- まえがき
- T 国語科話し言葉授業の目標と計画
- 一 国語科の総括目標と話し言葉授業の課題
- 二 国語科の学年目標と話し言葉授業の課題
- 三 国語科話し言葉授業の計画
- U 国語科話し言葉授業の方法
- 一 話し言葉の基礎学習
- 1 コミュニケーションの成立過程を重視する学習
- 2 発声・発音・話し方の基礎知識と技能を身に付ける学習
- 3 発声・発音・速度・音量を中心とした基礎学習
- 4 話し言葉のための文法の基礎学習
- 二 スピーチ学習の実際
- 1 目的に沿ったテーマの選び方学習
- 2 的確に聞きとり、的確に話すための学習
- 3 私の好きな言葉 〜自己紹介スピーチの学習
- 4 ひと夏の経験 〜体験スピーチの学習
- 5 私の提案 〜話の効果を確かめながら話す学習
- 6 将来の生き方を考える 〜インタビューの学習
- 三 話し合い学習の実際
- 1 話し合い学習の意義と方法
- 2 話し合いの技能を伸ばす学習
- 3 聞き合う力を育てる学習
- 四 ディベート学習の実際
- 1 ディベートは国語科の有力な学習指導法である
- 2 初めてのディベート学習のために
- 3 ディベート学習で何を育てるか
- 4 ディベート学習に向く論題とは
- 5 文学教材で生かすディベート学習
- 6 説明文教材で生かすディベート学習
- 7 取り立てたディベート学習
- 五 理解との関連学習の実際
- 1 文語調表現に慣れる学習
- 2 小説の感想発表の学習
- 3 選択国語「言語表現」の学習
- 4 選択国語「奥の細道」の学習
- 六 「話し言葉」(言語事項)の指導と評価
- 1 目標と指導と評価の一体化を図る
- 2 表現と理解に役立てるための基礎力を養う
- 3 言語(言葉)に対する意識・認識・尊重の態度を養う
- 4 情意的評価・形成的評価・自己評価を重視する
- V 国語科新しい学力観に立つ評価と授業改善
- 1 関心・意欲・態度を育てる指導と評価
- 2 自己学習力を育てる指導と評価
- 3 個性が生きる指導と評価
- 4 情報化に対応できる指導と評価
- 5 適切な表現力を高める指導と評価
- 6 的確な理解力を高める指導と評価
- 7 論理的な思考力を養う指導と評価
- 8 豊かな想像力を養う指導と評価
- 9 語彙や言語感覚を豊かにする指導と評価
- W 国語科新しい学力観に立つ指導計画・評価研究と授業改善
- 1 目標・指導・評価の一体化を図る授業改善
- 2 新しい学力観に立つ教材の開発と授業改善
- 3 新しい学力観に立つ指導計画と評価計画
- X 言語教育としての話し言葉授業概史
- 1 「国語科」の成立とその目標
- 2 最初の国定教科書に見る標準語教育
- 3 大正期・昭和初期の国語教育と話し方の授業
- 4 「国民科国語」の制定とその目標
- 5 第五期国定教科書に見る話し方の授業
- 6 戦前の国語教育と話し方の授業
- 7 終戦直後の国語教科書と学習指導要領
- 8 戦後の話し言葉授業の概要
- 9 戦後の中学校教科書に見る話し言葉教材
- 10 二一世紀の表現指導への提言 〜論理的な表現力の基盤を培う〜
- 初出論文およぴ参考文献
- 話し言葉に関する寸言抄
- あとがき
まえがき
「国がきみのために何をしてくれるかではなく、きみが国のために何ができるか、それを問いたまえ」---当時大学生であった私は、若き米大統領の就任演説のこの一節に心動かされたことを記憶している。一九六一年一月二〇日、ジョン=F=ケネディは四三歳。私は十九歳であった。日本は、いわゆる六〇年安保の後遺症が残っていて、このケネディの演説は、私に強烈な印象を与えたものだった。---あれから、三六年もの月日が経った。しかし、ふっとこの演説の一節を私が思い起こすのはなぜなのか。それは、聞き手であった当時の私自身の心境や私をとりまく環境か、話し手である若きケネディの熱弁や演説内容か、はたまた混迷する世界情勢の中の日本という時代ゆえか、おそらくそれらのいくつかの条件が重なり合って、私の心底に深く沈潜していたのに違いない。
私はまた、私自身が中学生であった卒業式での竹森直次郎校長先生の式辞、「人生の長さは有限であるが、深さは無限である」の一節を思い起こすこともある。もう、四〇余年も昔の話である。入学式や卒業式の学校長訓辞を覚えている友はまれである。なぜ私は記憶しているのか。十五歳の春の高校受験を無事終えた安堵感からか、また人生とは……と小さな胸をふるわせて悩んでいた思春期だったからか。これもまた、聞き手と話し手とが、一回限りの卒業式という公的場面でコミュニケーションが成立したというべきであろうか。
人は、生きていくそれぞれの場面や状況の中で、だれでもが右のような経験を積んできている。そして、それら片言隻語が、その人を支え、励まし、勇気づけ、生きる力の源とさえなるのである。私には、右の二つの事例以外にも挙げれば数多くの「話し言業」の片言隻語が心底深く沈潜している。
ところで、本書は、一九九〇年代の私自身の授業実践を基に、研究紀要、学会や研究会、単行本や雑誌等で発表したものを加筆修正して編んだ内容が中心となっている。一冊にまとめるにあたり、第T章には「国語科話し言葉授業の目標と計画」を新しく書き下ろした。国語科の目標と話し言葉の目標との関連および実践可能な授業計画案を提示した。第U章では「国語科話し言葉授業の方法」として、話し言葉の基礎学習、スピーチ学習、話し合い学習、ディベート学習、理解との関連学習の実際を示した。本書の中心となる内容である。未だ十分な実践とは言えないが、中学生と私との楽しい学習の歴史の一コマであり、時に、行きつもどりつしながらの葛藤の一コマでもある。しかし、私は中学生と授業していることが楽しいし、また、私の生きがいでもある。生涯学習の基盤としての「話し言葉」の力を中学生に身に付けたいという私の願いと同時に、私自身が授業を通して「話し言葉」の自己学習をしているからに違いない。第V章と第W章では「国語科新しい学力観に立つ評価・指導計画と授業改善」を中心に述べた。「話し言葉」を含め国語科全体の評価と授業改善を新しい学力観に立って考察した。国語科における「話し言葉」の位置付けを考えるためである。第X章では「言語教育としての話し言葉授業概史」を提示した。「話し言葉」に関する私自身の勉強のための概史ノートといった内容となっている。
情報の発信者としての自己表現力、異文化理解のためのコミュニケーション能力、目的や相手や場面に応じて適切に表現できる言語主体者の育成、相手の立場や意図を的確に聞き取る力、論理的な思考力や表現力の重視……いずれも国語科の今日的課題であり、二一世紀に生きる力を支える人間の基礎学力でもある。本書がそれらの課題解決に少しでも役に立てれば幸いである。
一九九七(平成九)年一月一日 /花田 修一
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- 明治図書