授業研究に学ぶ高校新数学科の在り方

授業研究に学ぶ高校新数学科の在り方

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授業研究を有効に活用し、高校数学を面白くする!

「授業研究」は、授業改善の方策として、さらに教師の力量の向上の方策としていま改めて注目されている。数学観、数学的活動、評価の在り方、そして実際の授業実践例を、数学者、数学教育者の共同作業によってまとめている。


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ISBN:
4-18-508618-0
ジャンル:
算数・数学
刊行:
3刷
対象:
高校
仕様:
A5判 196頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

はじめに
第1章 高等学校の新しい数学教育
/長尾 篤志
1.教育課程実施状況調査から
2.高等学校数学科,授業改善の方向
3.評価の改善
第2章 数学を通した人間形成とは何か
/吉田 明史
1.数学教育の目的
2.数学教育の現状
3.高等学校のカリキュラム作成
4.人間形成を意識した取組
第3章 これからの数学観
/一楽 重雄
1.これまでの数学観
2.現状の問題点
3.何のための数学教育か
4.数学の特徴
5.構造としての数学と現実世界
6.評価の重要性
第4章 数学的活動とは何か
/渡邊 公夫
1.数学的活動
2.数学的活動の諸相
3.数学的活動の具体例 ――加法定理は語る(高校数学指導案)――
第5章 数学教育における授業研究
1.学習指導の現状と問題点
2.授業改善に向けて
3.学習指導案作成についての基本的な考え方
第6章 数学の学習指導に生きる授業研究
1.二次関数
予想する活動を通してコンピュータの利用を生かす /大橋 志津江
授業の計画/ 授業の記録/ 研究協議会の記録/ 授業の考察
2.三角比
定理を得る過程を追体験する /吉岡 淳
授業の計画/ 授業の記録/ 研究協議会の記録/ 授業の考察
3.場合の数と確率
身近な事象を題材にし,探究的な活動を通して数学のよさを味わう /茂木 悟
授業の計画/ 授業の記録/ 研究協議会の記録/ 授業の考察
4.数列
Excelを利用して数学的モデル化を行う /横澤 克彦
授業の計画/ 授業の記録/ 研究協議会の記録/ 授業の考察
5.論理
数当てゲームを通して論理的に考える楽しさを知る /村田 尚志
授業の計画/ 授業の記録/ 研究協議会の記録/ 授業の考察/ 高校数学の意義など/ 終わりに
第7章 高等学校数学教育理念の問題
/平林 一榮
1.我が国の高校数学教育の実績
2.初等教育と高等教育の理念的対立
3.教育における学問観
4.高等学校数学教育理念の研究方法
5.結語
付録 立方体の賽の目切り

はじめに

 生徒にとって魅力があり,力がつく数学の授業とはどのようなものでしょう。もちろん,このようなことに簡単に答えは出せないでしょう。でも,多くの先生方は,このような授業を創るにはどのようにすればよいのかと日々悩んでおられるのではないでしょうか。また,何かを変えなければと思いながら,いつしか日常的な忙しさの中に埋没して,いつもと同じような授業をしてしまっている先生もおられるでしょう。

 このような状況を少しでもなんとかしたい。こんな想いで,数学教育者,数学者が共同で取り組んで作り上げたのが本書です。高等学校の数学教育に関心のある方々に,ぜひ本書をお読みいただきたいと思います。

 高等学校の教育を考えることを難しくしていることの要因の一つにその多様性があります。高等学校には,全日制,定時制,通信制の学校があり,また,学科には,普通科,専門学科,総合学科などがあります。そして,高校生の数学の力や数学への興味・関心は,小中学生のものよりも広がっています。また,最近では,情報技術(IT) が大きく取り上げられていますが,先生方の対処の仕方は様々です。高等学校の数学の授業とひとくちにいっても,このような多様な状況の中で行われているのです。

