- 刊行にあたって
- 中学校1年
- 高見順「天」の授業◆レポート /田中 みどり
- 鳥も花も草も石も、隣に座っている級友もすべて、自分を存在させている条件であり、自分もまた他者を生かすす条件となる。「天」の授業を通して、生徒たちの周囲に様々な条件(縁)を見出させたい。
- 萩原朔太郎「竹」の授業◆レポート /西 智子
- なぜ二連構成であるのか、なぜこの順序なのか。地中の根のもつやわらかなイメージをよりゆたかな、成長しつづけるイメージへと発展的にとらえさせ、竹、命ののびやかな力強さをとらえさせたい。
- 中学校2年
- 三好達治「大阿蘇」の授業◆レポート /石野 訓利
- 現実は静かな世界である。しかし、詩の世界へさそい込まれる中で視点と対象とのひびき合いによって、静寂感と力動感が同時に感じられてくる。詩のもつおもしろさを十分に味わわせたい。
- 中学校3年
- 嵯峨信之「ヒロシマ神話」の授業◆レポート /平河 力
- なぜ「ヒ口シマ神話」という題にしたのだろうか。<神話>に焦点を当てながら、現在でも行われている原の実験を告発し、この詩の訴えかけている意味を深くとらえさせたい。
- 安水稔和「水のなかで水がうたう歌」の授業◆レポート /高橋 雅之
- 「私」とは何かという問いを通して、詩における美と真実の問題について真正面から授業する。佛教的世界観と美の弁証法的構造を、中学三年生にとらえさせたい。
- 長谷川龍生「理髪店にて」の授業◆レポート /別府 義廣
- 海底に眠る<鳥海>と<理髪店>とは何の関係もない。この授業では、日常生活のあれこれの現象をばらばらに見るのではなく、ある観点で関連づけることで、より深い意味を発見させたい。
刊行に当たって
ゆたかなイメージ化、ふかい意味づけをめざして
詩の授業は、むつかしい。どこを、どう扱っていいかわからないーと、言われます。
それは、ことばや文字がむつかしいからではありません。事がらがわからないためでもありません。むしろ、物語や説明文にくらべると、詩は、たいへん短く、〈ようす〉や〈きもち〉の読みとりもやさしいと思います。
だからこそ、授業を一時間ももたせるのが苦労すると言います。
でも、私ども文芸研では、詩ひとつ授業するのに一時間ではたりないくらいです。原則として二時間をとっています。
それは、ゆたかなイメージ化と、ふかい意味づけを目ざすからです。人間にとって幸せとは何か、ものの価値とは、生きるとはどういうことか・・・・・・など、ものごとの本質や人間の真実を、おもしろく、たのしく味わいつつ、おく深い授業をするためです。
もちろん、そのためには、<ことばの芸術>である詩というものについての科学−文芸学−と、<ものの見方・考え方>についての理論−教育的認識論−を、教師は学ぶ必要があります。
本書に収めた授業記録は、すべて西郷の文芸学と教育的認識論をふまえて教材研究され、指導案を立て実践されたものです。文芸研の半世紀に近い活動の成果をふまえたものであり、サークルの綿密な検討と、西郷の責任監修によって、みなさんの前に提示するものです。
詩の授業を、私は、展開法と層序法、および、両者の折衷法とに分けています。
展開法というのは、詩を一連から二連、そして三連・・・・・・と順序よく読みすすめていく方法です。詩の一行 一行を「てにをは」ひとつにも眼くばりしてイメージ化し、さいごに、ふかい意味づけへとすすみます。
層序法というのは、詩の全文を眼のなかに入れてする授業です(物語とちがって詩はきわめて短いので全文を見渡せます)。たとえば、くりかえされることば(反復・類比)に目をつけるとか、後先対比されるところをとりあげるとか、さまざまな形のとりあげ方がありますが、つねに全文を視野に入れて、あるところから切りこむという授業です。浅い層から深い層へと掘りすすめるような授業のことです。
もちろん方法に絶対的な理想的な方法というものはありません。すべて一長一短あります。それぞれの方法の特長をとらえ生かす工夫が必要です。詩によって、学級の実態によって、教師の力量によって、方法は選びとられるものです。本書の実践を参考に各自で自分の学級にあわせて工夫してください。
できれば、本シリーズの他の学年の実践も眼をとおしてくだされば、教材研究の上で、授業実践の上で、いろいろ参考になることが多いと思います。
なお、西郷文芸学と教育的認識論の基本を学んでいただくために、本シリーズのなかの西郷著『詩の授業−理論と方法』をぜひ一読ください。すばらしい詩数十篇をとりあげ具体的にやさしく、くわしく講義しております。きっと役に立つはずです。
詩について、詩の授業について、興味・関心をもたれた方、さらに深く研究されたい方には、次の拙著をおすすめします。
『西郷竹彦文芸・教育全集』(恒文社)のうち、第9巻、第29巻、第30巻をお読みください。
一九九八年四月 文芸教育研究協議会会長 /西郷 竹彦
-
- 明治図書