- はじめに
- T 子どもは変わった
- 一 食生活の変化
- 1 食の細い子どもたちの出現
- 2 飲み水を持参し始める――飲食の自衛の始まり
- 3 下手な箸使い――会席料理を避ける
- 4 箸の持ち方の妙案
- 5 「ご馳走の」が無くなった
- 6 食が学力を高める
- 7 家事能力の低下
- 二 社会的権威の変化
- 1 薄れる権威――反発する対象の消滅
- 2 「悪」の文化を避ける子どもたち
- 3 花形スポーツは野球からサッカーへ
- 4 ノーベル賞の関心薄い
- 5 言葉の省略――手抜きの始まり
- 6 善悪の境界がボーダーレスになる
- 7 少年の主張――圧倒的に女子が優勢
- 三 孤立化する子どもたち
- 1 教室でのひとりぼっち化
- 2 社会の中の孤立化現象
- 3 大人になりたくない――目指す人、身近に不在
- 4 相談相手がいないもの14%
- 5 放課後の心――居場所は自分のお部屋
- 6 外遊びだけは人見知りを作る
- 7 表現できない日本人らしさ
- 四 子どもの五感の変化
- 1 眠らぬ子守唄――短調にむずかる
- 2 小さな声――乳幼児期に泣かなかったからか
- 3 内股歩き――下駄履きの廃れ
- 4 夢の色がカラーになる――擬似と現実の区別が消える
- 5 泳げない子どもが三分の一
- 6 少なくなった音痴の子ども――お稽古の賜物か
- 7 子どもの漫画読解力が成績と結びつく
- 8 歩かなくなった子どもたち
- 五 少年問題の噴出と対応策
- 1 行動障害の増加
- 2 教育支援センターの役割
- 3 「熱心」な生徒指導の限界
- 4 ユニークな児童養護施設
- 5 官民協同の不登校対策
- U 学校の中の子どもたち
- 一 教室の中の子どもの変化
- 1 クラス替え――落ち着かない新たな関係
- 2 算数――小一の三割が苦手意識を持つ
- 3 基礎学力の習得――プリントより教科書に効果
- 4 必達目標――保護者に数値を示し実践
- 5 少人数学級――習熟度別で効果が高い
- 6 安全教育の見直し
- 7 通年制の導入――学力把握きめ細かく
- 二 中学生問題に向かい合う
- 1 十二歳問題――心の奥底に潜むストレス
- 2 不登校―― 一年生の二学期が危ない
- 3 夏休みが充実しない一年生
- 4 わからない――曖昧な返事に危機感をもつ
- 5 合唱コンクール――クラス団結の総決算
- 6 生徒会活動――新聞発行で盛り上げる
- 7 十五歳の春――少年自然の家で過ごす
- 8 全寮制の公立中学校の創設
- 三 多様化する高校生たち
- 1 埴輪スタイル――学校と街の境ない女子高校生
- 2 インターハイ――運営支える高校生に感動
- 3 高校生――三間(時間・空間・仲間)があれば燃焼
- 4 入試――「失敗の研究」で惓土重来
- 5 職業観の形成――アルバイトを単位化する
- 四 無気力の大学生と意欲ある大学生
- 1 消えた五月病――大学に期待しない
- 2 ペンを落とす学生――力強い字を書こう
- 3 身体を動かさない学生
- 4 政治不信――一票に込めた願い、届くように
- 5 大学生の社会貢献の道――お兄さん、お姉さん役の期待
- 6 エコキャンパスづくり――環境ISO取得推進
- 7 卒論――こだわりを足で調査
- 五 大学生の友と涙と飲酒
- 1 晩酌文化の復活
- 2 成長感覚をなくす――酒の銘柄で自覚した
- 3 男の涙は武器か
- 4 歓迎コンパ――議論の場、今や昔
- 5 口上文化を復活させよう
- 6 仕切り屋がいなくなった
- V 家庭・学校・地域のトライアングルで子育て
- 一 教師の可能性を探る
- 1 若い教師――増えると子どもも学校も元気になる
- 2 農民剣士の町――一人の教師の努力で根づく
- 3 退職教員の活躍――同じ目線に立つ大切さ
- 4 家庭訪問――教師の肩書きはずし家庭観養う
- 5 職場の育成力――教員の力量、十年で大差
- 6 卒業式――子どもの思い出作り
- 7 リーダー育成の試み
- 8 遊びの効果――学校での怪我の減少
- 二 学校改革の視点
