- はじめに
- 第1章 コミュニケーションを育てる自立活動
- 1 コミュニケーションのとらえ方
- 2 自立活動の計画と展開
- 3 自立活動によるコミュニケーション支援に向けて
- 第2章 ムーブメント教育によるコミュニケーション支援
- 1 新しいコミュニケーション支援の考え方
- 2 重度・重複障害児へのコミュニケーション支援
- 3 動きを通してことばの発達を促す
- 4 自閉症児へのコミュニケーション支援
- 5 LD・ADHDの子どもへのコミュニケーション支援
- 第3章 コミュニケーション支援の手がかり
- 1 コミュニケーション支援の手がかり
- 2 子どもの全面発達の手がかり
- 3 対人関係などの社会性の手がかり
- 4 コミュニケーション能力に関連するアセスメント
- 第4章 コミュニケーションを育てる展開
- 1 重度・重複障害児のコミュニケーションを育てる展開T
- 展開例1/ さまざまな遊具を利用して子どもに働きかける
- 2 重度・重複障害児のコミュニケーションを育てる展開U
- 展開例2/ 自己意識・他者意識を育てる
- 3 ことばのイメージを育てる展開
- 展開例3/ 動きとことばを結びつける
- 4 受容言語・表出言語を育てる展開
- 展開例4/ 動きを通してことばを育てる
- 5 対人関係などの社会性を育てる展開
- 展開例5/ グループ活動で社会性を育てる
- 6 多様な環境を利用してコミュニケーションを育てる展開
- 展開例6/ 自己選択・自己決定の力を育てる
- 7 家庭や地域社会でコミュニケーションを育てる展開
- 展開例7/ 子どもの初期発達を支援する
- 第5章 コミュニケーションを育てる実践事例
- 実践事例について
- 1 YESマンを卒業しよう―M君の自己選択・自己決定を目指した指導―
- 2 重度・重複障害児のやりとりの力を育てる取り組み
- 3 話しことば以外の表出手段の獲得を目指して
- 4 見る,聞く,考える力を育てる
- 5 動きとことばの連合を目指して
- 6 聞き取るポイント,表現するポイントを整理する
- 7 状況に応じたコミュニケーションの力を育てる―集団における進行役活動から―
- 8 思いやりの心を育てるムーブメント活動
- 9 高機能自閉症児のコミュニケーション能力を育む指導
- 10 コミュニケーション能力の拡大と集団所属意識の向上を目指して
はじめに
2001年の1月に「21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議」の最終報告が示されたが,その中では障害のある子の視点に立ち,一人一人のニーズに応じた支援を行なうという方向性が提言されている。また,WHO(世界保健機関)は,障害の概念を個人内の現象としてだけではなく,環境との関係でとらえるという視点で,能力障害を「活動の制約」に,社会的不利を「参加の制約」に変えることを含めた新たな提案を行なう予定になっている。これらの社会情勢の変化は,ノーマライゼーションの理念の普及と共に,障害の認識をその人が抱える障害そのものに置くのではなく,環境や社会的要因からとらえていこうとする考え方に変化してきた証拠である。
今回の学習指導要領の改訂で,「養護・訓練」が「自立活動」の名称に変更され,自立活動の指導について「個別の指導計画」の作成が明記されたことは,時代の要請に応じたものであり,今後は子ども一人一人の個性を最大限に伸長し,社会参加するための基盤となる資質や能力の育成を図ることが,障害のある子どもを教育する学校の役割として求められていくだろう。
近年の養護学校や特殊学級などでは,在籍する幼児児童生徒の重度化,多様化が進んでいるが,さまざまな理由から,ことばの遅れや相手とのコミュニケーションの取り方が不得手な子どもたちが多くなっている。障害のある子のコミュニケーション支援は,単なることばの訓練だけでは十分な成長・発達を促進していくことは難しく,見る力,聞く力,読む力,話す力などの諸感覚を統合していくことで「ことば」の発展性が生まれてくる。
このような子どもたちのコミュニケーション能力を促す手段として,本書で取り上げるムーブメント教育は有効な一つの方法論であるといえる。例えば,情緒や行動面に課題のある子どもが遊び的な要素をもった活動に参加することは,直接的にそれらの課題を解決するわけではないが,社会性障害の軽減や,よりよいコミュニケーション手段を確立する糸口となっていく。