 しかしながら数学の授業は,どのような高等学校でも行われており,そこには,高校生がいます。私たちは,全日制,定時制,また,普通科,家政科,総合学科などで数学の授業を工夫して試みてみました。また,コンピュータを積極的に取り入れた授業と手作りの教具をもとにした授業も行いました。これらの授業を通して,私たちがもっとも勇気づけられたのは,どのような状況においても,高校生は自ら数学をしていたことです。

 高等学校の数学教育を改善するには,高等学校教育の意義や大学との接続の在り方など大きな課題を抱えていますが,一方で日頃の授業を変える必要があることは多くの人が認めるところだと思います。そこで,私たちは,授業に着目しました。しかしながら,高等学校の授業を変えるのは簡単ではありません。高等学校では授業をお互いに見せて批評し合う習慣が少なく,仕方なく,多くの場合には,自分が受けてきた授業のいずれかを無意識のうちに模倣して行っているのではないでしょうか。そこで,私たちは,授業を変える手立てとして「授業研究」に着目しました。

 授業研究は,教材開発や指導方法や評価方法などのカリキュラムの改善を目指して,授業を意図的に計画し,実践し,分析するものです。そして,授業研究は,教師がグループを組んで行ったり,よき助言者を得て行ったりすると一層有効になります。

 このような授業研究は,我が国の小学校においては従来から頻繁に行われておりましたが,中学校,高等学校と学校段階が上がるに従い影が薄くなっていました。一方,近年アメリカを中心として欧米では,日本で発展した授業研究を現職教育の一貫として積極的に取り入れようとしています。授業研究は,授業改善の方策として,さらに,教師の力量の向上の方策として,改めて注目されているのです。

 数学の授業は,教育の目的,数学の本質,生徒の数学的思考,教師の在り方などによって支えられています。そこで,本書では,これらについて,数学教育者,数学者のそれぞれの立場から述べてみました。また,そこでは,現在の高校数学が抱えている幾多の問題や課題,例えば,数学観,数学的活動,評価の在り方等についても触れております。

 本書は,最初に述べましたように,数学教育者,数学者の共同作業によって作り上げられたものです。数学教育は,この両者の連携によって作り上げられるべきものであることはいうまでもありませんが,とりわけ,高校数学の目標や内容の検討では重要なことです。本書の作成過程においては,教材の検討,研究授業とその協議会,そして,原稿の検討とあらゆる場面でこの両者の連携を図るようにしました。


 本書の執筆者は,次の通りです。(掲載順:勤務先は2004年4月現在)

   /長尾 篤志  国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部(併任:文部科学省初等中等教育局教科調査官)

   /吉田 明史  奈良県教育委員会事務局学校教育課(前:国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部)

   /一楽 重雄  横浜市立大学大学院総合理学研究科

   /渡邊 公夫  筑波大学大学院数理物質科学研究科/アドミッションセンター

   /国宗 進  静岡大学教育学部

   /大橋 志津江  東京都立桐ヶ丘高等学校

   /吉岡  淳  奈良県立生駒高等学校

   /茂木  悟  宮城県立名取高等学校

   /横澤 克彦  長野県上田千曲高等学校(前:長野県野沢北高等学校)

   /村田 尚志  山口県立下関西高等学校(前: 山口県立光高等学校(定時制))

   /平林 一榮  広島大学名誉教授


 なお,本書に示されている考えは,執筆者の個人の考えを述べたものであり,執筆者の所属機関を代表して述べたものではありません。


 最後に,本書の成り立ちについて触れておきます。

 私たちは,1999年度から2002年度まで4年間にわたり,高等学校の数学教育について研究を行ってきました。1)

 この研究では,高等学校の数学教育と理科教育について,我が国の教育課程,学校における指導の実態,高校3年生の達成度,諸外国の状況,有識者の意見などについて実証的なデータを収集し,整理し,その上で,今後の数学教育への提言2)などを行ってきました。