- 1 開かれた学校――多様なニーズに応える
- 2 学校支援ボランティアのすすめ
- 3 ユニークな学校支援ボランティア
- 4 学校のトイレを見直す
- 5 学校の危機管理の徹底化
- 6 食育のすすめ
- 7 ユニークなキャリア教育
- 8 自尊感情を育てる
- 9 学校週五日制の定着
- 三 家庭教育の見直し
- 1 低学年の成長――家庭が学校に勝る
- 2 一家族一実践――家族の絆を深める機会
- 3 子どもの願い――根強い「家族・成績・お金」
- 4 しつけ――後片づけ指導に手を焼く教師
- 5 生活上の疑問――大人が避けてきたツケ噴出
- 6 金銭教育――サラリー授与式のすすめ
- 7 努力のすすめ
- 8 交換ホームステイのすすめ
- 四 地域の教育力を構築する
- 1 運動会――花火は都会では騒音
- 2 荒れる成人式――青年たちは井の中の蛙のよう
- 3 早寝運動のすすめ――早寝の子どもは非行に走らない
- 4 通学合宿――利便社会からの脱却の手助け
- 5 放課後の居場所づくり――漫画や塾に負けない魅力を
- 6 母子で料理――シングルマザーを支援
- 7 高知国体――地域・学校ぐるみで選手育成
- 8 学童農園の活用
- 9 山村留学のすすめ
- 10 子どもにあった自然体験のすすめ
- 結びにかえて
- あとがき
はじめに
阿部進氏が現代っ子論を世間に提案したのは昭和三十四年である。新しい子どもの出現を鋭い感覚で子どもが何を感じ、何を求め、自分たちの生活をどう変えようとしているか、リアルに描いた。
それ以後有名な現代っ子論争が噴出する。多くの識者は子どもの早い変化についていけなく、阿部氏が主張する子どもたちを捉えきれなかった。子どもは変わっていない、純粋さを見失ってはいけない、と主張するにとどまった。
阿部氏は「今の子ども」と「現代っ子」は異なると力説する。彼のいう現代っ子は、次の特徴を持っていた。
1 世の中を変えていく可能性を持つ
2 今の社会の約束事を身につけている
3 自分の生き方は自分で決める
4 要求を突きつける子ども
5 変わり身の早さを身につけている
子どもたちが社会の中で息をし、そこに埋没するのではなくたくましく生きている姿を浮き彫りにしたのである。まさに社会性を身につけた子どもたちの出現を認めたのである。彼らは後に団塊の世代になる。大学に入学後学生運動を体験する。
四十年以上たった今、現代っ子は当時の固有名詞から普通名詞に変わっている。子どもについて語るとき、いつでもどこでもこの言葉が使われる。言葉の持つ意味が変わってきた。独自の文化を持った子ども集団が消滅してしまっている。
子どもの特性が見えにくくなっている。掴み所のない子どもが出現している。と同時に社会性を持った子どもたちが消えてしまっている。生きる力を失った子どもたちが出現している。どこを切っても同じでひ弱な金太郎飴みたいな姿しか見せなくなっている。
子どもは社会を写す鏡である。子ども問題は社会問題でもある。社会自身もつかみ所のない時代に突入している。このままでは決してよくない。正面から社会システムの在り方を変えなければならない。
具体的には家庭と学校、それから地域社会の在り方の変革である。例えば、午前八時から午後三時までは学校が面倒を見る(学力をつける)。午後三時から午後六時までは地域が面倒を見る(放課後の世界を豊かにする)。午後六時から午後八時までは家庭が面倒を見る(基本的な生活習慣を身につけさせる)。
それぞれがバラバラで子どものしつけと教育を担うのではなく、パートナーシップを発揮するのである。家庭・学校・地域がトライアングルで子育てをするのである。
本書は日本経済新聞の二年間にわたる「今どきの子ども」という連載コラムを再構成して作り上げている。子どもたちの何が問題であり、それに対して家庭、学校、そしえ地域社会が何ができるか提案したつもりである。阿部氏が提案した「現代っ子」に負けない子どもたちの育成の一助になることを願ってやまない。
平成一六年四月 千葉大学教授 /明石 要一
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