- まえがき
- 一 作文教育のめざすもの
- 1 言語と子どもの発達
- (1) 言葉が人間を作る/ (2) 言葉が失われていく
- 2 国語教育の課題と目的
- (1) 国語教育の課題と今/ (2) 国語教育の目的
- 3 作文教育の課題と目的
- 二 今、子どもにとって表現とは何か
- 1 今を生きる真実の表現
- (1) 他者とのコミュニケーション/ (2) 真実の自己表現/ (3) 子どもの認識の表現/ (4) 子どもの価値意識の表現
- 2 書くことで対象を認識し意味づける
- (1) 相手を媒介として意味づける/ (2) 意味づけは子どもの現実認識/ (3) 日常を意味づける/ (4) 書くことで自己対象化、自己認識する
- 三 作文指導の出発―作文を好きにさせる
- 1 表現に親しみ、喜びを引き出す
- (1) 自由に表現させる/ (2) 音声から文字表現へ/ (3) ほめること、みとめること、意欲こそ原点
- 2 表現意識を育てる
- (1) 表現の仕方をわからせる/ (2) ありのままに事実をよく見る、考える/ (3) 表現意識を育てる
- 四 認識と表現の力を育てる作文の読み方・読ませ方
- 1 意図・真実・認識を読む
- (1) 表現のよしあしで見ない/ (2) 意図を読む/ (3) 真実を読む/ (4) 認識を読む
- 2 意図をこえ、深い意味を読む―文章の虚構性
- (1) 文章の虚構性とは何か/ (2) 二つの視点で読む―作者の視点と読者の視点/ (3) 過去を現在の視点から意味づけて読む/ (4) 文章の虚構性と教育の可能性
- 五 認識と表現の力を育てる作文指導の方法
- 1 認識と表現の力とは何か
- (1) 認識と表現の方法とその系統/ (2) 関連系統指導で学ぶ/ (3) 表現の本質の学びが作文に生きる
- 2 認識と表現の方法を意識させる指導のポイント
- (1) 相手意識をもって書く/ (2) 目的意識をもって書く/ (3) 観点に基づき、反復表現で一貫する/ (4) 対比的表現で認識を深める/ (5) 違いと共通性に目を向けて書く/ (6) 順序―展開・変化・発展を考えて書かせる
- 3 認識を深める独自な方法・テーマ日記
- (1) 「テーマ日記」とは何か/ (2) 「テーマ日記」の指導と方法
- 六 人間観・世界観を育てる作文教育
- 1 ものごとの本質を認識させる
- (1) 自然認識を育てる/ (2) ものの本質を認識させる
- 2 人間認識を育てる
- (1) 労働する母親を認識する/ (2) 人間の真実を認識する
- 3 自己変革の主体を育てる
- (1) 自己を語る言葉を引き出す/ (2) 自己認識は生き方をかえる
- 4 教師におくる子どもの手紙
- ――上西先生へ ずっとずっとだいすき――
- 七 作文教育と作文指導について(対談)
- 1 なぜ書かせるのか
- (1) 表現より認識が基本/ (2) 作文は何のために書くのか
- 2 どのような作文を目指すか
- (1) 作文はなぜ嫌われるか/ (2) うまい作文よりいい作文を/ (3) 対読者意識・目的意識をもたせる
- 3 作文の読み方、評価について
- (1) 評価の基準―関連指導が生きているか/ (2) これが、達意の文章/ (3) 表現独自の問題―表現効果/ (4) 観点のずれか、新しい発見か/ (5) 書く中で、書いたことで認識が変わる
- 4 生活作文か空想・想像作文か
- (1) リアルに書かせるのは、教師の身勝手か/ (2) 二者択一に考えない―それぞれの役割がある/ (3) 観点を定めてリアルに見つめる
まえがき
最近の教育現場は、多くの教師たちが実感しているとおり、昏迷する文教政策によって、戦後、最低最悪の状態にあります。このままでは、子どもたちの花咲く可能性も芽生えのうちに枯渇せざるを得ない危機にあります。
この現状を打開する唯一の道は、子どもたちに「真の学力」を育てる教育を確立する以外にありません。
私ども文芸教育研究協議会(文芸研)は、創設以来、半世紀にわたる歴史のなかで、子どもたちを〈自己と自己をとりまく世界を変革する主体〉に育てあげるために〈のぞましい人間観・世界観の育成〉をめざして、ひたすら研究と実践を地道につみかさねてきました。
〈ものの見方・考え方〉(認識方法)の関連・系統指導の原理に立って、文芸の授業、作文の指導、読書の指導においては、西郷文芸学の理論と方法をふまえ、また、説明文の指導においては、説得の論法をふまえて、〈ゆたかな、ふかい認識・表現の力〉を育ててきました。
本シリーズ『文芸研の授業』は、私ども文芸研の過去半世紀の歴史の到達点を示す企画といえましょう。本シリーズの各巻とも、これまでの文芸研の全国大会に提出されたレポートを中心にまとめたもので、会内外のきびしい批判検討を経たものであります。
全国大会のレポートは、すべて、各サークルの月例研究会において討議をかさねたものを、年二回の全国規模の二日間にわたる合宿研究会に提出し、厳正、綿密な検討を受けたものを大会分科会に提出します。勿論、分科会においては全国各地より参集された教師のみなさんによって、あらゆる角度から批判と助言を受けます。これらの成果をふまえ次の年度のレポートはさらに一層の研鑚をかさね、かくして一つの教材が多くの仲間たちによってすくなくとも十数年の長期の批判・検討を経たものになります。
本シリーズの各巻の執筆を担当した者は、以上の成果を充分に踏まえて、まとめております。したがって、本シリーズのすべての巻は、執筆者一個人の業績というよりも集団的な所産というべきものであります。
たとえ、すぐれたベテラン教師の教材研究・授業実践といえども個人の力量には限界があります。私どもは、仲間・集団の具体的な力の結集の上に一個人の限界をこえる成果を生み出すことをめざしています。
その意味において、本巻を手にとられた読者諸氏にもぜひきびしい、かつあたたかいご批判とご助言をお寄せいただきたいと願っております。
本シリーズは、文芸、説明文、作文、読書の領域はもちろん総合学習やその他の領域にもわたる実践がまとめられ刊行の予定です。
なお、本シリーズのどの巻も、概念・用語はすべて統一されております。一つの基本的な思想・主張・理論に基づいた実践である以上当然のことでありますが、読者にとっては、どの巻から読みすすめられても、概念・用語などの不統一でとまどわれることはあり得ないと信じます。すべての巻が相互にひびき合い、それぞれの成果を相乗的にせりあげるものになるはずです。
巻末には、執筆者とサークル員、監修の西郷との対談あるいは座談会の形式でいくつかの問題点をひきだし、解説を加えることにしました。参考になれば幸いです。
本シリーズでも、これまでと同様、企画から刊行にいたるまで、編集担当の庄司進氏の献身的な協力をいただきました。紙面を借りて厚くお礼を申し上げます。
二〇〇三年七月 文芸教育研究協議会会長 /西郷 竹彦
-
- 明治図書