 実は,この研究計画を立てた1997年頃には,我が国の高等学校の教育の状況については,大学受験に関するデータだけは豊富でしたが,高等学校で何が行われ,高校生は何を身に付け何を考えているのか,また,人々は高等学校についてどのように考えているのかなどについて,我が国全般の状況を表すデータはありませんでした。そして,ちょうどこの研究が始まった頃,大学関係者から大学生の学力低下が叫ばれ始めました。

 この研究で行われた高校3年生の数学の達成度についての全国調査からは,理数系の3年生の数学の問題解決能力は過去とあまり変わっていないと推測されるような結果が出てきました。ただ,このような理数系の生徒も数学に自ら取り組もうとする態度が弱かったり数学と社会がつながっているという意識が薄かったりしたのです。一方で,高校3年生全体を見ると,数学の楽しみを味わわなかったり数学の基本的な力を身に付けなかったりして高校を卒業していってしまう生徒が少なからずいることも分かりました。

 高校数学の在り方を,その理念とその授業の両面から考える必要性を改めて強く感じました。


 この研究を進めるに当たり,非常に多くの方々にお世話になりました。とりわけ,本書にかかわる授業研究の遂行に際しては,各学校の学校長をはじめ教職員の皆様方,生徒の皆様にご助力・ご援助をいただきました。また,本研究会で特別講演をしていただきました平林一榮先生には,その講演内容の「高等学校数学教育理念の問題」のご寄稿を快くお引き受けいただき,心より感謝申し上げます。そして,本書の出版に当たっては,明治図書の石塚嘉典氏・阿波理恵子氏に大変お世話になりました。

 これらの方々に対し,心より感謝の意を表します。

  2004年8月/長崎 栄三(研究代表者・国立教育政策研究所)


注1)日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究A「高等学校の科学教育改革に関する総合的研究」。国立教育政策研究所から2003年3月に次の5冊の最終報告書が刊行されている。

 1.『高等学校の理科教育と数学教育』

 2.『高等学校の理科・数学教育の改革への提言』

 3.『高等学校の数学の授業と授業研究』

 4.『世界の高等学校の数学教育 T』

 5.『世界の高等学校の数学教育 U』

注2)高等学校の数学教育への提言(『高等学校の理科教育と数学教育』pp.10-16)

 1.高等学校の数学の性格――数学本来の性格を生かした授業をしよう――

  提言1 数学の自律性を尊重する。  提言2 数学本来の面白さや有用性を大切にする。

 2.高等学校の数学教育の目標――人間を育てる視点を大切にしよう――

  提言3 数学が人間形成に果たす役割を基盤に置く。

  提言4 数学的な見方や考え方を身に付け,そのよさを感得することを中心に置く。

  提言5 数学的活動の充実を図る。

  提言6 数学が文化や社会において活かされていることを示す。

 3.高等学校の数学教育の内容――豊かな数学的世界が感じられるものにしよう――

  提言7 生徒の多様性に応える科目編成にする。

  提言8 豊かな数学的世界が感じられるまでの内容を用意する。

  提言9 純粋数学と応用数学を両輪とする内容を考える。

  提言10 情報技術を活用する数学に取り組む。

 4.高等学校の数学教育の指導――生徒が中心の数学教育にしよう――

  提言11 数学の学習観,数学の授業観を問い直す。

  提言12 教材についての生徒のわかり方にこだわる。

  提言13 授業における相互作用を活性化する。

  提言14 授業研究を行い,よい授業例を集約し,共有する。

 5.高等学校の数学教育の評価――生徒の学習状況を多面的に見るようにしよう――

  提言15 評価によって生徒の数学を学ぶ能力を伸ばすようにする。

  提言16 数学への関心・意欲・態度はもとより,協力する能力などを評価する。

  提言17 評価方法を工夫する。

  提言18 生徒の評価を数学の授業改善や教育課程の改善に活かす。

 6.高等学校の数学教育を取り巻く環境

  提言19 生徒や教師がゆとりを持って学習指導できる環境を整える。

  提言20 生徒がどのような学力を身につけることができるのかを明示する。

  提言21 数学教師,数学者,数学教育学者の一層の交流を図る。

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