- はじめに
- 「感覚・運動」の指導
- Q1 人から触れられることが苦手な子への指導は…?
- Q2 音や音楽に過敏に反応する子への指導は…?
- Q3 偏食のある子への指導は…?
- Q4 姿勢を保持することが難しい子への指導は…?
- Q5 排泄が自立していない子への指導は…?
- Q6 手先が不器用な子への指導は…?
- Q7 動作模倣が苦手な子への指導は…?
- Q8 利き手がなかなか定まらない子への指導は…?
- Q9 列に並べずフラフラしてしまう子への指導は…?
- Q10 体育などの運動系の活動が苦手な子への指導は…?
- 「情緒・行動」の指導
- Q11 情緒が不安定になりがちな子への指導は…?
- Q12 落ち着きがなく多動傾向の見られる子への指導は…?
- Q13 整理整頓が苦手な子への指導は…?
- Q14 不安傾向が見られる子への指導は…?
- Q15 なかなか着席できない子への指導は…?
- Q16 行動が全般的に遅い子への指導は…?
- Q17 忘れ物が多い子への指導は…?
- Q18 パニックを頻繁に起こす子への指導は…?
- Q19 マイペースの強い子への指導は…?
- Q20 こだわりの強い子への指導は…?
- Q21 すぐに物を投げてしまう子への指導は…?
- Q22 何にでも拒否をする子への指導は…?
- Q23 何でも人のせいにしてしまう子への指導は…?
- Q24 すぐ人にちょっかい(手)を出す子への指導は…?
- Q25 何にでも乱暴にかかわる子への指導は…?
- Q26 けんかばかりしている子への指導は…?
- Q27 すぐに飽きてしまう子への指導は…?
- Q28 よくしゃべるけど行動がコントロールできない子への指導は…?
- Q29 勝ち負けにこだわる子への指導は…?
- Q30 叱られているのに笑ってしまう子への指導は…?
- Q31 自由場面での過ごし方が難しい子への指導は…?
- Q32 問題行動をどのように捉えればよいでしょうか?
- 「言語・コミュニケーション」の指導
- Q33 ことばがなかなか出ない子への指導は…?
- Q34 発音が不明瞭な子への指導は…?
- Q35 相手とコミュニケーションをとることが苦手な子への指導は…?
- Q36 質問にうまく答えられない子への指導は…?
- Q37 その日の出来事を振り返ることが難しい子への指導は…?
- Q38 指示が通りにくい子への指導は…?
- Q39 話が一方的でやりとりにならない子への指導は…?
- Q40 思ったことを口に出してしまう子への指導は…?
- Q41 人前で発表することが苦手な子への指導は…?
- 「対人・社会性」の指導
- Q42 人への興味が弱い子への指導は…?
- Q43 友だちができず,いつも1人でいる子への指導は…?
- Q44 相手との距離感がうまくとれない子への指導は…?
- Q45 グループ活動に参加することが難しい子への指導は…?
- Q46 ルールを守ることが難しい子への指導は…?
- Q47 子どもの「対人関係の力」はどこを見ればわかりますか?
- 「学習の基礎・土台」の指導
- Q48 興味がなかなか広がらない子への指導は…?
- Q49 名称がなかなか覚えられない子への指導は…?
- Q50 文字を読むことが難しい子への指導は…?
- Q51 文字を書くことが難しい子への指導は…?
- Q52 文字が上手に書けない子への指導は…?
- Q53 話すことに比べて,書くことが苦手な子への指導は…?
- Q54 ジャンケンがうまくできない子への指導は…?
- Q55 算数の基礎(土台)が身についていない子への指導は…?
- Q56 机で勉強する前にどのような力を身につければよいですか?
- 「教科」の指導
- Q57 【国語】音読で読み間違いが多い子への指導は…?
- Q58 【国語】拗音や促音が身につかない子への指導は…?
- Q59 【国語】助詞の使い方がわからない子への指導は…?
- Q60 【国語】漢字の読み書きが苦手な子への指導は…?
- Q61 【国語】文章読解が苦手な子への指導は…?
- Q62 【国語】作文が苦手な子への指導は…?