知覚運動理論家として著名なケファート(Kephart,N.C.)は,子どものコミュニケーション能力の育成のためには,自分の身体を動かすという感覚運動を中心とした取り組みが第一であり,活動を通して物や遊具環境との融和が図られ,環境に適応する道筋をつくり出していくと述べている。
ムーブメント教育(Movement Education)は,子どもの身体的能力や運動は,心理的諸機能(認知能力・コミュニケーション能力)や情緒と密接不可分な関係にあり,前者を促進させることで,後者の発達を促すことができるという考え方に立つ教育法である。このムーブメント教育は,遊びの感覚で子どもの「快い」「楽しい」という気持ちを最大限に生かしながら,身体的活動を通じて身体的な成長と同時に精神的な成長の発展を目指している。ムーブメント教育の基本理念は,「人間尊重」の教育として子どもの自主性・自発性を重視し,究極的には子どもの「幸福感の達成」を目指すという点にあり,今回の「自立活動」の考え方に直結するものである。
本書『コミュニケーションを育てる自立活動』は,〔障害児教育の新領域〕自立活動の計画と展開シリーズ(全4巻)の第3巻に当たり,ムーブメント教育を主体とした自立活動による新しいコミュニケーション支援として,感覚運動を中心に,環境との融和を図り,ことばや社会性を育てていく取り組みをまとめたものである。
第1章から第3章までを「理論編」,第4章を「展開編」,第5章を学校教育現場での「事例編」として,3部で構成されている。
第1章は,コミュニケーションに関わる要素を概説し,養護学校,特殊学級等で自立活動の指導を実際に計画,展開していく上での留意点について述べた。第2章は,人間の全面発達を支援するムーブメント教育の理論について概説し,重度・重複障害児,自閉症児,通常の学級の中で支援の必要な学習障害(LD)児や注意欠陥/多動性障害(ADHD)児に対するコミュニケーション支援の方向性について略述した。第3章では,個別の指導計画を作成する上で参考となるアセスメントのいくつかを紹介した。
第4章は,前段の「理論編」に基づいて,具体的に学校教育の現場におけるコミュニケーション支援のためのプログラム(展開例)を取り上げた。肢体不自由養護学校での重度の子どもから,知的障害養護学校での比較的軽度な子どもまで,学校教育現場で応用可能なプログラム(展開例)を紹介した。また,多様な環境を使用した展開例や,家庭や地域でも応用できる身近な素材を用いた展開例も,併せて紹介した。
第5章は,第1章から第3章までの理論編及び第4章の展開例と関連させながら,実際の学校教育現場での指導実践に取り組んでいる学校現場の先生方に,ことばや社会性,自主性・主体性に視点を当てたコミュニケーション支援に関する事例を,多方面から提供していただいた。理論編,展開編,事例編と縦の流れで見ていくと,より参考になるものと考える。
本書は,養護学校や特殊学級などの学校教育の現場で,実際に子どもたちを指導している先生や新任の先生を対象として構成しているが,学校教育現場以外の療育機関や病院,幼稚園,保育所,地域の児童館・児童センター等での実践,さらには家庭の中の実践にも活用できることを意図して計画したものである。
本書と同様に,〔障害児教育の新領域〕自立活動の計画と展開シリーズ<第1巻「認知発達を育てる自立活動」,第2巻「身体の健康・動きを育てる自立活動」,第4巻「音楽・遊具を活用した自立活動」>と併せて活用してもらえると,より実践的,効果的な指導が展開できるものと確信している。
最後に,本書の出版にあたり多大なる励ましと助言をいただいた明治図書出版の三橋由美子さんをはじめ,編集・校正できめ細かな配慮をいただいた編集部の方々に心から御礼申し上げたい。
2001年7月 編者 /小林 芳文・是枝 喜代治
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- 明治図書
- 授業の展開をどう進めたら良いのか、模索して、この本に行き当たりました。すぐに購入できると期待していました。しかしながら、手元に届かず、落胆しています。ぜひ、復刊なるようよろしくお願いします。2013/5/3