け取っているだろうか.

 私は,カウンセリング的な配慮を行った授業を行うようにしている.優しく子どもに寄り添うことを考えながらの授業である.

 あるとき,子どもたちから,次のような言葉をもらった.

 「先生との勉強楽しかったよ.ありがとう」

 「いっぱい褒めてもらってうれしかったよ」

 その年の春に転勤して受け持った6年生の,たった1年しか触れ合うことのできなかった子どもたちからの言葉.

 卒業式直前の,放課後の教室でのその言葉.

 素直で明るかった子どもたちからの,このすてきな言葉は今でも忘れることはできない.

 そして,この言葉から,教師は子どもの良さを認め,「あなたがた一人ひとりを大切にしています」というメッセージを子どもに送り続け,自己肯定感を高めなくてはいけないということを再認識させられた.


 算数の授業で問題解決的な授業といわれるものを行ってきた.

 教師が「めあて」を書き,「見通し」を持たせ,「自力解決」をさせ,集団で「練り合う」という授業だ.これを体系化し,スムーズな授業展開を試みた時期もあった.確かに良くできた授業展開パターンである.

 しかし,つたない私の授業展開では,子どもの自己肯定感の高まりはほとんど存在しなかった.また,「見通し」を強く持たせ過ぎたときには,問題解決の力さえもほとんど育たなかった.

 将来に希望が持てなかったり,自分の将来を自分で切り拓く力がなくなっていたりする若者が増えている要因のもう一つは,このような形骸化した学習の繰り返しで,「生きて働く問題解決能力」を身に付けさせていないことが挙げられる.

 子どもたちが社会に出てから対峙する問題を解決する際に,はっきりとした「見通し」を持って取り組める問題はどれほどあるだろうか.手探りで試行錯誤を何度も繰り返し,信頼できる仲間とともによく考え,悩みを打ち明け,協働して問題を解決しなくてはいけないものがほとんどだと思う.だからこそ,おざなりではない「生きて働く問題解決能力」を身に付けさせておく必要がある.

 このような「生きて働く問題解決能力」の育成と「自己肯定感」を高めることが私の授業ではできていなかったのだ.


 自分の将来を自分で切り拓く力をつけようと思ったとき,その力をつけるには,「形骸化された問題解決学習」では間に合わなくなる.

 授業形態と教師の授業に臨む心構えの変化が必要となる.

 授業形態の変え方についてはたくさんの本がある.

 であるから,私は,自己肯定感を高めるための「教師の心構え」に的を絞って述べることにした.

 そのために,あえてカウンセリングの技法と算数の授業についての事例を取り上げた.


 私の前の職場には,悩みを抱えた子どもがたくさん来所していた.

 子どもの悩みというのは,他の人から見ると「そんな小さなことで悩んでいるの?」というものが多い.しかし,本人にとっては大きな問題なのだ.そして,問題が表面化してしまったら,解決には長い長い時間がかかることが多い.

 カウンセリングにあたっている先生方は本当に一生懸命に努力なさっていた.子どもたちの心を解きほぐし,安心感を与え,問題を解決するために…….

 私には,この先生方の「子どもに優しく寄り添い,安心感を与える態度」が強く心に残っている.そして,この態度がその後の授業を行う礎となっている.


 今までの自分を振り返ったときに,私は子どもたちの悩みに真摯に向き合っていただろうかと考えてしまった.

 算数の授業が理解できずに困っている子に対して,優しく寄り添い,問題を解決してあげていただろうかと.

 そのような反省の思いをこめて,現場に戻ってからは,子どもたちに対する接し方も若干変えた.授業で,子どもの「力を引き出すカウンセリングの技法」を取り入れたのだ.

 「力を引き出すカウンセリングの技法」といっても,難しく考える必要はない.悩みを抱えている子ども,問題の解き方が見つからずに困っている子どもに真摯に向き合い,一緒に問題を解決しようという気持ちが教師に芽生えた瞬間に,カウンセリングが始まっているからだ.

 すると,間もなくして,子どもたちが変わった.算数の授業時間に,子どもらしい素直なつぶやきが広がり始めたのだ.自由な雰囲気で,子どもたちが意見を言い合い,共感し合うようになった.

 そして,このような雰囲気の中でこそ,「基幹学力」という「真の学力」がはぐくまれていくのだと感じた.


 私は,この本を読んでくださった先生方に「カウンセラーになってほしい」と願っているわけではまったくない.ただ,子どもに優しく寄り添い,問題を一緒に解決するというカウンセリング的な発想を心に留めておくだけでも,授業が変わる可能性があると言いたいのだ.

 教師が優しい笑顔で子どもに寄り添い,子どもが本音で悩みを言い,それをクラスのみんなで解決していく.

 そのような授業や教師のかかわりの中で,子どもたちの「自己肯定感」が高まり,「生きて働く問題解決能力」がはぐくまれるのが理想である.

 教育界にさまざまな風が吹き荒れようとしている今こそ,子どもたちに「真の学力」の一つである「基幹学力」を身に付けさせたい.そして,そのための「基幹教師力」を磨きたい.そう思いながら,授業を行う毎日である.


   /熊谷 純

著者紹介

熊谷 純(くまがい じゅん)著書を検索»

1967年青森県に生まれる。青森県立八戸高校・北海道教育大学(英語専攻)卒業。

東北町立上北小学校,十和田市立東小学校,七戸町立天間西小学校,青森県総合学校教育センター研究員を経て,現在,七戸町立天間西小学校教諭。


基幹学力研究会幹事

算数授業ICT研究会幹事

全国算数授業研究会幹事

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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      明治図書
    • 算数の指導の中で、子供にやる気が出るようにする手立てとして、そもそも、人として恥をかかせないという当たり前の配慮があるのではないかという考えが筆者にあると言うことが熊谷純先生のお話から感じたので、熊谷先生の本を読んでみたいと、思いました。

      2024/2/14

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