- Q63 【国語】読書感想文が書けない子への指導は…?
- Q64 【算数】たし算,ひき算ができない子への指導は…?
- Q65 【算数】文章題が苦手な子への指導は…?
- Q66 【算数】時間の概念の理解や時計の読み方が難しい子への指導は…?
- Q67 【音楽】歌をなかなか歌わない子への指導は…?
- Q68 【音楽】リコーダーの演奏が難しい子への指導は…?
- Q69 【音楽】子どもの発達を促進するためには,音楽活動をどのように行えばよいですか?
- Q70 【図工】学習面に比べ,絵が幼い子への指導は…?
- Q71 【全般】宿題をなかなかやろうとしない子への指導は…?
- 教師と保護者の連携
- Q72 子どもの現状をなかなか受け入れられない保護者にどのように対応すればよいですか?
- Q73 子どもを知るために,なぜ「発達」を学ぶことが有効なのですか?
- Q74 厳しすぎる指導(子育て)はなぜよくないのですか?
- Q75 「イメージする力」を育てることはなぜ大切なのですか?
- Q76 就学に関する不安があるのですが,どうすればよいですか?
- Q77 通常の学級から特別支援学級に転籍する際,どのようなことを大切にすればよいですか?
- Q78 兄弟姉妹への配慮をどのように行うとよいですか?
- Q79 教師の専門性はどこにあらわれますか?
- Q80 教師は保護者とどのように向き合えばよいですか?
- Q81 保護者は担任教師に子どものことをどう伝えればよいですか?
- Q82 保護者は担任教師にどのような配慮をしてもらえばよいですか?
- Q83 クラスの中でうまく対応できないときどうすればよいですか?
- Q84 子どもの記録はどのようにとればよいですか?
- Q85 子どもの情報はどのように生かせばよいですか?
- Q86 いろいろな人が子どもにかかわる場合,何に気をつければよいですか?
- Q87 障害の重い子には,どのような支援をすればよいですか?
- Q88 幼児期につけたい力にはどのようなものがありますか?(人間として必要な土台作り)
- Q89 幼児期につけたい力にはどのようなものがありますか?(就学前に身につける土台)
- Q90 幼児期につけたい力にはどのようなものがありますか?(教科学習の準備)
- Q91 どうして「要求の先取り」はよくないのですか?
- Q92 どうして子どもにむやみに質問をしてはいけないのですか?
- Q93 子どもに対し,おせっかいになるのはどうしてよくないのですか?
- Q94 どうして「だんだん」の感覚を育てることが大切なのですか?
- Q95 「繰り返し学習」は有効ですか?
- Q96 どうして子どもの行動を予測することが大切なのですか?
- Q97 どうしてユーモアのセンスを持つことが大切なのですか?
- Q98 子どものご褒美は,どのように考えればよいですか?
- Q99 ネガティブな行動に反応しすぎることはどうしてよくないのですか?
- Q100 子どもに応じるだけではよくないのはどうしてですか?
