- ま え が き
- 第1章 研究授業をどう進めるか
- 1 どんな資質・能力を求めるか
- 2 研究授業をデザインする
- @ 研究授業の組み立て方
- A 授業展開に位置付けられる評価活動
- B 単元(題材)構成のアイデア
- C 1単位時間の構成(指導案の意義と示し方)
- D 発問で決まる授業内容
- E やる気をひきだす指導法
- F 魅力ある題材(教材)の開発
- G 研究授業における分析の視点
- H 多様な授業展開の必要性
- 第2章 技術分野の研究授業の実際
- A 技術とものづくり
- 1 多様な視点で取り組む「技術の役割」の授業
- 2 自分のイメージと見通しをもつ「設計」の授業
- 3 ゲスト・ティーチャーを招いて進める「工具の使用と加工技術」の授業
- 4 班活動や実習を中心とした「部品の接合」の授業
- 5 コンテストを実施した「エネルギー変換」の授業
- 6 実践的・体験的な活動を通して豊かな心を育てる「栽培学習」
- B 情報とコンピュータ
- 1 情報化社会の光と影に視点をあて「情報モラル」を考えさせた授業
- 2 コンピュータの「しくみと基本操作」を身に付けるための授業
- 3 環境学習を題材とした「コンピュータ利用」の授業
- 4 偽メールを使った「ネットワーク・エチケット」の授業
- 5 マルチメディアを利用した「初の海外旅行プラン」づくり
- 6 マルチメディアの活用で「思いでのアルバム」づくり
- 7 個々の生徒に応じた「プログラムと制御」の授業
まえがき
現在のように,教科の時間数が削減され教える内容が精選された状況で,体系化した教育課程の創造は特に大切である。そのことが,明確な評価基準の設定になり評価活動の方法に展望が開けると推測される。しかし,最も大切なのは,毎時間の授業であると思われる。従前に比べて,技術・家庭科の授業時数が少ないからこそ,1時間1時間の授業における指導法のあり方が特に重要になったと思われる。
「この発問・題材・指導法で」いかに授業を組み立てるか,そして教師として指導力を高めるための「研究授業」をいかに行うか,その重要性が増している。われわれ教育に携わる者は,日々授業研究を推し進めることが最も大切な仕事内容と位置付けることができる。
そのためには,「何を教えるのか」を明らかにして,「どのように教えるのか」に結び付ける必要がある。「どのように教えるのか」は,研究授業を設定し,その後の協議会で検討することができる。「何を教えるのか」については,技術・家庭科の基礎・基本のとらえを明らかにして,カリキュラムをデザインして指導法を追求することが大切である。そのため,指導法を追求するには,教科の基礎・基本のとらえが明確なことと,的確なカリキュラムの作成が求められる。
必ずしも技術・家庭科の基礎・基本を学習指導要領の内容と決めつける必要はない。学校教育における基礎・基本をいう場合,教科内容の精選的視点としての系統的内容としてとらえることができる。具体的には,技術・家庭科の学習内容を精選的視点で作成して技術・家庭科担当者が教科内容の系統化を図り,その分析に努める。その場合,教科の基礎的概念,すなわち学問的な見方・考え方,問題解決的・探求的・創造的・批判的な思考を具体化し,そこから基礎的知識や基礎的内容を割り出してまとめることが大切である。
教科内容の精選的視点としての系統的内容をまとめる場合,教科内容の一覧を学習指導要領や解説書および教科書から作成して,指導内容の一覧を整理してカードに書き記す。そして,複数の担当者で協議して指導内容の精選を行い,各校に即した系統的内容を作成して,日々の実践活動で具現化を目指す。
次に,技術・家庭科におけるカリキュラムデザインの具体化の順序を示す。まず,@技術・家庭科の3年間の基礎・基本を明確にする。A技術・家庭科の3年間のカリキュラムをデザインする。B各題材のカリキュラムをデザインする。(行事との関係,目標との関係等で年間の日数や時間を決定)。C各クラスのカリキュラムをデザインする(だれが見ても教科の進度が分かる流れのあるスケジュール表を作成)。そして,技術・家庭科の基礎・基本の明確化に立ったカリキュラムを「学びのカルテ」と位置付け,各生徒に持たせる。D技術・家庭科の指導と評価の方法を分析的に示す(生徒は,これまで学びの跡やこれからの予定が分かり体系化された学びとなるとともに,保護者は学校の指導法に信頼を抱く)。
以上の流れは,一人の教師で取り組むものではなく,相談し合って作成する取り組みであるとともに,実践の過程で柔軟に対応して修正していくものである。
「何を教えるのか」については,技術・家庭科の基礎・基本の明確化とカリキュラムの作成が大切で,「どのように教えるのか」については,「この発問は?」,「この題材は?」,および「この指導法は?」を研究授業で明らかにすることが大切である。
これまでの研究授業と,これからの研究授業等の取り扱い方を考えてみたい。取り組む時間のトータルを10時間と考えた場合,これからは,打ち合わせや構想および指導案作成の準備の時間を少し省いて,授業後の研究協議と授業改善にじっくり時間をかける必要がある。
打合せ・構想・指導案→研究授業→協議と改善
これまでは, 8時間 1時間 1時間
これからは, 6時間 1時間 3時間
授業とは,生徒にとって学校生活における最も大切な時間であり,われわれ教師がいかに日々努力して取り組むか,指導法の上達が求められている。意義や内容のあるよい授業ができる教師を目指して,研究授業の実践と協議や改善に努め,経験とともに成長・発達することが大切である。そのための,方向性を示す一助として,この出版物の内容は価値があると思われる。一人でも多くの教師や学生に購読されることを祈念する。
最後に,本書の出版にあたり,企画の段階から最終の段階まで,親切で丁寧に指導いただいた明治図書出版株式会社の仁井田康義氏に,深謝の意を表す。
平成16年6月 京都教育大学 /安東 茂樹
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