- 参考文献
はじめに
私は子どもの発達支援を専門にしている関係で,よく保護者から「こういうときはどうすればよいのか」という質問を受けます。最近では,学校や幼稚園などの先生からも同様の質問を受けるようになりました。また,講演を行うと,質疑応答の時間に必ずと言ってよいほど同じような質問を受けます。
子育てに「こんなときどうする」というトリセツ(取扱説明書)があったら便利なのかも知れません。しかし実際には,子どもによってケースは異なり,誰にでもぴったり合うQ&A集は存在しません。子どもの実態やかかわる大人の特性が違えば,せっかくのアドバイスも当てはまらなくなってしまうのです。
しかしながら,どの子どもにとっても大切なことというのは,紛れもなく存在するのも事実です。例えば,「子どもは合ったことをすれば伸びる」ということです。多くの場合,「これをやればよい」というように,まずは「教材ありき」というケースが見られ,どこかに子どもが置いてけぼりになっているのです。本当にそれでよいのでしょうか。
「この手遊びがよい」とどこかで聞きかじると,毎年のように取り入れる先生がいます。ただ取り入れるだけではなく,子どもが替わっても,全く同じ方法で行うのです。確かに,評判のよい指導法であれば,それなりの成果が期待できるのかも知れません。
しかし,例えば子どもが好きな「アルプス一万尺」で遊ぶとき,その遊びがちょうど合っている子もいれば,まだ難しい子もいるでしょう。このちょうどよいレベルから外れた子,すなわちその子にとってある活動が難しすぎるケースと易しすぎるケースにどう対応していくかということが,実はとても大切になってくるのです。
「アルプス一万尺」で言えば,難しすぎる子にとっては,最初に手拍子をしてから右手,左手と交互に手を出すのは困難である,というところからスタートし,例えば次のような遊びに変更していくことが考えられます。
(例1)ゆっくりとしたテンポで,相手と両手を叩き続ける
(例2)ゆっくり1回手拍子をしてから,相手と両手でタッチをする
(慣れてきたら,それぞれ2回ずつにする)
また,「アルプス一万尺」が易しすぎる場合は,自分たちで新たな動作を考えさせ,それを取り入れて楽しむことでよりクリエイティブな活動へと発展させることができるでしょう。
このように,「どうすればよいか」という質問に対しては,その子の様子や取り巻く環境に応じて,易しくも難しくもアレンジしながら,数えきれない種類の回答が考えられます。そして,そのことが,いわゆる「Q&A」の難しい面でもあります。繰り返しますが,私たちはその子に何をするかと考える前に,その子がどのような子であるかというアセスメントを徹底的に行い,それをもとに,「その子に合うこと」を,時間をかけて考えていく必要があるのです。
もう1点大切なことがあります。それは,子どもはかかわる「大人との関係性」で活動に向かう姿勢が大きく違ってくるということです。関係性によってやる気満々になることもあれば,全く指示に従わないなど,相手によって別人のようになってしまうのです。
ここで言う「関係性」とは,「相手と肯定的な気持ちを共有できる」ということです。それは例えば,一緒に食事をしながら目を合わせて「おいしいね」と言い合ったり,遠くに新幹線が走っているのを見て,「あっ,しんかんせんだ」と言い合うことを意味します。この関係性があるのとないのでは,大人と子どもの時間は全く違ったものになってしまいます。子どもに何かをさせる前に,まずは子どもとの信頼関係を築いていくことが大切になってくるのです。
以上の点を踏まえ,読者の皆さんは本書の回答を一人ひとりにアレンジしながら活用していただくことをお願いしたいと思います。また,本書では,質問項目を「感覚・運動面」「情緒・行動面」「言語・コミュニケーション面」「対人・社会性面」「学習面(基礎・土台)」「学習面(教科)」「教師と保護者の連携」に分けて紹介してあります。課題や問題行動に対しては,「なぜそうなるのか」という理由や原因を発達面や障害特性の点から触れ,その上で対応策を,具体例を交えて提案しています。具体例については,是非とも子どもに応じてアレンジを加え,実践に生かしていって欲しいと考えています。
子育てでは,何よりも結果を焦らないということが求められます。なかなか解決できない問題に対し,すぐに答えを出そうとせず,しばらくの間うまくいかない状態に置いておき,時間をかけてそれを味わい,体温で成長させ,さらに豊かな悩みへと育んでいくことが,実は最も早い解決への近道になるのです。大体の悩みは,「仕方ない」「何とかなるさ」と思っているうちに解決することが多いのです。うまくいかないようで,その間に子どもが育っていることは多々見られることなのです。
教師も親も,「子どもに迷惑をかけられることが仕事である」ということを常に頭に入れ,日々の教育活動や子育てに励んでいきましょう。そして,大人自身がリラックスして楽しみながら,子どもと接していくことを最大限心掛けていきましょう。
最後に,本書の執筆にあたり,貴重なアドバイスをしていただいた発達支援教室ビリーブの強力なパートナーである藤江美香さん(ビリーブ副代表)に心よりお礼申し上げます。
2020年3月 著者 /加藤 博之
発達が気になる子への指導・支援について考えたい者にとっては手元に置いておきたい一冊である。